アニメ『ソニックX』が終わった。

 この番組が1年も放映されていたのがちと驚き。てっきり半年程度だと思ってたからさー。
 内容的にも、真に盛り上がっていたのは3クールまでで、ラスト1クールはかなり蛇足っちゅーかお遊び的だったな。3クールできれいに終わっていた方がよかったかも。ファンサービスに徹したよーなラスト13話も、たのしいっちゃたのしかったが(笑)。

 ところでこのアニメ、人気あったんかいね?

 主人公ソニックは、あまりにも「ヒーロー」だ。そのことに、疑問をおぼえるんだ。

 主人公ソニック・ザ・ヘッジホッグ。世界最速のハリネズミ。クールに我が道を行く最強の男。とにかく強い。かっこいい。

 彼は「すべて」を持ち合わせている。
 強さも生きる意味も自由も。
 はじめから、なにもかも得ているんだ。標準装備。デフォルト。
 だから彼は、「成長」しない。「障害につまずく」こともない。「目的」もない。
 ソニックははじめからソニックで、なにが起ころうとソニックのままで、物語だけ進み、収束する。

 こんな「主人公」アリか?

 エンタメの「お約束」は「主人公の成長」だ。
 弱虫くんが勇気を出して生きることでもいい。万年補欠くんが試合に出て勝つことでもいい。出世だけを考えていたエリートくんが、真の愛に目覚めるのでもいい。
 主人公が精神的になにかを乗り越え、「変化する」ことで、物語のカタルシスが起こる。
 それが「お約束」。

 しかしソニックには、ソレがない。
 彼ははじめから強くて自由で英雄だ。宿敵エッグマンにも全戦全勝、敗北を知らない。
 強くてかっこいいヒーローが、いつもいつもあったりまえに勝ち続けているだけのこと。第1話も最終回も、ただただソニックが強くて勝っている。どこを取ってもそう。

 ソニックにとって「勝つ」ことは「あたりまえ」なので、彼にはなんの感慨もない。それなりの達成感はあっても感動はない。彼はじつにのびのびと戦い、勝利する。
 ふだんは冴えないドジ男で、いざとなったら仮面をかぶって無敵の戦士、というわけでもない。ソニックは普段からクールでかっこいい男だ。そして彼は、活躍を隠さない。彼にとって特別なことじゃないから、隠す必要がないんだ。だから彼の功績は全世界の知るところとなる。
 大統領から表彰され、すべての人々がソニックに感謝する。街を歩けば歓声の嵐、女の子がきゃーきゃー、彼の存在はムーブメントとなり、世界的な影響を引き起こす。彼の活躍を収めたDVDが発売されるわ、グッズはできるわ、コスプレするファンはいるわと、とどまるところを知らない人気。
 そんなことになってもソニックは、変わらない。クールな彼は肩をすくめて走り去るだけ。彼はなにものにも支配されない。正義も義務もなく、ただ自分の心の赴くままに生きる。

 ……って、この、あまりにも「ヒーロー」すぎる男が主人公であるアニメは、世間的に受け入れられたのだろうか?

 少なくとも、「日本人向き」のヒーローじゃないよなあああ。
 完全無欠なんだもんよ。隙がまったくないんだもんよ。
 テレビの前のチビッコたちは、こんな男に感情移入できるんだろうか。

 あこがれることはできても、感情移入は無理だろ。

 あこがれるにしたって、あまりにできすぎていて遠い存在だしなあ。

        
 ソニックを見ていて、「似てるな」と思ったのは、なにを隠そうスナフキンだ。そう、『ムーミン』に出てくる自由人。『昭和ムーミン』ではギターを抱いた渡り鳥、渋いおっさんだったが、『平成ムーミン』ではハモニカを吹く美少年だった、あのスナフキンだ。
 もちろん、ソニックの方が相当とんがっている。姿も性格も。
 ても、根本部分でとても似ていると思った。
 彼らはあまりにも、「自由」だ。
 なにものにも支配されない。
 場所も人も、彼らをつなぎとめることができない。
 彼らはつまり、なにものにも「執着しない」んだ。
 所有することに興味がないから、すべてのモノから自由であり、またすべてのモノを持っている。
 本質として孤独を好むけれど、他人に対して友好的でもある。
 すでに「完成形」であるので、変化も成長もしない。

 本来ソニックは、「脇役」であるべきキャラクタなんだ。スナフキンがそうであるように。ソニックのテーマカラーが「ブルー」であるように。
 物語の主人公とするなら、テーマカラー「レッド」のナックルズの方が相応しい。強くて暑苦しくて善良な、欠点はあるけどヒーロー体質の、愛すべきキャラ。こーゆー男が「努力して」「障害を乗り越えて」「成長して」最終的に勝利するのが、物語のお約束。

 なのに主人公はソニックで、ナックルズは彼のライバルなんだよなあ。ライバルったって、強いのははじめからソニックで、ナックルズは1度も勝てないんだけどなあ。

 天才を主人公にして、どーやって「物語」を成立させるんだ。
 天才の天才ゆえの悩みを描く、とかゆーもんでもないしな。ソニックなにも悩んでないし。誰にも負けないし、侵されないし。彼はほとんどもー「神」の域にいるキャラクタだ。

        
 だからこそ。
 わたしはこの物語が好きだった。

 感情移入なんてとんでもない、ほとんど「神」のヒーローのなかのヒーロー、英雄ソニックが、自由に走り抜ける様を見るのが。
 好きだった。

 『ソニックX』は、そーゆースタンスで作ってあった。

 ソニックは、ヒーロー。
 絶対ヒーロー。
 「すべて」を持った男。だからこそ「すべて」に執着しない男。
 あたりまえに走り、あたりまえに誰もできないことをやり、あたりまえに人々を救う。

 世界一のあの国の大統領がつぶやく。
「大統領になれば、みんなを救えると思った」
 だけど、現実はどうだ。机の前で書類と格闘するだけの日々。ほんとうの世界の危機には無力でしかなかった。
 元特殊工作員の老人が言う。
「軍人になったのは、みんなを救いたかったからだ」
 だけど、現実はどうだ。命令で動いて、人を殺しただけじゃないか。

「ヒーローになりたかった」

 ままならない現実を抱え、傷みを抱え、背を丸めて生きているすべての人たちの前を。

 ソニックが走る。

 誰にも真似できない速さで。
 あざやかに、かろやかに。

 わたしたちができなかったこと、やりたかったこと、あこがれたこと、逃げてしまったこと、見ないふりをしてしまったこと、あきらめてしまったことを、彼はあったりまえに簡単になんてこともなくやり遂げてしまう。
 とことんクールに。

 ヒーローになりたかった。
 強くなりたかった。
 唯一無二の存在になりたかった。
 やさしい人になりたかった。
 誰かを救える人になりたかった。

 そう。
 ソニックに、なりたかった。

 徹頭徹尾、ソニックを「ヒーロー」として描いてあるんだ、このアニメ。
 ソニックの強さが、感情移入なんかはじめから切り捨ててあるよーな潔いキャラ設定と物語作りのスタンスが、小気味いい。

 いいじゃん、こんなアニメがあったって。
 こんなエンタメがあったって。
 変化も成長もしないヤツが主人公だったって。
 たしかにソニックは完全無欠すぎるけど、とても魅力的な男だし。彼の仲間たちも魅力的なんだし。
 ソニックにあこがれて、彼の生き方に歓声をあげよう。

 ……と、わたしは思っているけど。

 ねえこのアニメ、世間的にはどうだったの?(笑)

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