「緑野ちゃん、また背ェ伸びた?」
 と、会うなり言われた。
 学生時代からの友人、ダイコに会うのはおよそ1年ぶりだ。

 またってなんだよ、伸びたってなんだよ。このトシで伸びたら気持ち悪いっつの。
 しかし、わたしとダイコの身長差はなんかずいぶんあるよーに見える。アタマ半分くらい?
 へ、へんだ。わたしとダイコは最初に会ったころ、ほとんど同じぐらいだったはず。そりゃまー、わたしの方が大きかったけど、わたし的にダイコは「わたしと同じくらい背が高い女」だった。

「ダイコこそ、縮んでない?」
 と言ってみたが、反論された。
 でもな、わたしは自称168センチの女なんだ。
「自称ってことは、ほんとはもっとあるってことでしょ?」
 と、つっこまれたって、肯定なんかしない。わたしは自称168センチ。コンマ以下切り捨て。Be-Puちゃんに「170センチに数ミリ足りないだけの、自称168センチの女」と、いちいち長々と評されているとしてもだ。
 ケロちゃんの「おとめ」に載っている身長が167センチだから、今のままでもわたしとしては不満なんだっ。わたしはケロちゃんより小柄な女でいたいのよ。それが女心ってもんさ。
 あー、そーだなー。次から身長聞かれたら「165センチ」って言うことにしようかな。身長なんて言ったもん勝ちだよね。

 と、しょっぱなから身長談義。
 へんだよな、昔わたしと同じくらいでかい女だったのに、今のダイコは理想的なスタイルのかっこいいおねーちゃんだ。
 わたしとダイコはよく、姉妹扱いされた。体格や髪型が似ていたせいだ。真っ黒で量の多いストレートな髪を、腰近くまで伸ばしていた。服の趣味も似ていて、あのころはけっこーおねーさん系の格好をしていた。色は黒が基本。原色やパステルカラーなんてもってのほか。ハタチくらいだったわたしたちは、若さの驕りで黒ばかりを張り切って着ていたもんだ。

 いやあ、トシをとると女は変わるね。
 わたしもダイコも、あのころの面影はないよ。ふたりとも、髪はばっさり切ったしね。わたしはここんとこずーっとショートだし、ダイコはさっぱり系のセミロング。
 服だって、黒一色なんでこと、しなくなったしね(笑)。
 わたしは赤がマイブームだから、今はとてもビビッド。夏ならではの派手なプリントものに走ってる。

 ダイコと滅多に会えないのは、彼女が大阪在住ではないからだ。会えるのは、実家に戻ってきたときだけ。
 とにかく、いつも突然なんだこいつは。今日にしろ、電話がかかってきたのが午後3時過ぎ。「あー、緑野は家にいるんだー」とか、失礼な第一声。
 いて悪いかよ。つーか、ここんとこで家にいたのは今日が久しぶり、毎日いなかったってばよ。
「なに、今どこよ?」
「んー、昨日から大阪帰ってきてる。つっても明日また東京戻るんだけど」
「おおそーか。で、わたしはどーすりゃいい?」
 電話をしてきたってことは、会おうってことだ。
 ダイコは甘えた声で言う。
「ねえねえあたし、『まんだらけ』行きたいんだけどー」
 まんだらけぇ? いやべつに、いいけどさ。
 わかった、そいじゃ梅田で会おう。
 ホームウェア、と言えば聞こえはいいが、つまりは外には出て行けないラフな格好でいたわたしは、あわてて身支度。着替えて、コンタクト入れて、化粧して、髪を整えて。

 そうして4時半には、ふたりで「まんだらけ」。

 「まんだらけ」っちゅーのは、マンガや同人誌、キャラクターグッズなど、オタク御用達品専門の古本屋だ。
 大阪・梅田の東通り商店街にある。
 昔はディスコだった店舗をそのまま利用。
 ダイコとふたり、まんだらけの店内を歩きながら、しみじみと話す。
「昔よく踊りに来たよねえ」
「まさか昔よく来た店が、こんなふうになるなんて、思ってなかったよねえ」
 なまじ、昔の面影が残ってるからな。この店。
 しかし。
「いちばん『まさか』なのは、このトシになってもオタクやってて、マンガや同人誌を読んでることだよ」
 ははははは。
 笑うしかないっす。

 それにしても、わたしは「まんだらけ」が久しぶりだ。以前は梅田で働いていたから、まだ多少行くことはあったが、京橋に転勤になり、またその後失業したあとは、ほんとに足を踏み入れることがなかった。
 それに、まれに行くことがあっても、2階のマンガ売り場までしか行かなかった。
 3階の同人誌売り場に行ったのは、いったい何年ぶりだろう。

 驚きました。
 なんですか、あの「受別」分類はっ!!

 ジャンル別はわかるよ。しかし、ジャンルで分けた上にさらに、「受」で細分類されているとは。

 なんてこったい。
 わたしはなんかものすごーくこっぱずかしくって、そばに寄れませんでした。
 だってさ……。
 なんか、自分の性癖をモロばらしてしまうよーなもんじゃないですか、受の趣味ってやつぁ。
 コミケでならともかく、梅田の明るい店舗で、そんな恥ずかしいことできません。
 いや、わたしはオタクだよ。オタクだしいいトシだし、なんで恥ずかしいんだ、そんなこと言ってる方が変だし恥ずかしいってばよ。と、セルフつっこみするけどさ。
 でもやっぱり、恥ずかしいのさ〜〜。

 が、ふと見ればダイコが買い物カゴ片手に、『ガンダムW』の「2受」の棚で、1冊ずつ手に取って検分している。そりゃーもー、ものすごい勢いで。
 強いよ、ダイコ……。
 

 それにしても、「受別」なんだよな。
 わたしは思う。
 「攻別」ではないわけだ。

 一般的に、腐女子たちは「受」にこだわる。「受」のファンになる。
 攻がどーあれ、**は受、ということには格別こだわる。
 それがまあ、ふつうなんだろう。
 それをあからさまに見せられた感じだよ。「受別」の分類は。

 わたしももちろん平凡な腐女子だから、受にはこだわるさ。こだわるけど、結局のところ、受も攻も平等でなくては気が済まないので(恋愛は平等であるべきだ)、途中でどちらが受なのかわからなくなる。
 最初には、明確な区別があったはずなのに。
 長くそのカップルを好きでいると、わからなくなってくる。
 どっちが攻でどっちが受なのか。
 だってどっちも男だからな。どっちかだけが「女」という別の生き物になるはずがない。
 リバOK、というのとも多少チガウ気がしているんだがなー。客観的にいうと「リバOK」なのかな。

 たとえばフアンは総受男だと思うけど、プルミタス相手に攻でも、べつにかまわないぞ?(by『血と砂』)
 ナイスリー×ビッグ・ジュールが基本だけど、あるときなんかの弾みで、ビッグ・ジュール×ナイスリーになっても、わたし的にはぜんぜんかまわないぞ?(by『ガイドル』)
 ……って、ケロとゆーひばかりを例に出して申し訳ないが。

 ものすごい情熱で書棚の前に立つダイコに口を挟めず、わたしはひとり時間をもてあます。
 ひとりで2階をぶらぶらしていたら、ミジンコくんが登場した。彼女もダイコから唐突に呼び出された口だ。
「電話もらったとき、ダイコったら『行きたいところがあるの』って、2回も言うんだけど、それがどこなのか言わないのよ。なんか恥ずかしいらしくて」
 ミジンコくんは「まさか、『まんだらけ』だったなんて」と溜息をつく。
 ちょっと待て、ダイコ。
 あんた、ミジンコには「まんだらけに行きたい」って言えなかったのに、わたしなら平気なわけっ?!

 そう詰め寄ると、ダイコは「ふふふ」と笑う。
「だって緑野なら、恥ずかしくないもん」
 どーゆー意味よおおおっ。

 ダイコはWの1×2ばかり、13000円分も買いました。ええ、ここで記録してやるわ。

「それにしても、あたしと緑野って一度もカップリングかぶらないわねえ。ていうか、ジャンルすらかぶらないけど」
 ええ。ショタ属性のあなたと、おっさん属性のわたしは、永遠に相容れられません。
 ダイコはジャニーズ、わたしはヅカだしな。
「でも、さすがにWだけは、かぶるかと思ったんだけど」
 わたしのカップリングは、2×1です。
「見事に逆よねー!!」
 と、ダイコは笑う。
 はいはい、まちがって2×1買っちゃったときは、わたしが引き取ってやるよ。

 ダイコの男前な買い物っぷりにアテられて、わたしもよくわかんねーまま、『ワンピ』のゾロ受本を買いました。


 てなことがあったのが、実は昨日だ。
 昨日書くつもりだったんだが、すべては高野山の話が長引いたために、ズレてきている。

 次にダイコに会うのはいつだろー?
 君がいつまでも、パワフルにオタクであってくれることを、生涯一オタクのわたしは祈っている(笑)。


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