気になったのは、正塚晴彦は、水夏希を嫌いなのか好きなのか、どっちかってことだ。

 観たのが1週間前なので記憶が風化している宙組公演『ホテル ステラマリス』の話。

 由緒正しき素敵ホテルの「ステラマリス」も不況の波にはかなわない。倒産寸前のホテルにやってきた学者らしー男ウィリアム@たかこは、実は金満企業の回し者。ホテル再建がお仕事だった。
 なんで騙すかな。そうとは知らずに彼の案内役をしていたステラマリス・オーナーの娘ステイシー@花ちゃんは複雑。オーナー@まやさんも支配人のアレン@水くんも、ウィリアムの正体は知っていたのに。
 企業の回し者のわりにウィリアムはいいヤツで、真摯にホテル再建を模索している様子。みんな一丸となって、ホテルを存続させようじゃないか、えいえいおーっ。
 ……という話らしい。首傾げ。

 
 他のなにより気になったのは、アレン@水くんのキャラクタだった。

 また同じキャラかいっ!!

 ムジャヒド、ベニートときて、さらにまた同じ役?!
 クールな外見と暑苦しい愛情を持つ、二枚目半の善人かよ。都合のいいお友だちタイプの男かよ。

 3作連続同じタイプの役ってのは、水くんのことが好きだから「このタイプ以外やらせたくない」の? それとも嫌いだから「どーでもいー。てきとーにやってろ」ってことなの??

 座付き作者としてどうなのそれって。
 正塚は水くんに、なんの期待もしてないの??

 …………そんなことがいちばん気になったわたしは、相当な水ファンでしょうか……。

 
 にしても、かっこよかったです、水くん。
 アレンじゃなくて、ベニートだって言われても「そっかあベニート、ダンサー辞めて実家に帰ったんだね。ステイシーっていう幼なじみがいたのかー」とぜんぜん違和感なく話がつながりますが。

 そしてナチュラルに水くんと、主役のたかちゃん中心に「これでたか水見納めなんだ……」と思って観てたらさー……。

 どうしよう、ウィリアム@たかことアレン@水のラヴストーリーに見えてしまった。

 ベニートってば愛情過多な男だからさー、親友のこと愛しすぎてるっつーの。
 あれ? ベニートじゃなかったっけ、こいつ。そうそう、親友じゃなくて、大企業からやってきた外様副支配人のことを、愛しすぎてるのよねー。そんなに一途に見つめるなよー、問答無用で信頼するなよー。
 ほら、幼なじみの許嫁が、その外様くんに惚れちゃったじゃん。で、そこで身を引きますか、さすがベニート。
 ってゆーか、「あの男に惚れる気持ちはわかる」ってことだよね。わかるのかベニート。てゆーか、もう惚れてるのか。それで自分は男だから身を引いて、自分の好きなふたりをくっつけよーという自虐的な博愛精神発動してるな?

 片想い萌えというツボを持つわたしは、ベニートのこの片想いっぷりが大変ツボでした。
 あんたが好きなのはステイシーじゃなくてウィリアムでしょー。幼なじみだから、親愛を恋だとカンチガイしてただけで。
 大丈夫、まだウィリアムとステイシーはできあがってないから、行け行けベニート、まだ君にも未来はある!!

 なんにせよ、ウィリアムに片想いしているベニート……ぢゃねえ、アレンに萌え♪ ですわ。

 
 と、途中からアタマが別方向へ働きだしたので、それはそれなりにたのしく眺めていたんですが。

 「作品」としてはどうなのよコレ。

 感じたことをひとことで言うと冗長でした。

 めりはりに欠ける、ただだらだら流れていくだけのよーな感じ。
 もちろんオシャレな画面やらたのしいダンスナンバーやらで彩ってはあるんだけど。

 ミュージカルシーン以外の、「芝居」としてのこの物語は、「下書き」みたいな気がした。

 絵でいうなら、スケッチブックにえんぴつで軽く書いてみました、っていうか。
 花瓶に生けられた花の絵だとしたら、どんな花がどんな位置でどんな大きさでどんな花瓶に挿されているか、おおまかなアウトラインだけ書きました。これをもとに、ひとつひとつの花や、花瓶を書き込んで、さらに色を塗ります。
 今でようやく20%かな、できあがって人に見せていい姿になるまでは、あと80%は手を加えなきゃな。

 てゆー感じ。
 まだ下書き、どこになにを書くか、とりあえず印を入れただけのモノ。

 できあがりはきっと素敵なんだろーな、とは思えるけど……でも所詮下書きだしな、コレだけ見せられてもなに言っていいかわかんないや、できあがったら見せてよ。
 て、言いたいわ……。

 でもコレ、すでに商業作品としてお金取ってるんだよね。

 なんかさあ、アレみたいだよ。
 コミック雑誌でまれにあるじゃん。
 えんぴつ書きまんまのマンガが載せられてることって。

 ふつうマンガってのは、ペンで書かれていて、えんぴつは下書きなの。ペンでなぞったあとは消してしまうものなの。
 でも時間がないとかいろんな理由でペンを入れて完成させることができなかったマンガを、下書きのえんぴつのまま雑誌に載せたりするのね。
 えんぴつ書きだから当然、線は汚い。背景もろくにないし、ベタもトーンもない。かろうじて人物の顔がかいてあるし、台詞は写植が貼ってあるので「読む」ことはできる。
 どうしてもその作品が読みたい人とかには、たとえそんな状態でも、雑誌に掲載されていたらうれしいのかもしれない。

 しかしそれって、「商品」として、プロのクリエイターが作る「作品」として、どうなのよ。

 『ホテル ステラマリス』はミュージカルシーンはマメにつくってあるから、「えんぴつ書きの下書きに、スクリーントーンだけ貼ったマンガ」みたいなもんかな。
 スクリーントーンはふつう、ペン入れをしたあとで貼るものなので、下書きの上に貼るもんじゃない。下書きまでしか書けなかった、でも時間がないからこの上からトーンだけ貼ってお茶濁しちゃえ! てな感じで。

 やれやれ。
 下書き見せられちゃったかー。

 てゆーかコレ、下書きだよね?
 手を抜いたんだよね?
 ほんとうならこれから肉付けして仕掛けして、いろいろ書き込んで美しく仕上げるはずだったんだけど、ソレがかなわなかったから、「もういいや」ってことでトーンだけてきとーに貼って雑誌に載せちゃったマンガだよね?

 彫刻で言ったらまだ面取りの状態だよね?
 これから彫るんだよね?

 料理で言ったらレシピ通りに材料刻んだとこだよね?
 これから調理をはじめるんだよね?

 こんなにこんなに冗長なのは、まだ下書きだからだよね?
 これから練り上げて、おもしろくするんだよね?

 
 とりあえず、主人公の人格ぐらいは、書き込もうよ。

 なんか、わざとか? ってくらい、主人公の人格が謎になる演出がしてあるんだけど……下書きだからだよね?
 ほんとうは、あんなに散漫じゃないし、無意味な演出もしてないんだよね?

 そうだよね、正塚せんせ?

                    

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