萌えはどこに転がっているかわからない。

 音楽学校文化祭で萌えました。
 
 雪組『ベルばら』感想の途中だけど、いい加減忘れそうなので、ここいらで第92期宝塚音楽学校文化祭の話を書いておこう。いやその、テキスト自体は観終わってすぐに書いてあったんだけど、UPするタイミングを失っていてねぇ……。

 でもって、まずは萌えの話。

 あー、ガキンチョに萌えたわけではありません。かん高い声の、本名まんまの女の子たちが演じる男役未満に萌えることはまぁないです。微笑ましく見つめるのみで。
 芝居だ芝居、萌えたのは。作品。

 正塚晴彦作・演出『A MONOLOGUE』。

 ひさしぶりに、正塚のいいホモを観たよ。
 物語の舞台は、どっかの劇団の稽古場。中世貴族の悲恋モノ芝居のオーディションを受けるために、若者たちがあーだこーだやっている。
 どっかで見たよーなハナシ。劇中劇のストーリーも、劇中劇について話し合う劇団員というハナシも。
 89期文化祭の正塚芝居もこんなじゃなかった? 自分たちが演じる芝居について、劇団員たちが話し合う、つーの。
 今回チガウのは、劇団員と劇中劇の人々が同じなことかな。89期のときはチガウ人たちがやっていたよね。
 つまり、時代物の人たちがドラマティックに大仰な物語を展開しているかたわらで、現代人の男の子や女の子たちがその物語について語っている。このふたつのパートが完璧に分かれていた。
 今回は、語る現代人も、劇中劇の時代物のキャラも同じ人たちが演じている。いかにもな正塚喋りの現代の男女が、ひとたび役になりきるとクラシックな「台詞」を喋る時代物のキャラクタとなる。そのギャップをたのしめ、てか。

 演じている生徒たちのことは、今は置くとして。

 たのしかったのは、この劇中劇。
 主人公のロベールくんは、大貴族のボンボン。すべてに恵まれ、すべてを備えた好青年らしい。
 彼をめぐって国家規模(笑)の陰謀が企てられる。
 当事者にとっては大変だし、たしかにまあ、国王自ら立案執行している陰謀だから国家規模なんだけど、やっていることはかなりセコい。
 ロベールくんちがお金持ちなんで、びんぼーな王様がそのお金を横取りしようとしたんだな。
 ロベールくんにラヴラヴな恋人がいることを知っていながらお姫様との結婚を迫り、「断ったら領地没収だ」てなことに持ち込むつもり、と。
 そのことがわかるだけにロベールくんは憤慨。やり方が汚いじゃないか!
 ロベールくんの両親はもちろん「お姫様と結婚しなさい」と言うし、身分違いの恋人は自ら身を引こうとするし。
 追いつめられたロベールくんは、ある作戦を思いつく。題して「ロミオとジュリエット大作戦」。うまくいけば家も王家の対面も守り、恋人とちゃっかり新生活できる!!
 しかし、そんなロベールくんの作戦すら、王様たちはお見通しで……。

 というストーリーラインにおいて。
 愉快だったのは、ロベールくんの親友。
 こいつがもー、爆走ロベールLOVE男でね。
 愉快だった。ものすげー愉快だった。

 なにしろ文化祭作品なので、24人の出演者全員に見せ場を!趣旨で作られている。
 主人公ロベールとその恋人以外のキャラは、ひとり1回の出番が基本。1回出てきて自分の立場や気持ちを独り言のよーに話し、次に自分が取るべきアクションについて語る。そうすることによって、物語が進んでいくのね。この人がこうする、それを受けたこの人がこうした、そしてそれによって次の人がこうした、と。モノローグによってハナシが展開していくの。
 親友くんのモノローグ、アツいアツい。ロベール相手に話しているときもそのラヴっぷりがすごかったが、ひとりになって独白しはじめると、もう……!!
 頭の中、ロベールのことだけなの(笑)。

 ロベールが取るべき最良の方法は、平民の娘との恋をあきらめ姫君と結婚すること。
 でも親友くんは、ロベールが恋をあきらめれないことを知っている。
 だから言うんだ。
「姫君の夫となっても、恋人を変わらずに愛してそばに置いておくだけの度量はあるだろう?」
 てなことを。
 恋人のことは愛人にしちゃえばいいじゃん。ソレでなに食わぬ顔で姫君と結婚しちゃえ。それがいちばんだよ。
 それに対し、真面目なロベールくんはぶち切れる。

「君から、そんな不実な言葉を聞こうとは!!」

 不実って、そんな。
 親友くんは、誰を裏切り誰を傷つけようと、ロベールくんのことだけを考えたからこそ、そう言ったのに。それを「不実」と言い切りますか。
 怒りと軽蔑をぶつけられ、親友くんオロオロ。

 わたしこの、「不実」のひとことに萌え狂いました(笑)。
 愛ゆえになにも見えなくなっていた親友くんの、いちばん痛いトコを突いてきたわけだから。
 親友くんの人格否定にまで至る、容赦ない罵倒だよ。

 愛するロベールにそこまで言われ、親友くんはうろたえながら、それでも必死になって、そっぽを向くロベールに取りすがる。
「どうか、早まったことだけはしないでくれ」と。

 早まったこと……思いあまって、平民娘と駆け落ちとか、心中とか。王様への反抗とか。
 なにをどう言われようと、親友くんが心配するのはただひたすら、ロベールくんのことだけなんだ。

 さて、モノローグ芝居なんでこのあとロベールくんが退場、親友くんのモノローグになる。
 ひとりでロベールくんのことを心配し、ひとりであーだこーだ言い続けるわけだな。

 このひとりごとが、またツボ。

 ロベールにとっていちばんいいのは、姫君と結婚すること。
 でも、平民娘と別れられないと言うなら、姫君と結婚して平民娘は愛人にするしかない。
 それが大人の判断。
 「不実」だと罵られたとしても、これがロベールを守る方法。

 だが。
 そこまで「大人の判断」をしていながら、たとえロベールに憎まれても軽蔑されても、彼を守りたいと思っているはずの、親友くんだったが。

「平民娘との愛を貫け、と言って、君に感謝されたいという欲望に負けそうになる」

 なんてことを、苦悩しながら口走るんだよこの男!!

 ちょっと待て。
 「愛を貫け」と言ってやりたい、まではわかる。だが、そう言うことによって「ロベールに感謝されたい」という欲望って、なんだそりゃ??!

 ロベールに愛されたいのか。
 彼によく思って欲しいのか。
 平民娘との真実の愛とか、ロベール自身の気持ちとかとは関係なく。

 親友くん自身が、ただ、ロベールに愛されたいだけなのか。

 ……こ、このホモめっっ!!(笑)

 大真面目に、時代物らしい大仰な言い回しで、なにをやってるんだよ正塚晴彦! 

 この段階ですでに、わたしは内心腹を抱えて笑っていた。
 なんなんだ、この男たち。おもしろすぎるぞ。

 親友くんの一方通行な愛と、そんな彼を見向きもしないで自分の事情だけに手いっぱい、不幸に酔っているロベールの狭量ぶりが、もお、ツボでツボで。

 長くなったので、ここでいったん切る。翌日欄へ続く。


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