水夏希、復活。

 いやその、わたし的に。

 思えば長い間、水しぇんに飢えていたのだわ。
 いったいいつから飢えていたのだろう。いつから不在だったのだろう。
 「水夏希の無駄遣い」と思えるような役や扱いばかり目にしてきたよーなここ数公演。

 ようやく、よーーっやくっ、見たかった水夏希を見た。

 雪組全国ツアー『銀の狼』

 あ、ショーはノーカウントです。引き続き、ショーの方は「わたしの」水しぇんは不在です……きらいだー、『ワンダーランド』。そりゃそれでも、たのしもうと努力はしてるけどさー。

 『銀の狼』。

 演目が決まった段階で、ドリームが駆けめぐってましたよ。

 ジャンルイが水くんだよねっ?!

 ……勝手に、ジャンルイが2番手の役だと、脳内変換されていたよーです。
 『銀の狼』初演当時って、天海祐希が2番手だっけ……記憶が混乱。天海のやっていた役って、超イケてなかったことしかおぼえてないよ……レイってどーゆー人だっけ。棒読みでなんか演説しながら死んでいかなかったか、主役の腕の中で。
 そんな印象しかないんだ、レイについては。

 それに比べ、ノンちゃん演じるジャンルイの渋かったこと。かっこよかったこと。
 ……ジャンルイが2番手役だと、勝手に思い込んでいたよ。

 あれから何年経つんだっけ。もうおぼえてないよ。てゆーか、どんな話だったっけ……トシのせいか、記憶がかなり衰えてる……。

 まあそんな、年寄り丸出しのドリームで、それでもレイだってたぶんきっといい役だよなっ、と見たかった水しぇんが見られるよな今度こそ、と勝手に思い込んで行ってきました、全ツ初日梅芸昼公演。

 
 『銀の狼』って、レイの物語だったんだ。

 暴言。
 主人公シルバ@コム姫については、ちょっと棚上げさせてください。コム姫が素敵なのは世界の常識だから、先にレイ@水くんの話!!

 てゆーか、レイの、愛の物語だったんだ。

 知らなかった。てゆーか、どう思い返してみても、初演時にはそう思えなかった。
 てことは、今回の解釈? 演出? もしくは、役者の持ち味?

 レイ@水くん、シルバ@コム姫への愛情だだ漏れ。

 なんなのあれはーっ。
 レイの恋物語? 『銀の狼』ってこんなたのしすぎる話だったの?!

 殺し屋のレイは、身内の不始末のために仕方なく引き受けた仕事で、ターゲットの青年医師に一目惚れした。医師とその家族を皆殺しにしなければならなかったのに、どーしてもその医師だけ殺せなかった。
 医師をお持ち帰りしたところ、運命の神が微笑んだのか、彼は事件のショックで記憶喪失になっていた。
 記憶喪失ですよ。なーんにもおぼえてないの。妻と娘のことも、そして彼女たちを殺したのがレイだということも。
 コレ幸いと、レイは医師に「シルバ」という名前をつけ、仲間に引き入れた。
 ふたりの蜜月。
 記憶のないシルバは、レイ以外に頼れるモノがない。レイに言われるまま殺し屋として手を汚す。
 汚してしまえば、たとえ記憶が戻ってもシルバはもとの生活には戻れないしね。孤立するしね。レイだけが、その孤独な魂を独占できるしね。
 いや、名目は、手元に置いて監視していた、つーことでしょうけど。記憶が戻ったら、消さなければならないから。
 でもそんなの、ただの言い訳。
 レイはシルバを愛している。
 いつもいつも、彼だけを見つめている。
 シルバの記憶が戻ることをおそれているのは、愛する人を失いたくないから。レイを頼り、レイのそばにいる美しい銀髪の青年シルバ。青年医師ミシェルなんかじゃない。

 シルバを見つめるレイがもー……。

 葛藤に満ちたエロエロな瞳だったりするわけですよ!
 冷ややかさのなかに、炎が揺れていたりするんですよ!!

 てゆーか単純に、愛があふれてるんですよ!!

 なんなの? こんな話だったの?
 あの健康優良児きらきら天海祐希のときは、まーったく思わなかったよ?!

 愉快すぎる……ハァハァ。

 シルバ@コム姫がもー、傾国の美女って感じでね。
 記憶がないことを苦悩しているらしいのだが、やっぱり彼にはアンドロイド的な無機質さがあってね。
 どれだけレイが愛していても、シルバに届かないのがわかるのよ。

 そして、なによりすばらしいのはレイの爆裂片想いっぷり!

 シルバは記憶という拠り所がないし、人生に憂えているので、押せば落ちると思えるのよ。
 押し倒したらたぶん、嫌だとは言わないだろーと思うのよ。自分なんかどーなってもいー、みたいな自暴自棄な厭世観に充ちているの。

 なのになのにレイったら、手を出してないのよ!

 やせ我慢してるの。
 こらえてるのっ。

 やっぱなに、罪悪感?
 シルバをあんなふーにしてしまったのが自分だから?
 彼の記憶も人生も幸福も、なにもかも奪ったのは自分だから?
 それで、彼を愛しながらもなにも言えずにいるの?

 いつか。
 いつか、彼に殺されてやるために、そばで彼を守り続けるの?

 ……萌え。

 悶え狂ってました。

 こんな素敵ラヴストーリーだったの、『銀の狼』。ぜんぜん知らなかったよ。
 なまじ昨日、大劇場で愛の見えないラヴストーリーを見たところだったから!! 愛がだだ漏れしている色男にめろめろですよ。

 だけどシルバは半端に記憶を取り戻し、レイの元から去っていった。レイが懸命にかき口説いたのに、妻と娘の殺しを依頼したジャンルイへの復讐を選んだ。実行犯がレイだということには、気づかず。

 一緒に行こう、とシルバに訴えかけるレイの、痛切さ。
 失いたくない、と。
 殺したくない、と。

 とっとと種明かしをすることも出来たのに、あえて最後まで見守って。
 シルバがジャンルイに復讐を果たすまで、見守って。

 最後の決闘で、レイはシルバの腕の中で死んでいく。
 レイが死んだのは、たまたまだと思う。シルバになら殺されてもいいと思っていたけれど、死ぬつもりはなかったと思う。シルバをその手にかけて、自分は生き残る覚悟はあったと思う。

 強い人だから。

 愛する者を殺して、それでも生き続ける強さを持った人だったから。
 死んだ方が楽だとわかっていても。
 きっと、生き残るつもりでいた。

 ……だからきっと、ハッピーエンド。
 レイは幸福だった。
 愛するシルバの腕の中で死ねて。シルバの名前である「銀の狼」として死ねて。
 シルバを愛したときから、きっと、夢に見ていたラストシーン。

 シルバがとことんクールで、無機質だからいいの。傾国の美女だからいいの。
 レイの想いが一方通行で、報われないからいいの。プラトニックだからいいの。

 水夏希、ここにあり。

 見たかった水くんだ……美しく、凄絶に色男。クールに、だけど熱く愛する男。

 『銀の狼』ばんざい。


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