「ぼくに、なにか言いたいことがあるんじゃないの?」
「言いたいことがあるのは、お前じゃないのか」

 ふたりだけの夜。
 運命から逃れるように、ふたりで手を握り合って逃げてきた。

「どうしてぼくと一緒に来たの?」

 少年は男を見つめているけれど、男は少年を見ない。ふたりで囲むように坐った、焚き火だけを見つめている。

「帰らなくていいの?」

 振り返らない横顔に、少年は問う。

「……帰ってもいいのか?」
 
 男は、炎を見つめたまま言った。

「ずるいよ、そんな言い方。
 じゃ、ぼくが帰らないでって言ったら、ずっとここにいてくれるの?」

「お前がそれを望むなら」

 男がはじめて、顔を上げた。少年をまっすぐに見つめ返して。

          ☆

 さて、引き続きアニメ『ソニックX』の話。

 完全無欠のクール・ヒーロー、ソニック。
 このほとんど神の域にいるよーな肉体的にも精神的にも強すぎるキャラが、さらにすばらしいのは。

 なんの取り柄もない、ふつーの男の子クリスに、ぞっこん惚れていることだ。

       
 はい、前回真面目に作品語りしたので、今回は腐女子語りです。

 『ソニックX』ってさ、ソニックとクリスのラヴストーリーだったよね?

         
 第1話から、めちゃくちゃ感動的にドラマチックにA boy meets a boyをやってくれたけど……ラスト4話はアレなんですか。クリス暴走、どえらいことになってましたがな。

 ラヴストーリーとして秀逸なのは、「運命の出会い」でお互い出会った瞬間に一目惚れし、時間の経過と共に「想いを深め合い」、これで終わり、と思わせたあとに「どかんと一発」ぶちかまし、さらに「愛が深いエンディング」を迎えるという、一連の流れ。

 ソニックとクリスは、「別世界」の人間である。
 事故によって、本来重なるはずのない世界が重なり、出会うはずのないふたりが出会ってしまった。

 クリスはずっと恐れている。
 ソニックと別れる日が来ることを。

 このアニメのとりあえずのストーリーは、ソニックたちがカオスエメラルドを集め、元いた世界へ戻ること、だった。
 目的の達成が近づくたび、よろこびにわく仲間たちの中でクリス少年ひとりが、胸に痛みを抱く。
 ソニックがもっとも幸福になるとき、それは自分との永遠の別れを意味するのだと。

 クリスはソニックがいないと生きていけない。
 だけどソニックは、クリスがいなくても生きていける。
 ソニックは困難を軽々と乗り越えて、元の世界へ帰ってしまう。会えなくなればそれで終わりだ。ソニックはきっと、クリスのことなんてすぐに忘れてしまう。
 だって、ソニックを必要としているのはクリスの方だけだから。
 ソニックは誰も必要としていないから。強すぎる男だから。

 ……とゆー、クリスの悲しみが、絶望が、じつに気持ちいい(笑)。

 片想いはいいねえ。
 失われることがわかっている美しいものを、手のひらで懸命に抱えている、そーゆーせつなさ。
 クリスの立ち位置が、非常に好みだ。

 クリス視点でいくと、「絶対に叶わない恋」なんだけど。
 なんせ物語は三人称だ、クリスの知らない部分も視聴者は見ることができる。

 ソニック、クリスにべた惚れしてんじゃん(笑)。

 しかしソニックはあまりに英雄で超人で、そのうえクールでわかりにくい男なので。
 クリス、両想いだってコトに最後まで気づかない!!

 そしてソニックは、クリスが「片想い」だと悩んでいることも知っているくせに、そのことにはあまり興味がないときたもんだ。とことんマイペースでクールな男だから。オレが惚れてて、アイツもオレに惚れてんだから、それでいいじゃん、てな。
 愛されてる実感を持てないクリスが泣こうと悩もうと、ソニック様は関知せず。……ああ、鬼畜(笑)。

 いいなあ、ソニック。
 いいなあ、クリス。
 このふたりの関係は、心底ツボなのよー。
 ラヴラヴカップルなのに、救いのない痛さがいいのよー。

 そして、別れの日。
 別世界へと消えていくソニックの手を握り、クリスは走り出してしまう。
 彼を失う現実に、耐えられずに。

 ふたりだけの逃避行。

「どこへ行こう……? どこか、遠くへ……」

 運命が、ふたりを引き裂かない場所へ。
 クリスが、ソニックを失わずにすむ場所へ。

 ……そんなところ、あるはずない。
 わかっていてなお、クリスは走る。愛する人の手を握って。

 第51話「クリスの長い旅」は、えーらいこっちゃな話です。どこのBLですか、という話です。冒頭の会話は、シナリオまんまです。
 わざわざ長い回想シーン使って、出会いから想い出のひとつひとつを全部解説してくれます。この1本でも十分「ふたりの愛の軌跡」が堪能できます(笑)。

 壊れることがわかっている美しいモノ。
 失われることがわかっている楽園。
 別れることがわかっている愛しい人。

 この恋は叶わない。
 あるのは哀しい未来だけ。

 ひとりでぐるぐる苦悩しているクリスに、誰か教えてやれよ。
 ソニックは君にべた惚れだって。
 君の意識のないときに、どれだけ愛しそうに君を見ているか。君のために音速で駆けつけているか。君を特別扱いしているか。
 教えてやれよ。誰か……てゆーか、ソニック。お前が教えろ。ちゃんと愛してるって言ってやれー。
 別れることに淡々としているのも、揺るがないものがあるためだって、言葉にして言ってやれよー。
 ソニックが天才ゆえの自己完結ぶりで、クリスになにも教えてやらないから、両想いのラヴラヴカップルのにくせに盛大にすれ違って悲劇しちゃってるんだよ。もー。
 たのしすぎだ、お前ら。

 好みの極地であるBLがこんなとこに。
 わーん、ツボだよツボー。
 痛くてラヴい物語。

 そして第52話、最終回でさらに、この恋物語はすばらしい展開を見せる。

 クリスはソニックを失った。
 仕方のないことだ。ソニックがソニックであり、クリスがクリスである以上、ふたりは共に生きることができない。ソニックは自分の世界へ戻っていった。

 あれから6年。
 クリスは18歳の青年になった。

 彼はずっと、努力し続けている。

 もう一度、ソニックに会うために。

 彼のいる世界へ行くために、ふたつの世界を結ぶための研究をしているんだ。
 ソニックをソニックのまま愛するために。
 クリスは、クリスのできることを懸命にやる。

 クリス、すげーかっこいい青年に成長してます!(笑)
 そのうえ白衣姿ですよ! 科学者ですよ!

 そして、6年前のあの夜、ふたりの本当の「別れ」のシーンが回想されちゃうわけですよ。51話ではあえて描かれなかった部分が、ここで。
 小田和正(オフコース)のラヴソングをBGMに、これでもかとふたりの物語が語られていくよ……す、すごすぎ……。
 小田和正だよ? ラヴソングだよ? 本気か?!

♪君のために強くなる 僕にはもう何の迷いもない♪ ときたもんだよ。

 演出のうまさに息をのんだラストだった。
 実際びっくりした。
 画面に向かって声あげちゃったよ。

 ソニックがソニックらしくて、クリスがクリスらしくて、泣ける。

 ああ、いいもん見たよ……すげー好みのBLを見せていただけましたよ。

 ごちそうさま。

           

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