月組のふたつの公演、バウと中日。
 どっちも良くて、月組の底力を感じる。

 代替わりして、それまで組の中心だった人たちは卒業してしまったけれど、次の世代が育っているのだということを見せつけてくれた。

 中日を観て、

 今、ここにあるモノだけがすべてではない。まだ、余力を残している。
 余力を残していて、出し惜しみしていて、コレだよ? こんなにこんなにステキなんだよ?
 それって、すごくね? すごいよね。

 ……と、思った。

 その余力であるところのバウを観て、さらに新生月組への安心感を深めた。

 なかなかどーして、たのしそうだよ、新しい月組。きりやんの月組。

 
 とゆーことで10日遅れの、きりやんメインの『紫子』の話。

 えーと。

 中日劇場は、ヅカファンだけの劇場じゃない。地元の方々もたくさん観に来る。
 ヅカがはじめてとか、知識がほとんどない人もいるだろう。演歌歌手の「**特別公演」の時代劇とヅカの日本物の違いがわかっていない人もいるだろう。
 どんな人であれ、とにかく普段ヅカを観ない、興味もないけど今回たまたま観ましたな人たちに、紫子@きりやんは、どう映ったんだろう?

 ぶっちゃけ、男か女か、わかったんだろうか?
 
 タカラヅカは女性だけの劇団であり、男役というものがある。……これくらいは日本人なら誰でも知っているレベル、だと思う。や、日本国民全員津々浦々知っていて当然かどうかはともかく、中日劇場へ足を運んだ人は最低限これくらいはわかっているだろう。

「タカラヅカだから、出演者は全員女の人なんだよ」
「男の役も、女の子が演じているのよね」
 ……てな感覚で客席に坐って。

 最初に現れた華美な衣装の若衆が、男か女か。
 わかったろうか?

 いや、客席から登場する紫子@きりやんは、舞台上の風吹@もりえに「あんなに美しい男がいるのか」と感心されるくらいなので、「男」だと思われて問題はない。
 が。
 舞台上でどんだけ「男にしか見えない」と称されても、女性の役は最初から女性であることを表している。それが、女性だけで演じているタカラヅカのお約束というか、性別を混乱させないための処世術なんだと思う。

 本当に「男にしか見えない、男装の女性」なんてものを出してしまうと、「他の男の役だって、男にしか見えない男装のジェンヌじゃん」ってことになる。

 だから良くも悪くもオスカルは、腰回りの曲線を強調した女っぽい軍服姿で登場する。女っぽい仕草をする。
 「男か女かわからない、という設定だが、どう見ても女」だと観客には見せる。

 それが、大野せんせ演出の『紫子』ってば。

 紫子が最初、男にしか見えません。

 いくら男として育てられた姫君とはいえ、ここまで容赦なく男の外見でいいのか。
 きりやさんはオスカル経験者、「男装の女性」ぐらい余裕で演じられるはず。
 それが男装を通り越して「男にしか見えない女性」なのは、演出家の趣味……ゲフンゲフン、指示でしょう?

 初演は観ていないので知らないけれど、わずかな映像で垣間見る限り、ここまで容赦なく「男」ではなかったと思うんだが……。

 大野せんせ……これって、オスカル@『ベルばら』への挑戦?(笑) 植爺のオスカルは見た目も中身も女々しくて、女が見て嫌な「女」の部分を持ちすぎているからなー。
 それゆえ『紫子』ではあえて、「男と間違えられる・男で通る女性」をリアルに表現させたのか、女性しかいないヅカの舞台で。

 女っぽくすることはできるだろうに、きりやんの紫子は、男まんまで。
 紫子が男みたいな女の子だとわかって見ていてなお、混乱した。

 ええっと、いいの、アレ?

 きりやんをよく知っていて、今までいろんな役を見てきていて、ヅカを見慣れていてストーリーもわかっている人間が見てもとまどうのに、ヅカのお約束や見方を知らない中日劇場のお客さんに、通じるの??

 とまどいましたね(笑)。

 遊郭場面は最初から最後まで、とまどっていた。
 コレ、演出家が植爺やイシダなら絶対、「男言葉を使うだけの女の子」になってるわ。姿も声も女女しているはず。
 いや、大野くん以外の演出家なら、ここまで男×男に見える演出にしてないんじゃないか?

 そして、きりやんに対する大野せんせの信頼を感じましたさ(笑)。
 きりやんならなんとかすると、思ってるだろ。さらに、大野せんせにはきりやさんが耽美系の繊細な人に映っているようだから、男っぽく振る舞っても問題なしと思っている?

 紫子が女だということは最初からわかっているのに、本気で女に見えなくて、困った。
 そしてその「困った」というのは、原作まんまの「正しさ」なんだと思う。実際風吹は「困った」ろうし。いくら美形でも男に伽をされるのはチガウだろ、と。

 それはまた、風吹がもりえくんであることも大きい。

 ぶっちゃけ、もりえがもっと男らしかったら、ここまで「困った」ことにはならなかったんだ。
 たとえばワタさんだったら。
 きりやんがどんだけ男っぽくても、ワタさんに比べれば「ああ、ほんとは女の子なんだな」とわかると思うの。
 ……または、マギーやそのかでも、なんとかなった気はするよ……ゲフンゲフン。

 もりえくんはものすごく「タカラヅカ」な美しい青年で、相手がふつーに娘役だったらなんの問題もなく互いにファンタジーを構築できたと思う。植爺作のオスカル@『ベルばら』なら、アンドレとして成り立ったろう。
 しかし今回の紫子@きりやんには、オスカルみたいな女々しさがない。外見も所作も少々荒いくらいに漢らしい。ただでさえ彼は骨太なキャラだ、線の細い風吹@もりえくんだと、役割分担の境目があやしい。

 「タカラヅカ」が、あやしい。
 男役というファンタジーが、あやしい。

 きりやんの強さと、もりえくんの弱さ、線の細さが顕著過ぎて、とまどった。

 なんつーんだ、紫子は太い筆ペンで劇画調に描かれていて、その横にいる風吹は0.5芯のシャープペンで薄く薄く下書きされているかのような、バランスの悪さ。
 もりえくんが主役ならきりやんが合わせるべきだけど、きりやんが主役である以上、もりえくんががんばって彼に合わせないと。
 タイトルロールのきりやんにパワーを抑えろ、薄く弱くしろというのは酷な話だし。周囲がそのパワーに合わせて全力疾走しないと。

 紫子が男にしか見えないという、脚本通りの正しい姿でいる以上、風吹はさらに男らしくあらねば、ファンタジーが崩壊する。

 どーすんだコレ、と思った(笑)。
 最初は。 
 
 見慣れてくると、風吹は風吹で味があり、よい感じなんだけどね(笑)。

 きりやん+大野くん、って、毎回びっくりさせてくれるなあ。

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