18年ぶりの優勝ですか。
2003年9月15日 家族 その昔、緑野家のおたのしみは、梅田の紀伊國屋書店だった。
「今日は帰りに紀伊国屋に行こう」
と父が言えば、家族全員が「やったー!」とよろこんだ。
家族でおでかけした日、帰りに梅田の紀伊国屋に寄る。それが、お決まりのコースだった。
入口を入るときに、父からおこずかいをもらう。大抵は1000円。クリスマスや誕生日など、特別のときは2000円のこともあった。
もらったおこずかいは、紀伊国屋で自由に使っていい。どんな本を買ってもいいのだ。
わたしも弟も母も、同じように1000円もらって、紀伊国屋に入っていった。
待ち合わせは、1時間後。決められた時間の中で、本を探す。
それが、緑野家のおたのしみだった。
家族そろって、本が好きだった。
紀伊国屋で何時間でも過ごせる連中だった。
梅田での待ち合わせは、大抵紀伊国屋だった。
店の中では、ほとんど顔を合わせることはない。母は彼女の本業のコーナーにいるし、わたしはSFやミステリ、あるいは絵本やアートのコーナーにいる。弟はどうやら歴史関係のコーナーにいるらしい。父は旅の本を見ている。
たった1000円、されど1000円。なにを買おうか、足りない分は自分で出して……父にねだって、もう少し出してもらえないかな。あの画集が欲しいけど、どーしてああも高いんだろう……。
まだ若かった両親と、子どもだったわたしたち姉弟にとって、大きな書店はとてもたのしめる場所だった。
約束の時間ぎりぎりまで、好きな本を立ち読みして過ごしていた。
そして、買った本を大切に小脇に抱え、4人そろって店を出るのだ。
次に行くレストランで、自分たちが買った本をそれぞれ自慢するのだ。
あれから何年経っただろう。
もう、わたしたち家族は、そろって紀伊国屋に行くことはなくなった。
わたしも弟も成人し、入口でおこずかいをもらわなくても、自分の稼いだお金で好きな本を買うようになったからだ。
母から電話がかかってきた。
「今、父と千中にいるんだけど、中華街で一緒にごはん食べない?」
わたしはいいけど、弟は? あいつはどうしてるの?
「自分の家にいるんじゃない? 今日休みだって言ってたから。ふたりで今すぐ千中まで来なさいよ。飲茶の食べ放題のところ、並んでるから!」
今すぐって、アンタ……。わかったよ、行くよ。弟に連絡して、ふたりで千中をめざす。
阪神優勝まで秒読みのニュースを尻目に、わたしたちは千中にたどりついた。
「今、千中に着いたとこ。んで、母たち今どこにいるの……」
エレベータを待つわたしの横で、弟が母に電話をかけている。
「母たち、どこにいるって?」
「田村書店」
電話を切った弟が言う。
飲茶の店で並んでるんじゃ、なかったんかい。
待ち合わせは、大型書店。
なんか、昔みたいだね。家族4人顔を合わせたけど、またそれぞれ店内に散っていく。もちろんもう、おこずかいをもらったりは、しないけれど。
今はわたしと弟は同一行動。ふたり並んでミステリだのゲーム雑誌だのをひやかす。……まさか、同じジャンルを読むようになるとは思わなかったよ、あのころは。
「そーいや京極の新刊が出たよなあ」
「何年ぶりよ? もう出ないかと思ってたよ」
なんて会話をしながらな。
母は自分の本業から離れ、山の本しか手に取らなくなってるし、父はあきっぽくすぐに坐り込みたがる。
時は流れるのさ。
18年前、猛虎とやらが大騒ぎしていたあのころは、緑野家はたのしく紀伊国屋で時間を過ごしていたよ。
変わらないようで、変わっていくようで。
それでもたぶん、紀伊国屋は我が家にとって、特別な場所でありつづけるだろうさ。
「今日は帰りに紀伊国屋に行こう」
と父が言えば、家族全員が「やったー!」とよろこんだ。
家族でおでかけした日、帰りに梅田の紀伊国屋に寄る。それが、お決まりのコースだった。
入口を入るときに、父からおこずかいをもらう。大抵は1000円。クリスマスや誕生日など、特別のときは2000円のこともあった。
もらったおこずかいは、紀伊国屋で自由に使っていい。どんな本を買ってもいいのだ。
わたしも弟も母も、同じように1000円もらって、紀伊国屋に入っていった。
待ち合わせは、1時間後。決められた時間の中で、本を探す。
それが、緑野家のおたのしみだった。
家族そろって、本が好きだった。
紀伊国屋で何時間でも過ごせる連中だった。
梅田での待ち合わせは、大抵紀伊国屋だった。
店の中では、ほとんど顔を合わせることはない。母は彼女の本業のコーナーにいるし、わたしはSFやミステリ、あるいは絵本やアートのコーナーにいる。弟はどうやら歴史関係のコーナーにいるらしい。父は旅の本を見ている。
たった1000円、されど1000円。なにを買おうか、足りない分は自分で出して……父にねだって、もう少し出してもらえないかな。あの画集が欲しいけど、どーしてああも高いんだろう……。
まだ若かった両親と、子どもだったわたしたち姉弟にとって、大きな書店はとてもたのしめる場所だった。
約束の時間ぎりぎりまで、好きな本を立ち読みして過ごしていた。
そして、買った本を大切に小脇に抱え、4人そろって店を出るのだ。
次に行くレストランで、自分たちが買った本をそれぞれ自慢するのだ。
あれから何年経っただろう。
もう、わたしたち家族は、そろって紀伊国屋に行くことはなくなった。
わたしも弟も成人し、入口でおこずかいをもらわなくても、自分の稼いだお金で好きな本を買うようになったからだ。
母から電話がかかってきた。
「今、父と千中にいるんだけど、中華街で一緒にごはん食べない?」
わたしはいいけど、弟は? あいつはどうしてるの?
「自分の家にいるんじゃない? 今日休みだって言ってたから。ふたりで今すぐ千中まで来なさいよ。飲茶の食べ放題のところ、並んでるから!」
今すぐって、アンタ……。わかったよ、行くよ。弟に連絡して、ふたりで千中をめざす。
阪神優勝まで秒読みのニュースを尻目に、わたしたちは千中にたどりついた。
「今、千中に着いたとこ。んで、母たち今どこにいるの……」
エレベータを待つわたしの横で、弟が母に電話をかけている。
「母たち、どこにいるって?」
「田村書店」
電話を切った弟が言う。
飲茶の店で並んでるんじゃ、なかったんかい。
待ち合わせは、大型書店。
なんか、昔みたいだね。家族4人顔を合わせたけど、またそれぞれ店内に散っていく。もちろんもう、おこずかいをもらったりは、しないけれど。
今はわたしと弟は同一行動。ふたり並んでミステリだのゲーム雑誌だのをひやかす。……まさか、同じジャンルを読むようになるとは思わなかったよ、あのころは。
「そーいや京極の新刊が出たよなあ」
「何年ぶりよ? もう出ないかと思ってたよ」
なんて会話をしながらな。
母は自分の本業から離れ、山の本しか手に取らなくなってるし、父はあきっぽくすぐに坐り込みたがる。
時は流れるのさ。
18年前、猛虎とやらが大騒ぎしていたあのころは、緑野家はたのしく紀伊国屋で時間を過ごしていたよ。
変わらないようで、変わっていくようで。
それでもたぶん、紀伊国屋は我が家にとって、特別な場所でありつづけるだろうさ。
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