同人誌でも商業誌でもいいけど、小説を買うときの判断方法のひとつをお話ししましょう。
 コミックとちがって小説は、パラ見しただけでは内容がよくわかりませんからね。とくにラノベやBLなどで有効な、買ってしまったあとで憤慨せずにすむための、簡単な判断方法。

 …… が少ないモノを選ぶ。

 ……とは、3点リーダと呼ばれる記号で、間だとか逡巡だとか余韻だとかいろんなことを表しますね。
 とてもお手軽な記号なんで、小説中にはまず確実に出てきます。
 が。
 お手軽であるだけに、これを連発する書き手さんの作品は、総じて文章力が低いです。
 小説たるもの、記号に頼らず、文章力で勝負してナンボでしょう。
 表現する能力がない、あるいは表現するのがめんどくせーから手を抜いている、場合に有効なのが記号です。(笑)や顔文字なんかと同じよーなもんです。

 まあ、そんなこと言ってたら、某温帯……ぢゃねえ、御大の大河小説は読めませんが。
 あまりに …… が多いので、数えたことがあるんだが、たった70ページの間に ……」 で終わる台詞が114個あった。語尾だけしか数えなかったんで、文章中の …… も合わせたら、そりゃーもー、ものすごいことに。
 ふつうに 文字」 で終わる台詞と ……」 で終わる台詞が同数あるって、すごいことだよ。
 御大の文章力の高低までわたしには判断つきませんが、彼女の作品は別格ということで、スルーしてください。ふつうはここまで …… を濫用してると読者か編集者にチェックいれられると思う。

 一般論として、 …… が多い小説は、文章力が低い。

 
 で、話は『花舞う長安』に戻る。

 玄宗@ワタルくんは、喋るとき必ず高笑いをする。

 一体何回高笑いしただろう。
 とにかく、なにかっちゅーと「はっはっはっ」とやる。
 高笑いしないと、話ができない。
 会話にならない。辻褄が合わない。散漫さを誤魔化すためだけに、いちいち笑う。

 見ていて、ものすごーくトホホなキモチになった。
 ああコレはアレだな、……の多い小説みたいなもんだ。

 表現する能力がないか、あるいは手を抜くために …… に頼った台詞みたいなもんだ。
 神秘的なキャラを表現するために、台詞の文節ごとに …… を入れる、みたいな。
 記号に頼る前に、てめえで表現してみせろよ、な、アレだな。

 楊貴妃がすねる。
 玄宗が笑う。
 楊貴妃があまえる。
 玄宗が笑う。

 この繰り返し。
 楊貴妃がなにをしても、玄宗の反応は同じ。ひたすら高笑い。

 ストーリーがなくても、いちゃいちゃ以外にエピソードすらなくても、せめて玄宗の反応がちがえば、まだ救われたのに。
 台詞の内容が変わっても、反応がどのシーンも同じなんだよ。
 同じフィルムを何度も再生して、そのたびチガウ台詞だけ後録音してあるみたいに。

 
 とまあ、物語性以外のところでも、ほんっとーに凄まじく駄作なんですが(笑)、それでもこのアホ作品、救いはあるのよ。

 だって、美しいから。

 完全に楊貴妃主役、というか、檀れい様あてがき作品でしょう。
 楊貴妃が檀れいでさえあれば、玄宗なんかどーでも誰でもよかった、てのが本音でしょうな。

 コンセプトは、楊貴妃@檀れい。あまえる楊貴妃@檀ちゃん、すねる楊貴妃@檀ちゃん。
 これらの楊貴妃@檀ちゃんを描くこと。

 ストーリーも起承転結も、男役トップスターも必要ない。
 楊貴妃@檀れいを描くことだけが目的なのだから、この作品は直球ど真ん中勝負、勝利確実!! って感じですかね。

 ワタルくんは、「楊貴妃@檀ちゃんに映りがいい」という理由で、消去法で選ばれたんだろうな。

 だから、楊貴妃相手になにがあっても高笑いしているだけなの。
 ワタルくんである必要なかったから。
 玄宗は人格も存在感も必要なかったから。

 
 ある意味、ものすごい公演だった……。

 
 愉快だったのよ。ここまで目的がはっきりしていると。
 駄作だけど、「美しい楊貴妃@檀ちゃんを見せる」という狙いは見事に果たせていたわ。
 
 まあ、ふつーのクリエイターなら、せっかくの美しい楊貴妃役者を使って、おもしろい作品を創るし、創ろうと努力するもんだが、所詮酒井には無理っていうか、そもそも努力さえしてないだろ、という感じがまた、すばらしいですわ。
 楊貴妃役者に楊貴妃やらせてさえおけば、それですべての言い訳になる、ってことで、なんの努力も工夫もしなかったよね? 手を抜くことしか考えてなかったよね? …… を多用する小説みたいに。

 演出家の手腕とは無関係に、楊貴妃@檀ちゃんが美しいので、それだけでタカラヅカ的にこの作品はアリでしょう。
 タカラヅカはそういうところ。

 玄宗@ワタルくんも、あのどーしよーもない役を、懸命に盛り立てている。涙を流しての熱演さ。
 てゆーか、ワタルでなかったらもっとおそろしいことになっていただろう。
 玄宗はあまりにバカでなさけなくて、長所皆無の男だ。
 それでもワタルが演じると、剛毅な英雄肌の男に見えるんだから、大したもんだ。
 ガラに合わない人が演じていたら、と考えると、ワタルくんに手を合わせて感謝したいくらいだよ。

 
 ものすげー愉快だったので、観ることができてよかった。
 駄作とひとことに言っても、いろいろあるもんだー。

 地方公演なので、人数が少ない分本拠地公演ではありえない、多彩な顔ぶれが要所を締めていたのも新鮮。
 みらんくんがいっぱい、清十郎様がいっぱい(笑)。
 きんさんの兵士役なんて、こわくて素敵だぞー。

 なにげにしいちゃんがいい役でしたな。
 ケロはもー、「ケロの無駄遣い」としか言えない役だけど、かといって他になにか役があったかというとなにもないので、仕方ないっちゃ仕方ないか。
 ここまで役がない芝居なのに、どれひとつまともに描き切れた役がないってのもすごいな。ふつう役が少ない方がきちんと描けるものなのに。
 さて、倍の人数になる大劇公演では、どうするんだろーなー、地方公演ですら役がなくてキャストが余っている状況で。
 たのしみだなー。

 
 美しくて目に楽しく、脳みそや感性にはつらい作品、『花舞う長安』。
 つっみどころは満載です(笑)。

        

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