携帯電話を落としました……。

 落とした場所はわかってるの。だから心配はない。
 落とした、と気付いた瞬間青ざめたのは。

 待受画面、オサアサですがな……!

 しかも、スワンレイクよ?! ちゅーしてんのよ?!

 うっきゃ〜〜っ、恥ずかしい〜〜っ!!

 朝9時になるのを待ちかねて営業所にTEL。思った通り、バスの中で落としていたらしい。JRバスの営業所に届いていた。
「営業所まで、取りに来ていただけますか?」
「はい、もちろん行きます」
「それじゃあ、ユニバーサルスタジオはご存じですよね? その駅の……」
「えっ、ちょっと待ってください。中津じゃないんですか?」
 そう。実は、忘れ物するのはじめてではないのだ。
「前は中津でしたよね?」
「はい、移転しました」
 なんてこったい。USJだと? 中津より遠いじゃないか。
 わたしは仕方なく、ひとりでJRのユニバーサルシティ駅を目指した。

 ぽつん。

 気分は、ぽつん。
 もっと時間を考えればよかった……。
 なまじ、午前中だったりしたから。
 USJに向かう電車は、たのしそーな人たちでいっぱい! これから遊びに行くんだーっ。たのしむぞーっ、おーっ!! てな雰囲気に充ち満ちている。
 ガキどもはきゃーきゃー、カップルどもはいちゃいちゃ。
 そんななかで、わたしはぽつん。

 わたしがオサアサがチューしてる待受画面なんぞを使ってる女です、とこのツラ下げて携帯を受け取りに行くのよ。
 わーん。

 いや、あの営業所におやぢしかいないのは知っている。若い職員はまったくおらず、ごま塩アタマのおやぢばかりが働いているところだった。
 だから、オサアサのチューを見ても、なんのことだかわからない可能性が高い。
 ああだけど、わかるわからないは関係ないのよ、知らない人に見られるのが恥ずかしいのよーっ。

 行楽客でいっぱいのユニバーサルシティ駅で降り、駅員というよりコンパニオン?てな制服のおねーさんに、地図をもらう。関連会社だから、専用の地図が用意されてるのね。
 ふむふむ、この地図によると……。

 USJの入口まで、行くんですか……。

 行楽客と一緒。家族連れとカップルとグループと一緒。たのしそーな人たちと一緒。

 つーか、ひとりで歩いてるの、あたしだけじゃん!!

 この先にはUSJしかありませんよ、てなテーマパークの一部のような歩道橋を渡り、ゲートの前まで行く。
 ここでよーやく、方向転換。下の道路に降りる。
 ああ、孤独だったわ。たくさんの人のなか、わたしだけが孤独。

 下を走るだだっ広い道路は……交通量が笑えるほど少なかったっす。
 孤独です……誰もいない広すぎる道……孤独ですう。泣。

 そして、歩いても歩いても目印が見えてこない。
 変だな、ともらった地図の小さな注意書きを読むと。

 「徒歩約15分」とあった。

 15分?
 15分てソレ、2km弱ってこと?
 このなにもない寂しい道路を、えんえん15分も歩けと?

 疲れた……。
 とても疲れました。

 帰りの電車はなかなか来ないし。
 そうよね、今はUSJに向かう人たちでごった返している時間で、帰る奴なんてほとんどいないもんな。そんな無駄なタイムテーブル組んでないよな。

 とりあえず無事に我が手に戻った携帯電話で、USJ専用車の恥ずかしいペイントを撮影してみました。何度見ても、趣味の悪い電車だわ(笑)。

 それにしても、いったい何人のおやぢに見られたんだろう。
 わたしのオサアサチュー。
 ああ、ブルウ。

 帰りの電車では、手持ち無沙汰なのでメールを打って時間をつぶしていたのだが。

 そのときはっと気づいた。
 営業所で携帯を受け取ったとき、小モニタに未読メールのマークがあったのでさっそく携帯本体を開いた。
 すると、大モニタは「メール送信選択」画面だった。
 あれ? 変だな? と思って確認したら、前日WHITEちゃんに宛てたメールが、送信できずにいたようだ。そーいや「送信中」のメッセージは見たけど、「送信完了」のメッセージを確認する前に、閉じてしまったっけ。電波状況がよくなかったかなんかで、送信できずに終わってたんだわ。
 どーりで、WHITEちゃんから返事が来ないと思った。
 今さら送るのもなんだから、昨日書いたメールは削除。
『矢吹翔様素敵っっ!!』
 なんて内容、花青年館を出た直後だから書いて送る意味があるので、翌日に送るのはまぬけだー。

 べつの友だちから届いていたメールを読み、それでそのことはもう忘れていたけど。

 待てよ。
 開いたとき、「メール送信選択」画面だったってことは……。
 わたしが最後に携帯を操作したときのままの画面ってことよね。
 JRの職員が、わざわざ落とし物の携帯電話をいじりまくってなにかしたとも思えないし。ふつーの乗り合いバスじゃなく、全席指定の夜行バスだから、携帯を見つけたのは他の客じゃなく、清掃の職員のはずだし。
 つーことは、だ。

 待受画面は、誰にも見られていない……!!

 ああ。
 九死に一生を得ました!!

 

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