朝起きて、かなしみにうちひしがれる。

 『澪つくし』、録画失敗した……。
 今いちばんたのしみなドラマなのに。若いころパロディマンガを読んで笑った「梅木はいい夫です!」なところまで話が進んでるのに……梅木の小者っぷりが全開ですげーたのしいのに……。

 昔読んだパロディマンガ、もう手に入らないんだろうなあ。『澪つくし』はパロやりたくなるくらい愉快なドラマだよねえ(笑)。

 
 『澪つくし』を見ていると、とても勉強になった。
 ストーリーラインは『真珠夫人』や『愛の嵐』シリーズとかと大差ない。
 なのに、『真珠夫人』のようなイロモノではなく、真っ当におもしろいエンタメになっている。

 キャラクタが誰も壊れていない。
 これが、ものすごーく重要。

 ストーリーが二転三転するドラマチックものって、大抵キャラは壊れてる。キャラの精神的立ち位置や言動が、ストーリーに合わせて変化するから。
 なにか出来事があるたびに、性格が変わるキャラクタばかりでできあがった物語。……それがまかり通るのが世の中の不思議。わたしは嫌いだけど、そーゆー話。『真珠夫人』や『牡丹と薔薇』みたいに、わざとやっているものならともかく。
 
 なんでキャラの性格が壊れるか。
 答えはひとつ、その方が作る側が楽だから。

 伏線張って計算して物語を少しずつ動かしていくより、その場その場でキャラの性格を変えてしまった方が、楽。
 しかも簡単に「意外性」が手に入る。
 えっ、あの人がこんなことをするなんて! という。目先だけの新しさを得られる。

 全体としての作品のクオリティは地に落ちるが、場面場面のショッキングさで視聴率を取れる。

 
 『澪つくし』も、ストーリーラインだけでいえば、ベタベタのエンタメ系、昼メロ路線だ。

 基本は『ロミオとジュリエット』。家同士が反目しあうなか、愛し合うヒロインとそのダーリン。
 運命のふたりが、障害を乗り越えて結ばれる、というよくある物語。

 このありがちストーリーは、実に小憎い彩りがされている。見ているモノをよろこばせるツボを心得た展開なの。

 ヒロインは最初女中奉公していじめられる。日本人は大好きだよね、このシチュエーション。
 その後お嬢様にジョブチェンジ。視聴者はお嬢様生活を疑似体験できる。それまでの苦労を知っているから、嫉妬もない。
 ダーリンはとことん骨太ないい男。優柔不断な態度は一切ない。障害はあくまでも家同士の確執。ダーリンはそれに真正面から挑む。小細工なし。……これはかなりめずらしい。大抵主人公ってのは、「自分の心の持ちよう」でどうにでもなるレベルのことを、大ごとぶって悩むから。
 ヒロインとダーリンはひたすらラヴラヴ。見ていて照れるくらいのいちゃつきぶり。わたしは長い間知らなかったが、ラヴラヴものって需要高いんだってね。かわいいエピソードで主役カップルがいちゃついているだけで、好感度が上がるらしい。
 そして出ました、ダーリンまさかの事故死!! 死体不明ですから、視聴者はみんな期待している。ダーリンはじつは生きていた!を。もちろんこの場合は記憶喪失がお約束。みんなが大好きなパターンですよ。
 すべてお約束の通りに展開し、再婚して子どもまで産んだヒロインの元に、ダーリンが帰ってきた。さあどうなるっ?! ええまさに、みんなが大好きなパターン。

 うまいよなー、と思うよ。
 お約束のワンパタ物語を、じつにきれいにまとめ、盛り上げている。

 時代設定をうまく使ってるのよね。
 何故なら、障害(悪役)になるのが「時代」だからなのよ。

 いちばんよく衝突するヒロインの父親は、決して悪役ではない。理不尽だし、ムカつきもするけれど、彼が悪いわけじゃないのは見ていてわかる。
 何故なら彼は、「時代」に従っているだけだから。古い時代の古い男なのよ。それがうっとうしくもあり、またかわいくもある。

 出てくるキャラの中でいちばん目に見えて「悪」というか理不尽なのは警官だとか軍人なの。彼らは横暴で傲慢。現代感覚で見ると想像もできないくらい悪の権化。こんな人間いないよ、ってぐらいひどい人たち。
 しかしそれは、時代を考えれば変じゃない。彼らは時代の常識に従って、「自分は正しい」と思って行動しているんだ。視聴者と価値観がちがうんだ。
 このわかりやすい悪の立て方もうまいと思う。また、これらがあまり出過ぎず、ときおり物語に絡む程度なのもヨシ。時代感覚を盛り上げるから。

 『澪つくし』の成功は、この「作品中の時代感覚」と「視聴者の現代感覚」をうまく使ったことだと思う。

 ヒロインとそのダーリンの行動を、視聴者が素直に応援してしまうのは、彼らの言動こそが「現代の感覚」だからだ。
 わたしたちは「家の確執で結婚が許されない」「女は家長の命令で顔も知らない男と結婚すべき」という当時の常識に従ってドラマを見ていない。
 現代人である視聴者は、「結婚は本人同士の意志が最優先」だと思って見ているから、「当時の常識」と真っ向から戦うけなげな恋人たちに喝采を送る。

 恋愛問題以外でも、いろーんなところでさりげなく、ヒロインは「時代」に「現代感覚」で新しい風穴を開けていく。「その時代の女」らしいひかえめなしぶとさで。

 それが見ていて気持ちいいんだと思う。

 ヒロインを絶叫型のキチガイ女にしなくても、いくらでも物語を盛り上げることができるんだよ(笑)。

 もちろん「あ、はしょったな」的まとめ方をされているキャラやエピソードもあるが、ヒロインと彼女の家族たちの物語は丁寧に破綻なく盛り上げてあるよ。
 エンタメの見本みたいな物語。勉強になるわ。

 
 まったく同じストーリーラインでありながら、『冬のソナタ』は笑えて仕方なかった。たぶんわたし的に「ファンタジー」が足りなかったんだと思う。
 「ファンタジー」とは、異世界を構築する力のこと。
 『澪つくし』では、大正〜昭和初期という時代が異世界感を盛り上げていた。事件ひとつひとつが時代背景を得て説得力を増した。
 『冬ソナ』はなまじ現代が舞台だから「ありえねー(笑)」の連続でツボを直撃、毎週爆笑してながら画面につっこんでいた。……本放送時なんでもう何年も前だけど。キャラの人格はけっこうころころ変化してたし。
 あ、ドラマの制作時期、てのも大きいな。20年前のドラマだからいい、てのもあるよ、『澪つくし』。『冬ソナ』も制作が20年前ならまだよかったかも。

 
 それはそうと、秋からは『あぐり』の再放送はじまりますな。
 NHK朝ドラの最高峰。上質のファンタジー。
 わたしは無事に全話録画できるかしら。なにしろNHKは時間変則的だからなー、視聴者のことなんか考えてくれないから。

 数年前に再放送していた『よーいドン!』もめちゃくちゃおもしろかった。全話録画すればよかったよ……これもすっげー勉強になる作品だったのに。
 NHKの朝ドラでおもしろいか、無神経キチガイ作品になるかの境目は、「ファンタジーを構築できるか否か」にかかってるよな。
 なまじ「大衆向け」(てゆーか、どっちかってーとお年寄り向け)な枠だからこそ、よりわかりやすいエンタメ感を要求されるから、そこでの成功作は勉強になるのだわ。
 ……わたし自身はちっとも進化してないけど(だめじゃん)。

    
 まー、なにはともあれ、今晩は花組新公だー!!(笑)

       

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