家族4人で遅い夕食をとっているとき。
 わたしは「それ」に気が付いた。

 居間の隅には洗濯物が干してあった。
 洗濯バサミがいっぱいついたサークル状のハンガーに、靴下とかハンカチとかの小物が吊してあったんだが。

 そこに、妙なものが一緒に吊されていた。

 「新聞」。

 …………洗濯物と、新聞?

 とてもシュールな光景だ。
 新聞が1部、丸々吊されている。朝刊だ。第1面がちょうど見えている。

 言うまでもなく、新聞とは洗うものではないし、濡れたらそれでOUTなものである以上、乾かすという行為もあまり意味は持たない。てゆーかその新聞、べつに濡れた形跡もないし。

「それ、なに?」
 あきれたわたしが問うと、母は大声で叫んだ。

「そうそう、あんたに見せようと思ってたの」

 わたしに見せたい記事があったそうだ。
 だが、忘れっぽい母はそのことをおぼえている自信がなかった。どこか、目に付くところに新聞を置いておく必要があった。

「それで、洗濯ハンガー……?」

 ホワイトボードに切り抜きを貼っておけば、すむことじゃないのか?

「そんなんじゃあ、気づくまでに時間がかかったり、たまたま目に入らなかったりするでしょ。誰の目にも付いて、ものすごくおかしな光景だったら、誰かが『あれなに?』って聞くから、そのときに絶対思い出せるもの!」
 母は自分の素晴らしいアイディアにうっとり。

 つまりこれからも、珍妙なところにとんでもないものを放置し、他人を驚かせることによって自分の記憶を呼び起こすつもりか???

 脱力しながら、母から問題の新聞を受け取る。

 タカラヅカの、中国公演のことが載っていた。
 ありがとね、母。
 でもわたし、この写真のスターさんには興味がないのだよ……。

 

コメント

日記内を検索