知りたいことがあったんだ。

 舞台を見ていてね、「時が止まる瞬間」てのがあるんだよ。
 ふつーに時間は流れているし、べつにストップモーションの演技をしているわけではなくて。
 見ているわたしの側で、時が止まるの。テレビや映画の演出みたいに。
 そう、感じてしまうの。

 去年観た、花組新人公演『La Esperanza』で、主人公ふたりが恋に落ちる瞬間、時が止まって見えた。

 それは、わたしの問題だと思っていたのね。
 わたしが、そう見た、感じただけのことだと。

 でも、それからずいぶん経ってから。
 わたしはふらふらと、1冊の雑誌を買った。
 報知グラフ『宝塚ファンタジー 新人公演の主役たち&舞台』とかゆー雑誌。
 あたしゃ、キリがないから雑誌とか買わない人だし、「新公主役特集」で2100円つーのは発行部数少なそうだなとか、最初はスルーしてたのよ。
 いそいそ買ってるkineさんのことを、感心して眺めていたわ。kineさん、若い子好きよねえ。ほほほ。……みたいな。

 でもあるとき。

 表紙に、まっつが載っていることに気づいてしまったの。

 雑誌の表紙に、まっつ!
 中にインタビューが載っていることぐらい、それほどレアでもないが、表紙はレアだろう。てゆーか、最初で最後かもしれないじゃん!(不吉なことを言うのはやめましょう)

 ふらふらと、買ってましたよ。表紙のために。
 中なんか、きっとほとんど読まないことがわかっているのに。1度眺めたらそれで終わりだろうに。

 えー、それがいつだったかな。
 雑誌が発売されて、何ヶ月も経ったあとでした。だって、プレゼントの応募期限、過ぎてたし。まっつ……同期ショットに応募したかったよ……どーせはずれるにしても。

 同期3人、まっつ、そのか、あすかの3人で写っている写真が、すごくよくてね。
 まっつがめちゃ美人のおねいさんなのよ!
 なんつーかこー、「可憐?」て感じでさ。(何故語尾が上がる?)
 あすかちゃんもかわいいしさー。そのかは微妙な写りなんだけど。

 ああ、まっつ。こんなにきれーな女の子なのに、舞台ではアレなのかとか思うとさらに愛しくてねえ(笑)。上げてるのか落としてるのか、よくわからないファンモード語りですねえ。

 脱線しまくってるけど、その雑誌で。
 新公『La Esperanza』のことを語っているわけですよ、まつそのあすかが。

 そこであすかちゃんが言っているの。

「新人公演の遊園地の場面で、まっつがいて、夕陽のライトが当たってて“一人じゃダメだわ”と言って振り返った時に、もうとてもこの世のものとは思えないくらい綺麗な光景が見えたんです」

 舞台をやっていると、たまに起こるんだって。「奇跡みたいにものすごいキラキラした綺麗な風景が見える時がある」んだって。

 この記事を読んだとき、それがなんのことかわかった。

 時が止まって見えた、あの瞬間のことだ。

 カルロスとミルバ。
 それまで息の合う友だち同士だったふたりが、恋に落ちる瞬間。いや、恋に気づく瞬間。

 劇的な愛の言葉なんかなくて。
 ただ、気づくだけ。
 ふたりが、共に生きる運命に。

 そうか、あたりまえのことだったんだ。
 すべてが、ここへたどりつくための伏線だったんだ。

 そして、答えに気づいたふたりは、そっと身を寄せて去っていく。

 時が止まって見えた。
 それは、わたしの問題だと思っていた。わたしがたまたまそう感じただけのことだって。
 (当時の日記。http://diarynote.jp/d/22804/20040901.html

 でも、そうじゃなかったんだ。
 演じているあすかちゃんもまた、同じ(と言っては語弊があるが)モノを見ていたんだ。
 「この世のものとは思えないくらい綺麗な光景」を。

 役者自身がトリップしてしまうほどの、一瞬。
 そりゃあ、一観客でしかないわたしも、あちらの世界へ連れて行かれるはずさ。

 
 だからこそ、知りたかったんだ。
 役者が別世界を見、一観客であったわたしが別世界を見た、あの瞬間。

 あの瞬間は、「映像」に残るのか?

 『La Esperanza』新人公演の放送を見た。
 知りたかったんだよ。
 映像には、どこまで記録することが出来るのか。

 
 答えは、「NO」だった。

 映像には、なかった。
 あすかちゃんが見たという「この世のものとは思えないくらい綺麗な光景」も、わたしが見た「時の止まったふたり」もなかった。
 ふつうのテレビドラマのように、主人公とヒロインが台詞を言うたびにカットが変わり、それぞれのバストアップが映っているのみだった。

 そっか……ただの会話シーンになっちゃうんだ。

 それでも、「いい雰囲気だな」とは思ってもらえるんだろうけど。
 この瞬間にふたりが、世界が変わるほどの恋に落ちているなんて、伝わりようがないなと思った。

 
 かなしかった。

 
 「舞台」は「消える芸術」なんだ。
 知ってはいたけど。

 あのとき見た美しいモノは、どこにもないんだ。あの一瞬で、消えてしまうんだ。
 「人類の叡智」なんてこんなもんだ。なんの力もないんだ。

 そう思うことはかなしいよ。

 そして、よりいっそう、消えてしまう美しいモノを、愛しいと思うよ。

 
 新公『La Esperanza』、すばらしいラヴストーリーだった。周囲はかなり学芸会テイストだったんだけど(笑)、主役のふたりだけがぶっちぎりのうまさで作品を力技で創り上げていた。
 なんといっても、ミルバ@遠野あすかがすばらしい。このさりげない物語を、ミルバという孤独な少女が次の一歩を踏み出すまでの物語として、完成させている。
 ナマで観たときはミルバに圧倒されていたけれど、てゆーか、ぶっちゃけ主役はミルバにしか見えなかったんだけど。
 ビデオは偉大だねえ。カルロスもいちいちアップにしてくれるから、ちゃんと主役だってわかるよ(笑)。わたしがミルバばっか見てしまっていたところも、ストーリー上必要なところはカルロスを映してくれてるわ。

 カメラアングルに不満はいろいろあれど、「うなずくカルロス」がアップで映っているので、もういいや。
 「一人じゃダメだわ」と言って振り返ったミルバに対し、「そうだな」とうなずくカルロス。すべてを知った、理解した、深い表情。そして、ふたりで歌い出すまでのわずかな間。

 かみさまがおりてきたしゅんかんのふたり。

 カルロスが、ものごっつーオトコマエな一瞬(笑)。
 この一瞬だけで、「カルロス」という男を愛せる。ミルバと共に、恋に落ちることが出来る。

 フィクションによるカタルシス。わたしではない誰かの人生を追体験できる瞬間。
 わたしはミルバだったの。
 「一人じゃダメだわ」と振り返って、この世のものとは思えないくらい綺麗な光景を見たの。
 そして、彼を愛していることに気づいたの。彼もまた、わたしを愛していることに気づいたの。

 感動だった……いや、快感だった。
 この快感があるから、恍惚があるから、わたしは舞台を観に行くんだと思う。

 あのときわたしが恋したカルロスは、まっつだったんだよなあ。
 と、今になってなーんかしみじみ、思う(笑)。


コメント

日記内を検索