我が家では、家族行事が最優先される。

 あれはいくつのときだったか。ある夜、父が言った。
「明日は家族で**へ遊びに行く」
 えっ、でも明日、わたしバイトだよ?
「バイトなんか休め。家族行事の方が大切だ」
 いやしかし、わたしが休むと他の人に迷惑が……。第一、前日の夜に休ませてくれなんて言っても、許可してもらえないよ。
「それなら僕が店長に電話をして話してやる」
 やめてよ、恥ずかしい。

 父を説き伏せ、友人に電話をして、バイトのシフトを代わってもらった。そのうえではじめて、店長に休むことと代理を伝達。
 大変だったなぁ。

 家族行事はいつだって最優先。子どものころからずっと。
 学校休んで家族で遊びに行く、とか、平気な家だった。
 学校の勉強より、大切なことがある。わたしの両親はそう言っていた。

 そのせいか、うちの家族は仲がいい。
 わたしは小学生のころから祖父母の家で育ったけれど、両親と弟が住む家には毎日顔を出しに行っていたし、弟も毎日わたしの家に遊びに来ていた。
 距離感がよかったのかもしれない。
 わたしは大人になるまで両親と一緒に家で食事をしたことがほとんどなかったし、会いに行くのを怠れば会わないままで過ぎる、という関係。そのためか、「家族4人で過ごすこと」には新鮮さと感動があった。

「家族で出掛けるの? 家族って、お父さんも? まさか、弟さんは一緒じゃないよね」

 なんて驚きの声をよく耳にする。
 高校生くらいのころから、ずっと言われてきた。
 みんな大きくなると、家族と一緒に出かけるの、嫌になるんだって?
「お父さんとなんか、ろくに口きいたことない」
 とか、言う子もいたなあ。
 わたしは父とよくデートするし、弟も母と山登りに出かけたりしている。姉弟で映画や買い物にも行くし、どんな組み合わせもアリで、とにかく仲良くやってるなぁ。子どものころも思春期のころも、大人になってからも、ずっと。

 こんな家庭に育ってしまったから、いいトシになってもまだ、家族行事優先しているのよ。

 今日は家族恒例の、夏休みPART.1。
 昔から、夏は家族で行楽地に遊びに行くことに決まっているの。第3週は旅行、とこれまたずっと決まっていて、それ以外の月曜日は日帰りで遊ぶ。

 朝一番から、お坊さんに来てもらって一足早いお盆の供養を済ませる。
 そのあとから、神戸に向かって出発。
 目的地は六甲山。
 ケーブルカーに乗って山上へ。そこからはハイキング。展望台やら植物園やら、太陽の黒点やコロナを見られる天文館やらを半日かかって見学。
 帰りはロープウェイで有馬温泉へ降りる。
 みんな、着替えは持ってきたな? とゆーことて、温泉で汗を流し、服を着替えて次はハーバーランドへ。
 港の夜景を見ながらディナー。
 帰宅したときは、日付変更まであとわずか。

 いやー、なんて元気な家族なんだ。
 今回のお出掛けのコーディネイトは父。なんか、ずいぶん前からうだうだと予定をたてていたぞ。

 友人知人から、「家族で出掛けるの?!」といちいちおどろかれる意味も、最近ではわかっているさ。
 見回せばわかるもん。
 今日だってそうだ。
 夏休みの六甲も有馬もハーバーランドも、家族連れであふれている。
 しかし、わたしたちのような年代の家族連れは、まったくいない。
 老人(と言ったら怒られるな。両親とも年齢よりはるかに若く見えるし、元気)と、大人(中年、と言うべきなのか? しかしわたしも弟も年齢通りに見られたことはまずない)の姉弟。
 老人のいるファミリーなら、孫がいるのが定番。中年なら夫婦行動、若ければ小さな子どもと一緒。
 30を過ぎた子どもたちとその親、というのは、まず見かけないなあ。まあ、わしらは30過ぎてるよーには見えんかもしれんが、20代としたって、妙だよなあ。なんで親と出歩いてるの? 恋人いないの? 友だちいないの?
 答え。恋人がいよーが友だちがいよーが、家族行事が優先なのだ。

 いつか、家族はばらばらになる。

 母はわたしが子どものころからそう言っていた。

 いつか、家族はばらばらになる。
 いつか、あんたたちは自分の家庭を持ち、巣立っていく。自分の家庭を第一とし、守り愛することになる。
 だから、「家族」でいられる間は、家族をやっていよう。
 わたしたち親が、親としてあんたたち子どもと遊んだりできるのは、長い一生の間の、ほんのわずかな間なんだ。
 あんたたちが「べつの家族」になってしまう時間の方が長いんだ。
 だから、「家族」でいられる間は、家族をやっていよう。

 つーことで、未だに家族行動。

 ひとから見りゃ、異様で気持ち悪いのかしらねえ。
 さすがに、植物園の広場にて竹馬で遊ぶ姉弟(30ちょい過ぎ。ちなみに姉は身長170近く、弟は180以上)と母(還暦)、それをうれしそーに
ビデオで撮る父(70まであとちょっと)の図には、客観的に見て「……どうよ?」とは思ったけどな。
 母は竹馬で歩けなくなっていたことに、ショックを受けていたよ。「昔はできたのに!」って、あんた自分のトシ考えなよ……。

 

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