同人誌の整理をしていたら、昔のコミケカタログが出てきたよ……。

 コミック・マーケット30。1986年夏。表紙・乙田基。

 コミケカタログを保存する趣味はないんだが、これだけは取ってあったんだ。
 はじめて行ったコミケだったから。
 それに、当時大好きだった乙田基の表紙だし。

 愉快だったので、思わず全ページ読んでしまったわ、カタログ。
 広告あわせて、160ページしかないんだもん。

 場所は今は亡き晴海。そして、使用しているのは西館と新館のみ、サークル数4000、一般参加者3万人だそうだ。

 17年、という歳月の重みを感じる。
 というのも、カルチャー・ショックに満ちているからだ。

 サークルカットのページの最初、なんだと思う?
 「創作漫画」なのよ?
 ええっ?!
 オリジナルですか。
 しかもオリジナルが、えんえんえんえん続きます。
 違和感を押さえきれず、ジャンル配分のチェックをしたら、なんと、オリジナル・サークルの方がパロディ・サークルより多いのよ。
 オリジがパロより上?! うわー、こんな時代があったんだ。いや、大昔はそうだろうけど、きゃぷ翼全盛期の86年でさえ、オリジナルが上だったのか。

 そして、読んでいるとわからない概念がそこかしこにある。

 「マンガ」ってなに?
 「アニメ」ってなに?
 どうやらジャンルのことなんだけど、サークルはほぼこのふたつに分類できるらしい。
 読み進むウチに、理解したよ。
 「マンガ」ってのは、「創作系」「オリジナル系」のことらしい。
 「アニメ」ってのは「パロディ」のことらしい。
 オリジナル小説サークルも、「マンガ」なの。
 小説のパロディ・サークルも「アニメ」なの。
 「オリジナル」と「パロディ」という言葉や概念が確立される前だったのね。

 「学生サークル」「社会人サークル」というジャンル分けも存在するらしいし。
 職業で配置が変わるの?? すごいなー。

 あと、目に付く「特集」「会員募集中」「会誌」の文字。
 どうやらサークルとは正しくサークルで、同好の志が集まり、年に何回か会誌を発行しているらしい。会誌には特集ページがあり、執筆会員や購読会員がいる。
 オリジナルだけならまだわかるが、アニパロでもそうなんだよなあ。

 巻末のアンケート・ページに「サークルの形態」という集計結果がある。
 そこにある項目がすごい。
 「会員制」「編集制」「個人誌」「学校・大学」だよ。
 「マンガ」のほとんどは「会員制」で、「アニメ」にしたって「編集制」がいちばんで、僅差で「会員制」だよ。
 今、会員制のアニパロ・サークルなんて、どれくらいあるのかなあ。
 当時の同人誌は、10人以上で原稿を持ち寄って作るのが常識だったからなー。ひとり4ページぐらいでさ。執筆者が多いほど「豪華な同人誌」だったよ……今と感覚が逆。
 たったひとりの好きな作家の2ページだの4ページだののマンガが欲しくて、何十人もの人が書いている本を、高い金を出して買うのが普通だった。

 サークルカットのページを見ていると、その画力の低さにも感心するし。
 今の人たちってほんと、絵うまくなってるよね。
 現在のサークルカットで「うわ、下手やな」と思うレベルが、86年では「ふつう?」くらいの感覚。とくに「マンガ」系はものすげーや。
 そしてその下手絵たちのなかで、やたら目に付く「ペロリと舌を出したかわいこちゃん」の絵。
 かわいいキャラのかわいい表情、ってのはコレが定番なんですか? 現実問題、舌を出した顔ってのはみっともないものであって、かわいくもなんともないのに。大昔の少女マンガでは、たしかに定番だったけど、この時代でもまだ通用していたの? 70年代の感覚じゃないのか、ソレって。

 言葉の感覚のちがいで大きいのが、もうひとつ。
 ジャンル分けに「ロリコン」が存在すること。
 ブロックのジャンル分けページに、堂々と「新館2Fロリコン系」と書いてあるのよ。
 現在では、「男性向き」とか微妙な表現になってるよね。それが正々堂々と「ロリコン」。
 このままの感覚で発展していけば、いずれ「ホモ」というジャンル表記もアリになったかも? あ、「JUNE」があるか、女性向きには。
 ちなみに86年夏の時点では「JUNE」というジャンル表記は存在せず、「マンガ>少女漫画>特に耽美系中心」というブロック配置ナリ。

 この「ロリコン」サークルカットのページも、全部眺めたんだけど、「巨乳」がほとんどないのよ!
 確認したのは、ふたつだけ。
 あとは全部、常識内のおっぱいか、貧乳。
 そっかー、巨乳は流行だったんだ。普遍的な感覚じゃないのね。
 じゃあいつか、萌えキャラのおっぱいが常識の範囲に落ち着く時代や、貧乳の時代もくるのかしら。

 いやあ、おもしろいなあ、17年前のコミケカタログ。
 この世界に足を踏み入れたばかりだったので、なにもわかってなかったしな、当時は。
 だから、たしかに経験してきたはずの多くのことが、「知らない文化」として現在のわたしの目に映る。
 もっとちゃんと理解して過ごしていたなら、「ああ、昔はこうで、こんなふうに変化してきたのよね」とか思うんだろうけど。

 そーいや巻末のアンケート、「売り上げベスト40」まで表記されてるんですけど。
 売れているサークルがひとめでわかるの。
 コレ、いいの……?
 現在でこんなことやったら、変な競争意識を煽って、えらいことになりそーな……。
 のどかな時代だったのかしらね?

 裏表紙は味の素フーズの「天空の城ラピュタ」。
 ああっ、なつかしい。
 大好きでよく飲んでいたわ。
 コミケ会場でもあちこちで販売されていて、シトラスミックス味の瓶を片手に大手さんに並んだもんだわ。この時代、まだペットボトルがないんだよね。

 なつかしさついでに、乙田基のイラスト集も発掘。
 たしかにこの人、当時ではケタ違いの画力とセンスを持っていたよなあ。
 しかし、こんなにきれいでオシャレなイラスト集なのに、ポエムの書き間違えた文字を、くちゃくちゃっとペンで塗りつぶしただけ、ってのは、なんなんだろう? ホワイトで修正して上から書けばいいだけなのに。書道家みたいに、1回勝負の芸術だったのかな?

 

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