昨日からの続き。

 だからこそ、これは夢かもしれないと思った。
 リュドヴィーク@オサの見ている夢。
 夢の奥津城、マラケシュにて。
 

 愛した女がいた。パリで。金の薔薇を贈った。彼女の罪をかぶって逃げた。
 気の置けない仲間がいた。顔を合わせれば憎まれ口ばかりだが、互いを認め合っていた。

 それらすべてを、抱きしめあえる女。
 だけど、リュドが抱いている女には「顔」がない。幻の女。
 行方不明の夫を捜しにマラケシュまで来た? はじめから、こんな女はいない。なにもかも、リュドが作り上げた幻。

 それはすべて、リュドの見ている夢。

 リュドが欲しかったもの。
 リュドが得られないもの。

 そして。

 リュドの作り上げた幻は、彼が見ている夢は、醒めるときが来た。
 ナイフを持った男、ギュンター。
 薔薇に憑かれた男はリュドを刺す。

 己れの腹に残ったナイフを引き抜く。血に汚れた刃物。
 リュドはゆっくりとその凶器を握り直す。

 これは凶器か。これは狂気か。

 リュドはギュンターを見つめる。ナイフを構え。
 そして、わらう。

 おびえる男を前にして、ナイフを構えて嗤う。

 嗤いながら、ギュンターを刺す。
 刺し殺す。

 嗤う。わらうんだ。

 何故。
 ひとりぼっちのリュドヴィーク。
 こんなたくさんの人がいるのに、みんなあなたに関わっていたり、また愛していたりもするのに、あなたと同じ世界にいる者はひとりもいない。
 たしかにここにいるのに、あなたの手は誰にも触れられない。あなたの声は誰にも届かない。

 東宝版では、リュドヴィークはたくさんの人を愛していた。
 同じ地平で戦い合うよーな、隙を見せた方がそこから奈落へ落ちるよーな、とてつもないテンションと濃度で愛し合ったイヴェット@あすか。
 無防備な笑顔を見せ、憎まれ口を叩きながらも愛し合っていた、レオン@樹里ちゃん。
 主役級の人たちが、ちゃんとリュドヴィークと同じ世界にいた。対等な能力で並び立っていた。

 それが、博多座版にはなかった。

 リュドだけが別次元にいて、誰ともふれあうことがなかった。

 なにもかもが夢。彼が見ていた夢。
 そんな、とてつもない舞台だった。

 砂色の群衆劇の中、リュドだけに他の色がある。
 彼だけは、そこに重なった別の世界で生きているから。

 出来映えとしてどうなのかはわからないが、わたしは萌えたよ。リュドヴィークの孤独感に。
 誰にも届かない想いに。

 わらいながら人を殺す姿に、戦慄した。


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