「あ、そーだ、帰ったらママのデジカメのデータを移しておかなきゃなあ」

 『ゼブラーマン』を見たあと、わたしはWHITEちゃんとふたりでごはんを食べていました。

「この間の『春の交通安全イベント』で、ママのデジカメ借りたのよ。だから、わたしが撮った分の写真は、パソコンに移しておかなきゃ。ママがデータを全部消すぞっと息巻いてたから」

 なんでも、デジカメのメモリーカードがもういっぱいで撮れないそうだ。わたしが撮った写真なんてほんのわずかだから、残りは全部母が使ったわけだ。128MBのカードが満タンになるくらい、なにを撮影したのやら。
 ちなみに母は、データの移動のさせ方も消し方もわからないので、全部わたしにやらせている。
 めんどーだなー、帰ってから、母のPCいじってやらなきゃなんないのかー。

「え、ケロちゃんのイベント、写真撮ったの?」
「撮ったよー。つっても性能悪いデジカメだから、大したモノは撮れてないけどさー。撮るだけはいーっぱい撮った」

 イベントの開催時間は1時間ほど。ケロたちタカラジェンヌの出番はそのうち10分程度。
 されど、残りの50分間もずーっと、舞台上にいてくれたからねえ。写真は撮り放題さ。

「その、わたしの撮ってきたケロの写真を見てもさ、ママは『あら、タカラヅカの人ね。……ふーん』としか言わなかったのよ。なのに、水くんの新聞の写真を見たときは『まあっ、なんてきれい!』ってベタ誉めさ。……正直者め」

 ケロちゃんのイベントのあった日の夕刊に、水しぇんの特集記事が載っていたのよ。1面使ってでかでかと。その写真の美しいこと! わたしと男の趣味が同じデイジーちゃんが速攻、待ち受け画像にして送ってくれたわ(新聞、わざわざ買いに走ったらしい)。わたしの携帯電話の今の待ち受け画像は、美しい水しぇんよ。
 その新聞を見て感嘆の声をあげる母に思わず、「ねーっ、めっちゃかっこいいでしょ!!」と、わたしも力一杯賛同したけどさ。

 ママ。
 ケロのことは「ふーん」で、水くんのことは「きれいっ。この人なんて名前? 今、劇場に行ったらこの人が見られるの?」なのね。
 すごい差ね。
 正直ね。

「……ケロちゃんだって、きれいでしょ?」

 WHITEちゃんは、首を傾げて言う。わたしの母の反応が解せなかった模様。

「アタシ、ケロちゃんにはすごく『きれいな人』ってイメージしかないんだけど……」

 いい人だ、WHITEちゃん。
 ええ、わたしだってケロちゃんは端正な人だと思ってるけどさ。
 ただあの人、見るたびに顔がチガウからさ……。

「屋外イベントだったからさ。舞台からは逆光だったの。まぶしかったんだと思うよ。ケロちゃん、目が開いてなかったのよ。それじゃ、きれいな顔で写真撮れないよ、わたしなんかのカメラと腕じゃ」

 ケロが「ふーん」程度にしか映っていなかったのは、そのせいよ。
 屋内でお花を配っていたときは、ちゃんときれいだったもん。
 ……そっちの写真を見ても、母は「ふーん」としか言わなかったけど……そ、それは、わたしのカメラの腕が悪いせいよっ。

「今度その写真、見せてよ」

 と、WHITEちゃん。

「アタシ、一度素顔のカノチカも見てみたいからさ」

 え。
 固まるわたし。

 カノチカの写真?

「……ない。カノチカ、写真撮ってない」
「ええっ? だって、ケロだけじゃなくて、カノチカもいたんでしょ、イベント」
「いた。いたけど、写真は撮ってない。カノチカも、ことことも」
「1時間もあったんでしょ? 写真撮り放題だったんでしょ?」
「そうよ、1時間もあったし、写真は撮り放題だったわ。デジカメだからフィルムを気にせず、シャッター切りまくったわよ! でもあたし、ケロしか撮ってないもん!!

 ケロファンですから! それ以外はOUT of 眼中!

「素顔のカノチカ、見たかったな……」

 遠い目でつぶやかないでください、WHITEちゃん。
 ケロちゃんの写真でよかったら、いくらでも見せるからさー。
 うちのママが「ふーん」としか言わなかった程度の写りだけど!

 
 帰宅してから、言われたとおり母のデジカメをいじりました。
 「データがいっぱいで、もう写真が撮れない!」と、うるさいので。
 128MBもナニを撮ったんだ……と思いつつ、容量をチェックすると。
 ……半分も空きがあります。

「ママ、ぜんぜんいっぱいになってないよ? なんで写真が撮れないの?」
「撮れないはずよ。だってもう、100枚以上撮ってるんだから」
「撮れなかったの? 確認した?」
「してないわ。でも、撮れないはずなんだってば。100枚以上撮ってるんだから」
「100枚撮ってるのがなんだっつのよ。まだ半分は空いてるんだから、あと100枚は余裕で撮れるわよ」
「どうして? 128枚しか撮れないはずでしょ?

 ママ……。

 128MBってのは、「128枚撮り」という意味じゃないのよおっっ。

「知らないわよ、そんなこと! 『128』って書いてあるから、128枚しか撮れないと思うじゃない!」

 いつもの口癖、「私は悪くない」を叫び出すので、それ以上の会話を放棄する。
 データをPCに移しカード自体は空っぽにして、母に渡す。はいどうぞ、いくらでも撮影して下さい。

 ああ、1日の最後にどーんと消耗したわ……。

        

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