価値観は、ひとの数だけ存在する。
自分の価値観は絶対ではない。
わかっている。
わかっているともさ。
だが。
アタマでは理解していても、どーしても感覚で納得できないことがある。
電車ビデオってやつだ。
電車の、運転席にビデオカメラを設置する。
電車は走る。
ふつーに走る。
映るのは線路だ。
線路だけだ。
どこまでもつづく。
線路を中心にして、風景が流れる。
駅に着く。
止まる。
だが相変わらず映っているのは線路だ。
また走り出す。
線路はつづく。
なんの編集もない。
ただ淡々と、線路だけが映る。
運転手の独り言(信号ヨシ! などの確認の言葉)だけが小さく聞こえる。
それだけ。
あとはただひたすら、コトトンコトトン、電車の走る音だけがする。
ねえこれ、どこがおもしろいの……?
ごめんわたし、まったくわからない。
『電車でGO!』とかの、自分で運転するゲームとかならわかるよ。
でも、ただのビデオなのよ? 映ってるのは線路だけなのよ?
車窓ビデオなら、まだわかるよ。『世界の車窓から』って番組あるよね。電車の窓から見える、めずらしかったり美しかったりする風景を、旅行気分でたのしむの。
でも、運転席からの風景なのよ? 映ってるのは線路だけなのよ?
こんなビデオが存在すること自体、信じられなかった。
市販されてるんだ。
最初に見たのは何年前だ? ほんとに、おどろいた。カルチャーショックってやつ。
そしてさらにおどろくことに、人気があったらしく、このテのビデオはどんどん増殖し、無数の作品が世に出ている。
たぶん、日本中の路線すべてが、ビデオ化されているんだと思う。
なんたって、地下鉄のビデオまで出てるんだもの。
地下鉄だよ?!
真っ暗なのよ?
えんえんえんえん、真っ暗な中を走るのよ。明かりが見えたら、駅なのよ。ギャグかと思ったよ。
なんで理解できないモノを、よく知っているかって?
地下鉄御堂筋線のビデオまで、見ているのかって?
うちの父が、好きだからだ。この電車ビデオを!!
すべて、父によって問答無用で見せられるんだ。
夕飯のときにビデオを流すんだもの!
「今日は阪急京都線だ」
とか言って。
梅田を出発して、河原町まで。
えんえんえんえん、線路を見せられるの!!
ねえ、なにがたのしいのっ?!
いや、なんでもちょっとだけなら興味深いもんさ。「運転席から線路はこんなふうに見えるのね」って思うことはできるさ。
でもさ、線路ばっかし何時間も見せられたらたまんないよ。
売れてるらしいから、父のような趣味を持つ人間たちが大勢いるんだと思う。わたしに理解できない人たちが、きっといっぱいいるんだ。
いいけどさ。
いいんだけど父よ、家族からは大ブーイングだ。
我が家では、お出掛け時にビデオカメラを持っていく。
父が大好きなんだ。
彼は電車に乗ると、いそいそと先頭車両に行き、ビデオを撮る。
えんえんえんえん、線路を撮る。
自家製電車ビデオだ。
だけど、運転席にカメラを固定したわけではないので、どーしてもブレる。電車は揺れて、終始手ぶれ状態。
酔う。
そんな映像を見せられたら、酔う。
勘弁してくれよ、父よ。
ええ。
今日はビデオ上映会だった。
今年の夏の家族恒例行事を撮影した、ビデオ上映会。
六甲山では行きの電車、ケーブル、帰りのロープウェイ、すべてを、乗った瞬間から降りるまで、ずーーーっとビデオ回してやんの、マイ・ファーザー!!
高野山では電車とケーブル+バスの中でも撮ってやがった!
そして、墓参りでは車の中で!!
なに考えてんだよ!!
つまり、2時間電車に乗って遊びに行ったとする。
その電車に乗っていた2時間を、そのままビデオで再現されてしまうわけだ。
会話も音楽もなく、ただただ、線路だけが2時間映る。
旅行が楽しいのは、目的地に行ってからだろ? そりゃ行くまでの行程もたのしいっちゃーたのしいが、それはみんなでするお喋りとかで、ひとりで席を離れて撮った線路しか映っていないビデオがたのしいわけがないっ。
墓参りのときの、お墓までの30分、えんえんえんえん道路を撮られ(手ぶれMAX)、家族は総ギレ。
しかも、目的地に着いてからは、わずか10分ほどしか映ってない。
しかもっ、人間はほとんど首から下しか映ってない。
父は自分が喋ったりあそんだりするのに必死で、ビデオカメラのファインダー(および液晶画面)をまったく見ずにただスイッチだけ入れていた模様。
なにをやってんだ?!
父はビデオを撮るのがたのしいだけで、ひとをたのしませるためには一切はたらいていないのだ。
子どもがおもちゃであそんでいるだけ。
新しいカメラがうれしいのはわかるよ。
この夏、弟が父にプレゼントしたのさ、新しいカメラを。
だから父が大喜びで撮影しているのを、家族はなまあたたかく見守っていたさ。いそいそと電車の先頭車両に行くのも、黙認していたさ。
しかし。
ここまで自分勝手なものしか撮っていないとわっ。
「父だけにカメラ持たせるの、やめよう」
「ある程度は僕らで撮るしかないな」
娘と息子はひそひそ話し合う。
せっかくのお出掛けビデオ。顔がまったく映ってないって、どうよ??
自分の価値観は絶対ではない。
わかっている。
わかっているともさ。
だが。
アタマでは理解していても、どーしても感覚で納得できないことがある。
電車ビデオってやつだ。
電車の、運転席にビデオカメラを設置する。
電車は走る。
ふつーに走る。
映るのは線路だ。
線路だけだ。
どこまでもつづく。
線路を中心にして、風景が流れる。
駅に着く。
止まる。
だが相変わらず映っているのは線路だ。
また走り出す。
線路はつづく。
なんの編集もない。
ただ淡々と、線路だけが映る。
運転手の独り言(信号ヨシ! などの確認の言葉)だけが小さく聞こえる。
それだけ。
あとはただひたすら、コトトンコトトン、電車の走る音だけがする。
ねえこれ、どこがおもしろいの……?
ごめんわたし、まったくわからない。
『電車でGO!』とかの、自分で運転するゲームとかならわかるよ。
でも、ただのビデオなのよ? 映ってるのは線路だけなのよ?
車窓ビデオなら、まだわかるよ。『世界の車窓から』って番組あるよね。電車の窓から見える、めずらしかったり美しかったりする風景を、旅行気分でたのしむの。
でも、運転席からの風景なのよ? 映ってるのは線路だけなのよ?
こんなビデオが存在すること自体、信じられなかった。
市販されてるんだ。
最初に見たのは何年前だ? ほんとに、おどろいた。カルチャーショックってやつ。
そしてさらにおどろくことに、人気があったらしく、このテのビデオはどんどん増殖し、無数の作品が世に出ている。
たぶん、日本中の路線すべてが、ビデオ化されているんだと思う。
なんたって、地下鉄のビデオまで出てるんだもの。
地下鉄だよ?!
真っ暗なのよ?
えんえんえんえん、真っ暗な中を走るのよ。明かりが見えたら、駅なのよ。ギャグかと思ったよ。
なんで理解できないモノを、よく知っているかって?
地下鉄御堂筋線のビデオまで、見ているのかって?
うちの父が、好きだからだ。この電車ビデオを!!
すべて、父によって問答無用で見せられるんだ。
夕飯のときにビデオを流すんだもの!
「今日は阪急京都線だ」
とか言って。
梅田を出発して、河原町まで。
えんえんえんえん、線路を見せられるの!!
ねえ、なにがたのしいのっ?!
いや、なんでもちょっとだけなら興味深いもんさ。「運転席から線路はこんなふうに見えるのね」って思うことはできるさ。
でもさ、線路ばっかし何時間も見せられたらたまんないよ。
売れてるらしいから、父のような趣味を持つ人間たちが大勢いるんだと思う。わたしに理解できない人たちが、きっといっぱいいるんだ。
いいけどさ。
いいんだけど父よ、家族からは大ブーイングだ。
我が家では、お出掛け時にビデオカメラを持っていく。
父が大好きなんだ。
彼は電車に乗ると、いそいそと先頭車両に行き、ビデオを撮る。
えんえんえんえん、線路を撮る。
自家製電車ビデオだ。
だけど、運転席にカメラを固定したわけではないので、どーしてもブレる。電車は揺れて、終始手ぶれ状態。
酔う。
そんな映像を見せられたら、酔う。
勘弁してくれよ、父よ。
ええ。
今日はビデオ上映会だった。
今年の夏の家族恒例行事を撮影した、ビデオ上映会。
六甲山では行きの電車、ケーブル、帰りのロープウェイ、すべてを、乗った瞬間から降りるまで、ずーーーっとビデオ回してやんの、マイ・ファーザー!!
高野山では電車とケーブル+バスの中でも撮ってやがった!
そして、墓参りでは車の中で!!
なに考えてんだよ!!
つまり、2時間電車に乗って遊びに行ったとする。
その電車に乗っていた2時間を、そのままビデオで再現されてしまうわけだ。
会話も音楽もなく、ただただ、線路だけが2時間映る。
旅行が楽しいのは、目的地に行ってからだろ? そりゃ行くまでの行程もたのしいっちゃーたのしいが、それはみんなでするお喋りとかで、ひとりで席を離れて撮った線路しか映っていないビデオがたのしいわけがないっ。
墓参りのときの、お墓までの30分、えんえんえんえん道路を撮られ(手ぶれMAX)、家族は総ギレ。
しかも、目的地に着いてからは、わずか10分ほどしか映ってない。
しかもっ、人間はほとんど首から下しか映ってない。
父は自分が喋ったりあそんだりするのに必死で、ビデオカメラのファインダー(および液晶画面)をまったく見ずにただスイッチだけ入れていた模様。
なにをやってんだ?!
父はビデオを撮るのがたのしいだけで、ひとをたのしませるためには一切はたらいていないのだ。
子どもがおもちゃであそんでいるだけ。
新しいカメラがうれしいのはわかるよ。
この夏、弟が父にプレゼントしたのさ、新しいカメラを。
だから父が大喜びで撮影しているのを、家族はなまあたたかく見守っていたさ。いそいそと電車の先頭車両に行くのも、黙認していたさ。
しかし。
ここまで自分勝手なものしか撮っていないとわっ。
「父だけにカメラ持たせるの、やめよう」
「ある程度は僕らで撮るしかないな」
娘と息子はひそひそ話し合う。
せっかくのお出掛けビデオ。顔がまったく映ってないって、どうよ??
コメント