彼はヒーロー。@ソニックX
2004年3月28日 テレビ
アニメ『ソニックX』が終わった。
この番組が1年も放映されていたのがちと驚き。てっきり半年程度だと思ってたからさー。
内容的にも、真に盛り上がっていたのは3クールまでで、ラスト1クールはかなり蛇足っちゅーかお遊び的だったな。3クールできれいに終わっていた方がよかったかも。ファンサービスに徹したよーなラスト13話も、たのしいっちゃたのしかったが(笑)。
ところでこのアニメ、人気あったんかいね?
主人公ソニックは、あまりにも「ヒーロー」だ。そのことに、疑問をおぼえるんだ。
主人公ソニック・ザ・ヘッジホッグ。世界最速のハリネズミ。クールに我が道を行く最強の男。とにかく強い。かっこいい。
彼は「すべて」を持ち合わせている。
強さも生きる意味も自由も。
はじめから、なにもかも得ているんだ。標準装備。デフォルト。
だから彼は、「成長」しない。「障害につまずく」こともない。「目的」もない。
ソニックははじめからソニックで、なにが起ころうとソニックのままで、物語だけ進み、収束する。
こんな「主人公」アリか?
エンタメの「お約束」は「主人公の成長」だ。
弱虫くんが勇気を出して生きることでもいい。万年補欠くんが試合に出て勝つことでもいい。出世だけを考えていたエリートくんが、真の愛に目覚めるのでもいい。
主人公が精神的になにかを乗り越え、「変化する」ことで、物語のカタルシスが起こる。
それが「お約束」。
しかしソニックには、ソレがない。
彼ははじめから強くて自由で英雄だ。宿敵エッグマンにも全戦全勝、敗北を知らない。
強くてかっこいいヒーローが、いつもいつもあったりまえに勝ち続けているだけのこと。第1話も最終回も、ただただソニックが強くて勝っている。どこを取ってもそう。
ソニックにとって「勝つ」ことは「あたりまえ」なので、彼にはなんの感慨もない。それなりの達成感はあっても感動はない。彼はじつにのびのびと戦い、勝利する。
ふだんは冴えないドジ男で、いざとなったら仮面をかぶって無敵の戦士、というわけでもない。ソニックは普段からクールでかっこいい男だ。そして彼は、活躍を隠さない。彼にとって特別なことじゃないから、隠す必要がないんだ。だから彼の功績は全世界の知るところとなる。
大統領から表彰され、すべての人々がソニックに感謝する。街を歩けば歓声の嵐、女の子がきゃーきゃー、彼の存在はムーブメントとなり、世界的な影響を引き起こす。彼の活躍を収めたDVDが発売されるわ、グッズはできるわ、コスプレするファンはいるわと、とどまるところを知らない人気。
そんなことになってもソニックは、変わらない。クールな彼は肩をすくめて走り去るだけ。彼はなにものにも支配されない。正義も義務もなく、ただ自分の心の赴くままに生きる。
……って、この、あまりにも「ヒーロー」すぎる男が主人公であるアニメは、世間的に受け入れられたのだろうか?
少なくとも、「日本人向き」のヒーローじゃないよなあああ。
完全無欠なんだもんよ。隙がまったくないんだもんよ。
テレビの前のチビッコたちは、こんな男に感情移入できるんだろうか。
あこがれることはできても、感情移入は無理だろ。
あこがれるにしたって、あまりにできすぎていて遠い存在だしなあ。
ソニックを見ていて、「似てるな」と思ったのは、なにを隠そうスナフキンだ。そう、『ムーミン』に出てくる自由人。『昭和ムーミン』ではギターを抱いた渡り鳥、渋いおっさんだったが、『平成ムーミン』ではハモニカを吹く美少年だった、あのスナフキンだ。
もちろん、ソニックの方が相当とんがっている。姿も性格も。
ても、根本部分でとても似ていると思った。
彼らはあまりにも、「自由」だ。
なにものにも支配されない。
場所も人も、彼らをつなぎとめることができない。
彼らはつまり、なにものにも「執着しない」んだ。
所有することに興味がないから、すべてのモノから自由であり、またすべてのモノを持っている。
本質として孤独を好むけれど、他人に対して友好的でもある。
すでに「完成形」であるので、変化も成長もしない。
本来ソニックは、「脇役」であるべきキャラクタなんだ。スナフキンがそうであるように。ソニックのテーマカラーが「ブルー」であるように。
物語の主人公とするなら、テーマカラー「レッド」のナックルズの方が相応しい。強くて暑苦しくて善良な、欠点はあるけどヒーロー体質の、愛すべきキャラ。こーゆー男が「努力して」「障害を乗り越えて」「成長して」最終的に勝利するのが、物語のお約束。
なのに主人公はソニックで、ナックルズは彼のライバルなんだよなあ。ライバルったって、強いのははじめからソニックで、ナックルズは1度も勝てないんだけどなあ。
天才を主人公にして、どーやって「物語」を成立させるんだ。
天才の天才ゆえの悩みを描く、とかゆーもんでもないしな。ソニックなにも悩んでないし。誰にも負けないし、侵されないし。彼はほとんどもー「神」の域にいるキャラクタだ。
だからこそ。
わたしはこの物語が好きだった。
感情移入なんてとんでもない、ほとんど「神」のヒーローのなかのヒーロー、英雄ソニックが、自由に走り抜ける様を見るのが。
好きだった。
『ソニックX』は、そーゆースタンスで作ってあった。
ソニックは、ヒーロー。
絶対ヒーロー。
「すべて」を持った男。だからこそ「すべて」に執着しない男。
あたりまえに走り、あたりまえに誰もできないことをやり、あたりまえに人々を救う。
世界一のあの国の大統領がつぶやく。
「大統領になれば、みんなを救えると思った」
だけど、現実はどうだ。机の前で書類と格闘するだけの日々。ほんとうの世界の危機には無力でしかなかった。
元特殊工作員の老人が言う。
「軍人になったのは、みんなを救いたかったからだ」
だけど、現実はどうだ。命令で動いて、人を殺しただけじゃないか。
「ヒーローになりたかった」
ままならない現実を抱え、傷みを抱え、背を丸めて生きているすべての人たちの前を。
ソニックが走る。
誰にも真似できない速さで。
あざやかに、かろやかに。
わたしたちができなかったこと、やりたかったこと、あこがれたこと、逃げてしまったこと、見ないふりをしてしまったこと、あきらめてしまったことを、彼はあったりまえに簡単になんてこともなくやり遂げてしまう。
とことんクールに。
ヒーローになりたかった。
強くなりたかった。
唯一無二の存在になりたかった。
やさしい人になりたかった。
誰かを救える人になりたかった。
そう。
ソニックに、なりたかった。
徹頭徹尾、ソニックを「ヒーロー」として描いてあるんだ、このアニメ。
ソニックの強さが、感情移入なんかはじめから切り捨ててあるよーな潔いキャラ設定と物語作りのスタンスが、小気味いい。
いいじゃん、こんなアニメがあったって。
こんなエンタメがあったって。
変化も成長もしないヤツが主人公だったって。
たしかにソニックは完全無欠すぎるけど、とても魅力的な男だし。彼の仲間たちも魅力的なんだし。
ソニックにあこがれて、彼の生き方に歓声をあげよう。
……と、わたしは思っているけど。
ねえこのアニメ、世間的にはどうだったの?(笑)
この番組が1年も放映されていたのがちと驚き。てっきり半年程度だと思ってたからさー。
内容的にも、真に盛り上がっていたのは3クールまでで、ラスト1クールはかなり蛇足っちゅーかお遊び的だったな。3クールできれいに終わっていた方がよかったかも。ファンサービスに徹したよーなラスト13話も、たのしいっちゃたのしかったが(笑)。
ところでこのアニメ、人気あったんかいね?
主人公ソニックは、あまりにも「ヒーロー」だ。そのことに、疑問をおぼえるんだ。
主人公ソニック・ザ・ヘッジホッグ。世界最速のハリネズミ。クールに我が道を行く最強の男。とにかく強い。かっこいい。
彼は「すべて」を持ち合わせている。
強さも生きる意味も自由も。
はじめから、なにもかも得ているんだ。標準装備。デフォルト。
だから彼は、「成長」しない。「障害につまずく」こともない。「目的」もない。
ソニックははじめからソニックで、なにが起ころうとソニックのままで、物語だけ進み、収束する。
こんな「主人公」アリか?
エンタメの「お約束」は「主人公の成長」だ。
弱虫くんが勇気を出して生きることでもいい。万年補欠くんが試合に出て勝つことでもいい。出世だけを考えていたエリートくんが、真の愛に目覚めるのでもいい。
主人公が精神的になにかを乗り越え、「変化する」ことで、物語のカタルシスが起こる。
それが「お約束」。
しかしソニックには、ソレがない。
彼ははじめから強くて自由で英雄だ。宿敵エッグマンにも全戦全勝、敗北を知らない。
強くてかっこいいヒーローが、いつもいつもあったりまえに勝ち続けているだけのこと。第1話も最終回も、ただただソニックが強くて勝っている。どこを取ってもそう。
ソニックにとって「勝つ」ことは「あたりまえ」なので、彼にはなんの感慨もない。それなりの達成感はあっても感動はない。彼はじつにのびのびと戦い、勝利する。
ふだんは冴えないドジ男で、いざとなったら仮面をかぶって無敵の戦士、というわけでもない。ソニックは普段からクールでかっこいい男だ。そして彼は、活躍を隠さない。彼にとって特別なことじゃないから、隠す必要がないんだ。だから彼の功績は全世界の知るところとなる。
大統領から表彰され、すべての人々がソニックに感謝する。街を歩けば歓声の嵐、女の子がきゃーきゃー、彼の存在はムーブメントとなり、世界的な影響を引き起こす。彼の活躍を収めたDVDが発売されるわ、グッズはできるわ、コスプレするファンはいるわと、とどまるところを知らない人気。
そんなことになってもソニックは、変わらない。クールな彼は肩をすくめて走り去るだけ。彼はなにものにも支配されない。正義も義務もなく、ただ自分の心の赴くままに生きる。
……って、この、あまりにも「ヒーロー」すぎる男が主人公であるアニメは、世間的に受け入れられたのだろうか?
少なくとも、「日本人向き」のヒーローじゃないよなあああ。
完全無欠なんだもんよ。隙がまったくないんだもんよ。
テレビの前のチビッコたちは、こんな男に感情移入できるんだろうか。
あこがれることはできても、感情移入は無理だろ。
あこがれるにしたって、あまりにできすぎていて遠い存在だしなあ。
ソニックを見ていて、「似てるな」と思ったのは、なにを隠そうスナフキンだ。そう、『ムーミン』に出てくる自由人。『昭和ムーミン』ではギターを抱いた渡り鳥、渋いおっさんだったが、『平成ムーミン』ではハモニカを吹く美少年だった、あのスナフキンだ。
もちろん、ソニックの方が相当とんがっている。姿も性格も。
ても、根本部分でとても似ていると思った。
彼らはあまりにも、「自由」だ。
なにものにも支配されない。
場所も人も、彼らをつなぎとめることができない。
彼らはつまり、なにものにも「執着しない」んだ。
所有することに興味がないから、すべてのモノから自由であり、またすべてのモノを持っている。
本質として孤独を好むけれど、他人に対して友好的でもある。
すでに「完成形」であるので、変化も成長もしない。
本来ソニックは、「脇役」であるべきキャラクタなんだ。スナフキンがそうであるように。ソニックのテーマカラーが「ブルー」であるように。
物語の主人公とするなら、テーマカラー「レッド」のナックルズの方が相応しい。強くて暑苦しくて善良な、欠点はあるけどヒーロー体質の、愛すべきキャラ。こーゆー男が「努力して」「障害を乗り越えて」「成長して」最終的に勝利するのが、物語のお約束。
なのに主人公はソニックで、ナックルズは彼のライバルなんだよなあ。ライバルったって、強いのははじめからソニックで、ナックルズは1度も勝てないんだけどなあ。
天才を主人公にして、どーやって「物語」を成立させるんだ。
天才の天才ゆえの悩みを描く、とかゆーもんでもないしな。ソニックなにも悩んでないし。誰にも負けないし、侵されないし。彼はほとんどもー「神」の域にいるキャラクタだ。
だからこそ。
わたしはこの物語が好きだった。
感情移入なんてとんでもない、ほとんど「神」のヒーローのなかのヒーロー、英雄ソニックが、自由に走り抜ける様を見るのが。
好きだった。
『ソニックX』は、そーゆースタンスで作ってあった。
ソニックは、ヒーロー。
絶対ヒーロー。
「すべて」を持った男。だからこそ「すべて」に執着しない男。
あたりまえに走り、あたりまえに誰もできないことをやり、あたりまえに人々を救う。
世界一のあの国の大統領がつぶやく。
「大統領になれば、みんなを救えると思った」
だけど、現実はどうだ。机の前で書類と格闘するだけの日々。ほんとうの世界の危機には無力でしかなかった。
元特殊工作員の老人が言う。
「軍人になったのは、みんなを救いたかったからだ」
だけど、現実はどうだ。命令で動いて、人を殺しただけじゃないか。
「ヒーローになりたかった」
ままならない現実を抱え、傷みを抱え、背を丸めて生きているすべての人たちの前を。
ソニックが走る。
誰にも真似できない速さで。
あざやかに、かろやかに。
わたしたちができなかったこと、やりたかったこと、あこがれたこと、逃げてしまったこと、見ないふりをしてしまったこと、あきらめてしまったことを、彼はあったりまえに簡単になんてこともなくやり遂げてしまう。
とことんクールに。
ヒーローになりたかった。
強くなりたかった。
唯一無二の存在になりたかった。
やさしい人になりたかった。
誰かを救える人になりたかった。
そう。
ソニックに、なりたかった。
徹頭徹尾、ソニックを「ヒーロー」として描いてあるんだ、このアニメ。
ソニックの強さが、感情移入なんかはじめから切り捨ててあるよーな潔いキャラ設定と物語作りのスタンスが、小気味いい。
いいじゃん、こんなアニメがあったって。
こんなエンタメがあったって。
変化も成長もしないヤツが主人公だったって。
たしかにソニックは完全無欠すぎるけど、とても魅力的な男だし。彼の仲間たちも魅力的なんだし。
ソニックにあこがれて、彼の生き方に歓声をあげよう。
……と、わたしは思っているけど。
ねえこのアニメ、世間的にはどうだったの?(笑)
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