地獄と天国。

2003年9月8日 その他
 9月6日、夜。
 1通のメールが、携帯に届いた。

 うわ、なつかし。
 イシちゃんからだ。もう何年会ってないかな、イシちゃん。会う約束のたびに、彼女の都合が悪くてドタキャンになっちゃって、そのままなんとなーく縁遠くなって、しかもそのうち結婚しちゃって、もーぜんぜん会うこともなくなった相手。
 どーしたんだろ、イシちゃん。メールもらうのだって、「結婚しました」報告の1行メール以来だぞ。

 なつかしさによろこんで、メール本文を携帯の画面に出す。

 〈タイトル〉
 こんばんは
 〈本文〉
 遅くに失礼しま
 す。実は今、ス
 ノオちゃんが交
 通事故に遭い、
 ****病院に

 ……わたしの携帯は、文字が大きい。買ったときのままで、小さい文字に設定し直したりしていないせいだ。
 画面に、これだけの文章が表示された。

 交通事故?!
 スノオちゃんが?!!

 イシちゃんもスノオちゃんも、学生時代の同じクラスの友だちだ。
 スノオちゃんに最後に会ったのは、去年のわたしの誕生日、ミヨの結婚式だ〈イシちゃんはミヨの結婚式も前日ドタキャンだった。わたしはイシちゃんの代わりに急遽受付をやった〉。

 画面をスクロールするのが、こわかった。
 スノオちゃんが交通事故に遭い、****病院に……その次は、なに?

 まさかこれ、訃報?

 がくがくぶるぶる。
 めちゃ恐怖しながら、スクロールボタンを押す。

 入院しています
 。腎臓破裂でし
 ぱらくかかりそ
 うです。
 今のところ、手
 術はしなくてよ

 ……腎臓破裂?!! 破裂してるんですか、内臓が!!
 えーと、スノオちゃんは車に乗る人だったよね。交通事故って、ぶつけられたの、ぶつけたの? 同乗者は? まさか家族とか、なんか大変なことになってるんじゃあ?
 咄嗟に、いろいろこわい考えが頭を走る。

 で、でも、生きてるんだ。
 訃報じゃない、スノオちゃん、生きてるんだ。大ケガみたいだけど、とりあえず生きてる。
 どきどきする自分をなだめる。

 まだ心臓ばくばくしたまま、さらに画面をスクロールさせる。

 さそうだとのこ
 とです。
 お時間があれば
 ベッドから動け
 なくてヒマをも
 てあましている

 ……あれ? 首を傾げる。
 腎臓破裂、だけど今のとこ手術はしなくてもよさそう、まではわかる。
 しかし、ヒマをもてあましている?

 さらにスクロール。

 スノオちゃんの
 携帯に、励まし
 のメールをお願
 いします。
 −イシ子より−

 ……ヒマをもてあましているスノオちゃんの携帯に、励ましのメールを??

 って、スノオちゃん、めちゃくちゃ元気なんかいっ。

 がっくし。
 不安に震えたぶん、反動が大きい。

 わたしは速攻スノオちゃんにメールをした。

 スノオちゃんからは、

“あらま、なんかすっかりゆーめーじんね。今さっきミヨにもメールもらって返信したところっす。……(以下、私信は略)”

 とゆー、とてものんきな返信がきた。
 事故に遭ってから3日目、今は点滴もはずれて、元気にやっているらしい。
 へなへな。安心して、気が抜ける。

 つーかイシちゃん。
 アンタのメールの書き方が、いちばん悪いよっ。
 どーして「スノオちゃんがヒマをもてあましているので、メールをお願いします。スノオちゃんは今、交通事故で入院しています」という書き方をしてくれないのー?!
 時系列順に書いてくれたってのはわかるけど、携帯メールにそれは酷だよー。泣。

 とゆーことで、本日はスノオちゃんのお見舞い。前もってアポもとってある。
 日曜日をはずしたのは、わざと。
 日曜日はきっと、他に見舞客があるだろうから。一度にたくさんの人に来られるより、誰も来なくて寂しい日に来てくれた方がうれしい、と、入院時に父が言っていたので。

 身内以外の見舞いはひさしぶりなので、ネットで見舞いのマナーを調べ、手みやげや見舞金の相場と常識などを頭にたたき込んでからさあ出発。
 結婚式もそうだけど、マナー事って時代や自分の年齢によって微妙に変化するからさー。以前通りのことが今の「ふつう」かどうか、いちいち調べる癖がついた(笑)。

 そして。

 ほんとに元気だったよ、スノオちゃん。わたしが行ったときには、ベッドをソファ代わりに坐ってお茶をしていた。
 広い個室で、悠々自適。つーか、ふつー病院は携帯電話禁止だろ。個室ってことで、大目に見てもらっているそうな。
 病室に入って、最初に目に飛び込んできたのが、大きなツードアの冷蔵庫と、その上の「化粧品一式」。
 入院患者なのに、「化粧品一式」。収入のほとんどを「衣」に費やす、おしゃれ命のスノオちゃんならではだ。

 途中、ご両親も現れたんだが、お父様は巨大な布団袋持参だった。
 布団袋?
「だって、病院の布団、いまいちなんだもん」
 ってアンタ、自宅から布団運ばせたんかい。よく見れば、枕はすでに病院のモノではなく、微妙な曲線を持つ快眠枕だった。自宅から搬入済みだったらしい。

 自宅近所を歩いているときに、車にぶつけられたそうだ。
 ミラーをぶつけられた横腹は痛かったが、血が出たわけでもなく、意識もあったので救急車が恥ずかしかったと言う。病院で診察を受けたときに「腎臓破裂してますねえ」と言われ、心底驚いたそうな。救急車を拒否して、自力で病院に行かなくてよかったね(そうするつもりだったらしい)。
「どうせ全額向こう持ちだし、それさえどうせ保険だし、退院まで個室でいいかな、って」
 とのこと。
 元気だし、暴れない限り痛みも大してないそうだが、とにかく腎臓が治るまで迂闊に動いてはいけない、ということで入院させられているらしい。病室内なら、ふつーに歩いているそうだし。
 まったくもっていつものスノオちゃん。
 ほっとした。

 ほっとした、ので。

 いやあ、喋りまくったよお。
 なまじ、個室だからさー。
「この間の会社の友だちなんか、4時間喋っていったよ」
 という話を聞いていたもんでな。
 ははは、わたしは3時間半ほど喋り込んでいました。
 喫茶店でダベってるのと同じだ。
 お茶とお菓子で、えんえんお喋り、途中写メールしてみたりと、若い娘さんのよーな30女ふたり。

 あ、もちろん、イシちゃんからの「こわいメール」も本人に見せたさ。このメールを読んで、どれだけわたしが震え上がったかを訴えたさ。スノオちゃんはけたけた笑っていた。

 *お見舞いのマナー*
 患者さんを疲れさせてはいけません。15分から20分ほどで、病室を出ましょう。

 あー、たのしかったー。
 帰宅してから、お礼と様子伺いのメールを出すと、速効返事が来る。
 とてもたのしんでくれたようだ。テンション高い。
 そのメールの最後には、

“ヤマダも見舞いに来てくれるって言うし。ここで懐かしの同窓会しましょうや。”

 と書いてあった。
 ここ、って……病室で同窓会かー。
 ほんとに元気だな、スノオちゃん。

 

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