高校生のとき、『チャンピオン鷹』という映画の試写会に行った。
 主演のユン・ピョウがやって来るというので、わたしと仲間たちはセーラー服のまま、会場へ駆けつけた。当時ユン・ピョウは香港俳優ではアイドル組だったんだな。柴田恭兵に似ててねぇ。

 『チャンピオン鷹』は、タイトル通り、とってもバカバカしいアクション・コメディだった。
 ユン・ピョウ演じる、カンフー使いのサッカー選手が弱小チームを率い、悪徳チームをやっつけていくっちゅー話。
 たのしかったけどね。サッカーのプレイのひとつひとつが、すべてカンフー技なのさ。フィールドで華麗に戦うのさ。
 あと、パーティでタンゴを踊りながら、悪漢どもをカンフーで叩きのめしていくのが、かっこよかったなあ。

 今、巷で有名な『少林サッカー』の話を最初に聞いたとき、わたしは『チャンピオン鷹』を思い出したよ。
 でもさ、この『チャンピオン鷹』って、誰も知らないのよねえ? なんで? 誰に言っても通じないんだけど。
 ユン・ピョウ、わざわざ日本までやってきて、宣伝してたのよ?
 わたしたちが見に行った試写会では、主題歌まで歌ってたのよ?
 You are champion〜♪ とゆー、音痴な歌声を、わたしは今も鮮明に覚えているわ。サビだけなら歌えるわ。

 誰も知らないその『チャンピオン鷹』の記憶を持つわたし。
 最初に『少林サッカー』の名を聞いたのは、やはりなにかの試写会場でだった。
 入口で、ちらしをもらった。そして、
「本日は『ワンス&フォーエバー』と『少林サッカー』の予告をごらんいただいたあと、本日の試写作品(なんのときだったか忘れた。月に何本か見るもんだからさ)本編を上映いたします」
 と、司会のおねーさんが言っていたんだよ、たしか。
 で、『ワンス…』の予告を見、「次は『少林サッカー』ね」と心構えていたら。
 あら? その日の試写本編がはじまった。
 『少林サッカー』の予告は? 入口でちらし配って、司会者も予告流すから見ろっつってたじゃん。
 『ワンス…』だけ予告を流して、『少林サッカー』はナシかい。
 思わず、そのとき一緒だったWHITEちゃんとふたりで笑っちゃったよ。ちらしを見ただけでも、くだらなさそーなのがわかる作品で、予告編すら上映すると言っておきながらされないなんて。
 なにもかも、ツボにはまるじゃないか。

 なんてことがありながら、ずっとずっと気になっていたのよ、『少林サッカー』。
 昨日、前の職場の仲間たちと、梅田で集まることになっていた。
 失業中仲間のわたしときんどーさんと松竹ちゃんは、先に梅田に出て、映画を見ましょう、ってことになったんだが。
 きんどーさんと松竹ちゃんは、『模倣犯』を見ると言う。ごめん、わたしそのタイトルはお金出して見る気ないわ。
 てことで別行動。わたしはひとりで『少林サッカー』。

 おもしろかった。
 ほんっとに、おもしろかった。
 バカバカしさも、ここまでくれば感動だ。
 実際わたしは泣きながら見たさ。
 感動して。

 なつかしアニメ『侍ジャイアンツ』の実写版、と言えばいちばん近いかもしれない。
 番場蛮の投げる魔球を、実写で撮るとこーなる、みたいな。
 ぐるぐるまわって、10メートルは飛んで、竜巻起こしながらピッチング、んなわけあるかい(ビシッ!)、てな世界観。
 すばらしい。
 少林寺拳法の天才たちが、サッカーで大暴れ! 空は飛ぶわ、大地は割れるわ、炎はあがるわ、血しぶきも飛ぶわで、あべしひでぶなグローバルでグレイトな物語。

 痛快。
 このひとことだ。

 そしてわたしは根がロ〜マンチックな女。ラヴがないとつまらない。
 主人公シンと、ヒロインのムイの、じれったい恋がいいのよー(笑)。
 自分を醜いと信じ、髪で顔を隠し、いつもうつむいている暗い少女ムイ。彼女に「君は美人だ。もっと自信を持て」と言うシン。
 ここでふつーなら、ムイは美少女でなければならんのだが、ほんとに彼女は醜いんだなー。容赦なく。しかも、汚い。「髪をあげて、顔を出すんだ」とシンが彼女の髪をかきあげると……ハエが飛ぶの。うっわー、ここまでやるかー。
 身なりを整えれば美人、というお約束を、1段階複雑にしたのが、うまいところだわ。
 ムイが醜いのは、肌がイボだらけ、なせいなのよね。顔立ち以前に、生理的につらい顔にしてある。
 饅頭を買う金すらないシンが、「おれはビッグになる!」とキラキラ夢を語るのを見て、ムイもまた決意する。勇気を出す。エステの門を叩き、その醜い肌を治そうとするのだ。
 ただ、彼女が飛び込んだエステはかなり偏った美的感覚を持った店で、ムイは美人なのか化物なのか、感心していいのか笑っていいのかよくわからない「美女」に変身するんだよね……。
 そのややこしさも、好きだわ。単純に、「風呂に入って化粧したら、ああら美人だったのねー」にならないところが。

 あと、ラヴなところですごーくツボだったのは、シンの兄弟子のひとりが、死を覚悟してゴール前に立つところ。あの「鉄の肌」のおじさんね。
 おもむろに携帯電話を取り出し
 (サッカー選手がフィールドに携帯持って出るな!)
『どうしたの、あなた?』←電話の声
 (うお、奥さんいたんだ?!)
「お前に、20年間隠していたことがある」
 (に、20年?! どんな秘密が?!)

「お前を、愛している」カチャ、と電話を切る。

 (結婚して20年間、隠してたんかーーーいっっ!!)

 つっこみ入りまくり。
 この思わず入るつっこみと、「死を覚悟し、戦場に立つ男のかっこよさ」が、同時に存在するのよ、ああおそろしや。

 ファンタジーにいちばん必要なのは、世界観の確かさだと、しみじみ思うよ。
 この『少林サッカー』も、世界観が確立されているから、そのなかでならなんでもアリなの。
 なんでもアリ、というルールではない。あくまでも、やっていいこと悪いことのルールがあり、そこから逸脱しない限りはなんでもOK、ということ。
 このあたりは、センスの問題だよな。

 わたしはラストのオチまで含めて、「ファンタジー」として、この作品を愛する。
 きちんと作られた「異世界」は、見ていて気持ちがいい。
 見習いたいエンターテイメントだ。

 そして、久々に会った松竹ちゃんが、この『少林サッカー』をまったく評価していないことに、思わず強くうなずいた。そうでしょうとも。
 わたしと松竹ちゃんは、フィクションに関して、カケラも趣味が合わないのだ。
 わたしが感動する作品は大抵彼女は「見たけどなにもおぼえてない」で、彼女が好きな作品は、わたしにとってはただの駄作だったりする。
 なんかほっとしたわ。お互い、変わってないねえ(笑)。

 

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