実はいちばん引っかかったのが、リオン@キムの台詞だ。

「どうして俺に話したんだ?!」

 『ロジェ』初日観劇、「復讐」連呼で、ドシリアスでダークな物語っぽく作ってあるわりに、大人になれない少年の心の旅路モノで、ウケた。

 先日欄で語ったが、主人公のロジェ@水しぇんは誰も愛していない……誰ともまともに関わり合えない、未成熟な精神の男だった。

 正塚作品お約束の友情場面……銀橋でロジェとリオンのじゃれているよーな歌が1曲あったりするんだが、ほんとのとこロジェはリオンのことを大して好きじゃない。興味もない。
 復讐に必要だから、便利だから、つきあっているだけ。
 表面上のつきあいであり、こんなのは友人とも友情とも呼ばない。
 銀橋でじゃれ合って1曲歌えば「友情シーン」だなんて、とんでもないっす。

 むしろ、心を開いても預けてもいない相手と、「定番の友情表現」をされると、心寒いっす。

 ロジェは会ったばかりのレア@みなこには、自分の過去をべらべら喋る。同じよーな境遇だからってことらしい。
 が、長年のつきあいらしいリオンには、なにも言わない。リオンはロジェが何故、戦犯探しに必死なのか知らずにいる。

 暴走するロジェに振り回されて、リオンが声を上げても、ロジェはお構いなし。ほんっとーに、心から、リオンのことはどーでもいいんだろう。

 ロジェのリオンへの仕打ちや、仲間であるヴィンセント@咲奈くんへの物言いとかを見ていると、どんどんいやなキモチになる。

 ロジェが大切なのは、自分とその家族だけ。
 あとは全部表面上のつきあい、利用しているだけ。

 いや、それはいいんだ。
 復讐のため、心を病んだ男なら、他人全部利用していても不思議じゃない。

 ただ、こんだけ愛のない男なのに、「友情」「仲間」が存在しているような描き方をされていることが、引っかかった。
 作者自身が、気づいてないんじゃないのか、自分の描いたロジェという男の造形が壊れていることに?

 やたらと「復讐」で「汚れたオレ」を強調する、苦悩ソングを歌ったりするロジェ。
 本当に、言葉だけで書かれている「復讐だけに生きる男」なら、仲間を使い捨ててもいいんだが、言葉でどんだけ悪ぶって深刻ぶっても、実際に目の前にいるロジェは生真面目な人情家で、正義の人だ。
 このまっすぐな男が、リオンやヴィンセントを利用しているだけってのは、おかしい。違和感。

 脚本で強調されているモノと、実際に見えるモノの乖離っぷり。
 それが気持ち悪かった。

 もっとふつーに、ロジェがリオンを好きだとわかるように、なんで描かないんだ? ヴィンセントが仲間だとわかる描き方をしないんだ?
 利用して、振り回しているところしかないなんて。なのに、友情ぶって、仲間ぶって、キモチワルイ。

 その腑に落ちなさが、ブエノスアイレスのホテルでの、ロジェとリオンの会話で解消されるんだ。

 それまでリオンにはなにも知らせていなかったロジェ。
 仇と追ってきたシュミット@ヲヅキの居場所を突き止め、殺しに行こうとするまさにそのときに、リオンに事情を話す。

 話したら、止められるに決まってるのに。

「どうして俺に話したんだ?!」
「どうしてだろうな」

 リオンは刑事だ。私怨による復讐、殺人を認めるはずがない。
 案の定リオンは猛反対し、そんなリオンをロジェは手錠で椅子につないで出て行く。

 ロジェにとって復讐がすべてで、シュミットを殺すことが出来ればあとはどうなってもいいと、多分もう死んでもイイと思って、出て行っている。
 リオンに会うのは、これが最後。

 だから、おそらく。

 知っておいて、欲しかったんだ。
 リオンに。
 自分が何故、ひとりの医師を殺したのかを。それによって死んだのかを。
 自分のクチではもう、語ることが出来ないだろう、その真実を。
 ……別に自殺するつもりはなかったろうから、死ぬと限ったわけじゃなかろーが、それくらいの覚悟だった。

 または、止めて欲しかった、のかもしれない。
 復讐なんて間違ってる、やめろ、と。

 それでも、ロジェは行くんだけど。

 ここではじめて。

 あ、なんだ、ロジェ、リオンのことちゃんと好きだったんだ。と、思った。

 でもそれまでの場面はあまりにも、愛がなかった。興味もなかった。お笑い担当のマキシム@コマと変わらない温度感でしかなかった。

 好意があっても、アレだったのか。
 まともに友人関係築けない人だったのか。
 つか、自分の気持ちに気づいてなくね?

 とわかると、キモチワルイと思っていた部分にひとつずつ、説明が付くようになった。

 真面目すぎて、復讐以外考えられない、対人関係構築以前の子どもなんじゃん。
 好きとか興味とか、自分では理解できないんだ。

 24年前から、心の成長が止まってしまってるんだ。

 だからレア相手も、あんなだし。
 彼女がしきりにモーション掛けてるのに、ぜんっぜんわかってないし。

 なにもかもが、これからだ。
 ロジェはようやく、「他人」を見ることができるようになったんだ。
 今までのような「自分」と「家族」というせまい世界ではなく、世の中に一歩を踏み出したんだ。

 
 そう思って見れば、それまでの「興味ない」「表面だけの友人面」も、かわいらしく、また切なく思える。
 本当は好きなのに、あるいは好きになるはずなのに、こんなふうにしか接することが出来ない、「自分」と「家族」以外の社会単位を知らない幼児なんだ、と。

 新たに一歩、大人の階段を上ったロジェ。彼の人生はこれからだ。
 てゆーか、これからこそを見せてくれ。

 そう思うからこそ、「成長しました」でみんなに見送られて旅立つロジェに、「ちょっと待った!」と思いました(笑)。

 成長して、どう踏み出すのか、せめてもうちょい見せてくれよ。
 ダメ男のMr.YUがチェンジボックスでエキサイターに変身した、そこでエンドマークはあんまりだ、変身してみんなをあっと言わせるまで描いてくれ! と、思ったように。

 どうしたもんかな、と幕間は溜息ついたよ、ハリー(笑)。

 正塚せんせが描いたつもりのものと、わたしが見たモノはチガウってだけかもしれないけれど。

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