思い出したわ、わたしとBe-Puちゃんの出会い。

 わたしとBe-Puちゃんは、同じ会社にいた。が、持ち場も立場も違ったので、接点はほとんどなかった。同じ年だということぐらいか。
 そりゃ会えば挨拶はするよ。天気の話くらいもする。でも、それだけだった。
 ところが、わたしと彼女はある日親しくなった。何故か。

 マンガの貸し借りをしたんだ。

 話のはずみで、「途中まで読んだけど、つづきを読んでない」という『Jドリーム』を、わたしが彼女に貸したんだ。
 なんだ、そのマンガならわたし、全部持ってるよ、と。

 ただの親切、深い意味なんかない。
 持っているものを貸すくらい、日常さね。

 しかしBe-Puちゃんは、微妙な表情でわたしにそのマンガを返してきた。
「ありがとう、とてもおもしろかったわ。とくに、緑野さんのツッコミが」

 ……わたしのツッコミ?

 さぁーーーっ、と青ざめる緑野。
 家であわててチェックしたさ。『Jドリーム』を読み返したさ。

 ああ神様。
 わたしったらわたしったら、ツッコミ入れてます。
 北村と鷹がラヴラヴすぎてものすごいことになってるところに、「おいおい」とか「愛ね」とか「見ている方が恥ずかしい…」とか。
 書き込んでますのよ、ツッコミを!!

 忘れてたよ、そんなこと!

 解説。
 『Jドリーム』ちゅーのは古いサッカーマンガです。
 Jリーグ設立、つーて日本中がJリーグブームだったころの。
 主人公は天才少年、鷹(小柄で華奢なかわいこちゃん)。とにかく天才。ほんまもんの天才。だから努力なんかしないし、超えるべき壁もない。スタートから万能。
 天才であるがゆえ、彼は常識に縛られない。翼のある彼は自由にはばたく。凡人には理解できない高みで気まぐれに生きている。
 万能のスーパーマンが主人公じゃ、物語になんないよね。彼が本気になればなんでもできちゃうんだから。
 でも鷹は本気にならないの。ガキだから、大人の事情も都合もおかまいなし。
 鷹があまりにも読者の理解しがたい位置にいるから、読者視点の主人公として北村(ごつい。でかい。見ようによってはハンサム)という男がいる。鷹よりずっと年上。苦労人の小心者。努力家で熱血漢。とても主人公らしい主人公。才能だってあるけど、彼の人生は困難だらけで、壁をいちいち大騒ぎして超えていく。
 鷹だけなら物語にならない。北村だけならありきたりすぎる。
 このふたりが共に主人公だというのが、おもしろい。しかもあくまでも鷹が中心てのが。

 気まぐれな天才、鷹。本気になれば世界を獲ることだってできるのに、それをしないでへらへら生きている。
 そんな鷹が本気になるのは……北村の涙を見たとき!!
 傷ついた北村のためだけに、鷹はその翼を広げる。たぐいまれな才能を存分に発揮する。

 とゆー話。
 あまりにものすごいので、ついツッコミを書き込んでしまっていたわけだ……。
 北村のくやし涙を見て、彼のためにいきなり真面目に戦いだす鷹とか、それに感動してマジ泣きする北村とか、それをあたたかい目で見守っている仲間たちとか……。
 読んでてアゴが落ちたからさ。おいおいお前ら正気か?! てなもんで。

 今日たまたま読み返しちゃったのよね、『Jドリーム』。
 んでもってその書き込みを見つけて……そーだ、これだ! と思い出した。
 このツッコミのせいで、わたしがヤオイスキーだとBe-Puちゃんにばれちゃったんだ。
 Be-Puちゃんも同じヤオイスキーだったから、それ以来徐々に仲良くなっていった……。
 お互い、どこまで本性見せていいのかな、と手探りしていたよ。なまじ同じ職場の人間だからねえ。気まずくなるとこまるしさー。
 そうそう、好きで読んでることは言えたけど、書いてることは長い間言えなかったなー。でも、彼女の友人とかいう人が、わたしのペンネームを知っていたとかなんとか、とにかく思いもかけないところでバレて、気まずかったっけ。
「緑野さんが言えなかった気持ちわかるわ。わかるけど、おどろいた」
 宝塚からの帰りの阪急電車で突然そう言われて、心が冷えたっけ……ああ、ひとつ思い出したらいろいろ思い出してくるよ……。
 あと、ばれたならいいや、と思ってわたしの書いたやほひ本をプレゼントしたら、えらくショック受けてやがったし。
「そうよね、わたしたち大人だもんね……大人だからいいのよね……」
 って、マジに言われて、ものすごーく恥ずかしかったなー。そうだよ、大人だから小説でSEXシーンを書いたってべつにいいんだよ。つーか、もっと過激なものを読んでるくせに、友人の書いたSEXものってだけで本気で照れるな! おかげでこっちまで恥ずかしかったじゃないか!(笑)

 人に歴史あり、思い出あり。
 Be-Puちゃんとわたし。

 そして『Jドリーム』には他にも思い出あり。
 友人オレンジとも、盛り上がったんだよな。鷹×北村で。
 鷹って男前すぎる、とか。完璧な攻様、しかも亭主関白、とか。(繰り返しますが、鷹は小柄で華奢なかわいこちゃんです。んでもって北村はごつくてでかい大人の男です)
「鷹のプロポーズの言葉。『お前をアジアの大砲にしてやるよ』、って……すごすぎー。男前ー!」
「そんでもって北村、即OK!!」
「早っ」
 てな会話できゃーきゃー長電話してた。まだオレンジが大阪に住んでいたころ。
 なつかしーなー。
 『Jドリーム』を読み返しながら、この「お前をアジアの大砲にしてやるよ」のシーンで思わず吹き出してしまったよ。オレンジとの会話を思い出して。

 人に歴史あり、思い出あり。

 そしたらものすごいタイミングでオレンジから電話。
「新刊、読んだよー」
 という内容だったけど、あんたタイミングよすぎ(笑)。今まさに、あんたのこと思い出してたんだよ。

 人に歴史あり、思い出あり。
 そーやってわたしたちは生きている。

 

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