愛が欲しい…。

2004年1月16日
 犬は人につき、猫は家につく。

 我が家の猫は、わたしにだけなついている。
 わたしと猫は狭く汚いこの家で、とりあえずふたりっきりで暮らしている。

 抱っこされるのは大嫌いだけど、わたしの膝には乗ってくる。そのまま眠ってしまって、降りない。
 わたしがトイレに入ると、入口までついてくる。長く(つっても数分だけどさ)入っているとドアを掻いたり鳴いたりと大騒ぎをするので、いつもドアを少し開けてある。顔を見たら安心するのか、隙間から目が合うとそれでおとなしくなる。あるいは中に入ってきて、便器に坐るわたしの膝に乗ったりする。
 風呂に入っていても同じ。必ず1度はドアの前で大騒ぎをする。風呂のドアの開け方だけは何故か知っているので、勝手に開けて入ってくる。水が大嫌いだから、すぐに逃げるように出て行くけれど。わたしが長く入っていると、何度も勝手にドアを開けて、顔をのぞかせる。ドアの前でうるさく鳴く。
 夜はわたしのベッドの上で眠る。1時間おきくらいにわたしの顔をのぞきに来る。
 早朝のいちばん冷え込む時間になると、眠るわたしの頬を前足でつついてくる。肉球がぺちゃっと頬に押しつけられる。「いつもの体勢」というのがあり、わたしにそれを要求する。わたしの腋を枕にして、布団に肩まで入って眠る。いちばん寒い時間は、こうやって暖を取る、らしい。
 わたしが出かけるときは、玄関で大騒ぎをする。つっかけを履くだけなら反応しないが、下駄箱から靴を出して履くと必ず大騒ぎする。「どこへ行くんだ!」「おれも連れて行け!」と。後ろ足で立ってドアに前足をかけ(直立猫。けっこう長い。でかい)、ぎゃーぎゃー鳴きわめく。

 とまあ、猫とわたしはそれなりに仲良く暮らしている。
 猫はわたしにだけなつき、わたしの顔の見えるところにしかいない。わたしがいなくなることを、いつもおそれている。

 しかし。

 ……しかし、だ。

 わたしはよく、猫を親の家に連れて行く。
 出かけるときなどは、親の家に猫を預けていく。猫にとって、わたしの親の家はもうひとつの家である。

 親の家に連れて行くと、猫の態度は豹変する。

 人間きらい。
 触られるのきらい。
 抱っこなんてもってのほか。
 エサをよこせ。水をよこせ。でも触るな。

 わたしの家で暮らしているときは、わたしの膝が定位置なのに。そうでなくても、わたしの顔の見えるところにしか、いないのに。

 他の人にも触らせないが、わたしにも一切触らせない。

 しばらく預けていて、数時間ぶりとか何日ぶりとかにわたしの顔を見ても、ぜんぜん知らんぷり。
 わたしの顔を見ても、ちっともうれしそうにしない。
 呼んでも反応なし。

 親の家に行くと、わたしにも他の家族にも、猫の態度は一律同じ。
「知っている人」
 という認識。
 知っている人だから、危害は加えてこない。知っている人だから、要求すればエサをくれる。
 ……という認識。

 どういうことっ?!

 親たちは、信じないのよ。
「家では、猫はわたしの膝から降りないのよ。いつも一緒に寝ているのよ」
「嘘でしょ。だって、アンタが触っても逃げるじゃない。いやだって言うじゃない。ちっともなついてないじゃないの」
 家ではなついてるのよーっ。
 わたしのそばから離れないのよーっ。

 家とよそでは態度がチガウって、どういうこと、猫よ?!

 猫は、家にいるときに限り、わたしになついている。

 犬は人につき、猫は家につく。

 ……ねえ、ひょっとして、猫にとってわたしは「家の一部」ですか?
 猫の大好きな「自分の家」の、「お気に入りの場所」みたいなもん? 動いて、エサをくれたりする「場所」だと思っている??

 だから「家」以外の場所では、わたしのことは「お気に入り」とは認識されない?

 今も猫は、膝の上にいる。
 重い。

 

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