さて、それでもまだ、『JAZZYな妖精たち』の話。

 わたしがこの物語でいちばん好きな場面は、シャノン@かなみちゃんが、パトリック@あさこちゃんに昔の思い出話をするところ。

 孤児だった彼らが見た、田舎芝居。太った役者の演じる、身も蓋もないピーターパン。
 子どもが「妖精なんかいない」と口にするたび、どこかで妖精がひとり死ぬ。
 それを聞いた少年パトリックが立ち上がり、「ボクは妖精を信じる。大人になっても信じる」と宣言する。
 すると触発された子どもたちが、次々立ち上がり、同じ台詞を口にしだした。「妖精を信じる」と。同じ孤児院仲間のウォルターたちも同じように宣言した。

 シャノンは言う。
「あのときから、あなたが好きだった」

 夢も希望もない、それこそ子どもだましの田舎芝居で。大人たちが、子どもに押しつける「夢のある物語」で。
 たぶん、それらの嘘くささを全部わかったうえで、それでも立ち上がる年長の少年。
 彼の毅然とした姿に、賛同の声が挙がる。
 「肯」の声がこだまするなかで、少女はどれほどの誇らしさで少年を見上げただろう。
 胸を焦がしただろう。

 妖精は、いる。ボクは信じている。

 この胸の熱さが真実なら、妖精はいるだろう。たしかに。これほどの想いで信じるなら、きっとカタチになるはずだ。

 パトリックが素直にまっすぐな少年であること、そんな彼を愛したシャノンが清廉な少女であることが、伝わってくる。
 そんな彼らと共にあった仲間、ウォルターたちもまた、ピュアな少年たちだったのだろうと。

 
 パトリックがいつ、シャノンを愛するようになっていたのかは知らない。
 でも、この娘なら、愛されても不思議はないと思う。そばにこの微笑みがあること、あたたかさがあることこそ、人生の必須だと思っても当然だ。

 恋が見える物語が好き。
 シャノンがパトリックを恋した瞬間。
 あざやかに、脳裏に浮かぶ。
 立ち上がる少年。笑われて当然な、だけどほんとうは誰もが「信じたい」と切望していることを胸を張って言って。
 彼の勇気に、いや、それをなんの躊躇もなく行える強さに、他の弱き者たちも賛同して。
 力になる。ちっぽけな想いが、力になる。
「妖精を信じる」
 と口々に叫ぶ子どもたちの真摯な願いは、きっと目に見えないなにかを生んだだろう。
 その瞬間、どこかに妖精が生まれたかもしれない。子どもたちの「信じる力」で。
 そんな、光。
 それを見つめる少女の胸に宿る、「子ども」ではない想い。ひとりの女として、人間としての、恋。

 シャノンと同化して、パトリックに恋する瞬間。

 パトリックを、好きだと思う。
「妖精を信じる」と宣言した少年が、今、大人になって傷つきながらもまっすぐに生きている。まっすぐさのせいであちこちぶつかって、傷だらけになって、それでも曲がらずに生きている。
 パトリックを、好きだと思う。
 愛しいと思う。
 この不器用でやさしい、だけど誰より強い人を、誇りを込めて愛していると言える。

 ……シャノンになって、パトリックに恋できるの。

 いや実際、脚本がへっぽこだから、パトリックはなに考えてんのかイマイチわかない男なんだけどね(笑)。でもでも、シャノンに感情移入して恋する分にはかまわないのよ。
 またあさこちゃんがものすげー美しいしね。かっこいいしね。
 白スーツ姿なんて、どこの王子様だよ。
 きれいできれいで、泣けてくる。

 この美しい人が、わたしの愛した人。

 彼の美しさが自慢。誇り。
 この愛が矜持だからこそ、わたしもまた強くやさしく、この愛に恥じない生き方を……死に方をしたいと思える。

 パトリックを愛するシャノンが好き。
 そんなシャノンを、なさけないくらい愛しているかっこわるいパトリックが好き。

 主人公とヒロインを好きだから、どんなにぶっ壊れていようと失敗作の上に駄作だろうと、『JAZZYな妖精たち』が好きよ。

 
 とゆー主人公カップルの他に。

 殺し屋になってしまったかつての仲間、ウォルター@きりやんがものすごーく、気になる。

 これもまた脚本がへっぽこなせいで、ウォルターも人格が破壊され気味なんだけど。
 それでもウォルターが「活きて」いるのはひとえに、役者の力だろう。

 きりやんがねえ、ほんとにほんとにうまいのっ。

 やっぱ群を抜いてる気がするんですが……。「演じる」という技術において。
 舞台役者のすばらしさは技術だけでは語れないし、ことタカラヅカにおいてそれはあまり求められていないのかもしれないけど。
 地道にうまいぶん、どーしても地味になってる気がするし……ゲフンゲフン。

 それにしても、うまいです、ウォルター。
 あんなわけわかんねー脚本で、よくこれだけキャラを確立できるもんだ。

 千秋楽の前日、千秋楽と2日続けて観たんだけど、ウォルターの痛々しさが上がってるね。

 なんかこの男、壮絶に痛々しいんですけど。

 彼を傷つける者が悪役に見えるくらい、傷だらけ。
 とても丁寧に心の動きが演じられている。

 孤独で、さびしくて、でも拒絶していて、強がっていて。

 きっと、彼もまだ妖精を信じている。
 そんな自分を認めまいとしている。

 妖精を信じているきれいなままの自分の心を憎み、いっそ殺したいと思っている。

 自分のことは、そんなふーに、汚れきったものだと思い込もうとしているのに。
 パトリックやシャノンのことはきっと、大切にしたいんだろうな。きれいなまま、守りたいんだろうなと思う。

 シャノンは女の子だから、ただ守りたいだけだろうけど。
 パトリックには、複雑なものを抱えていそうだ。

「妖精を信じる」と、誰より先に声を上げた年長の友だち。
 いちばん先に立ち上がりたかったのは、ウォルターだったかもしれない。
 先を越された……いつもいつも、一歩先を歩く年上の友だち。気の強い、生意気盛りの少年にとって、そんな友だちへの感情は、憧れと親しみと友愛と、嫉妬と、どれに多く目盛りが傾くんだろうね。

 パトリックを好きだろうし、彼がきれいなままでいることを望み、守りたいと思っているだろうけれど。殺人依頼の際、すらりとパトリックの現状を口にしたように、きっと内緒でパトリックのことをずっと見守っていたんだろうけど。
 彼を汚したい、壊したいとも、思っていただろうさ。……や、腐女子な意味ではなく(笑)。

 そんな屈折を、複雑などろどろしたものを、ウォルターはいちいち全部、表現してくれるからすごい。
 揺れている心がわかる。
 痛さが伝わってくる。

 シャノンのこと、好きだったのかもなあ。
 だから余計に、一歩先を歩いてしまう、懸命にがんばっても抜かすことの出来ないパトリックは、ウォルターにとってつらい存在だったんだろうなあ。

 シャノンが不治の病だと知ったときの傷つき方も、痛いしな。見ていて。
 シャノンに罵られるときもまた。

 これで脚本がよければ、ほんとによかったんだけどなあ。ウォルターはいいキャラクタなのに。
 ミックという、これまた愉快なキャラがそばにいることだし。

 他キャラの話はまた別欄で。


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