新人公演『仮面の男』のキャスト感想続き。

 まなはるを、考える。

 まなはるくんは組ファンの認知度も高く、また愛されているキャラクタだと思う。
 きれいだし、タカラヅカ的な実力もある。なによりパワーとパッションがある。収まりきらないうるささとあつくるしさがある。

 画面の隅でも視界に入ってくる、いや、入ろうとアピールしてくる、その芸風ゆえに「早いことこの子に新公主演させてやってくれ」と思っていた。
 身長、美貌、実力、どれも学年的に早熟な出来上がりぶりじゃないか。こーゆー子は若いウチに真ん中を経験させて、スキルを上げさせてやってくれ。

 だから期待していたんだ。
 あのまなはるが、よーやく、よーーっやく、2番手役をする。
 お笑いとか名前だけのどーでもいい役とかじゃなくて、真の主役みたいなダルタニアン役だ。本気で二枚目、クールな大人の男の役だ。
 あのまなはるは、この「真ん中」に立つ役をどう演じるのか。

 えーっと。

 わたしはまなはるに、ナニを求めていたんだろう。
 新公でダルタニアンを演じるまなはるを見て、しみじみ考えた。

 まなはるはいつだって、面白かった。
 どこにいても、ナニをしていても、面白い。
 お笑いとかギャグとかじゃなく、彼の舞台姿はとても興味深い、わたしの目を惹きつける光と熱があった。
 どんな役も平板にはならない、まなはるならではのナニか、「面白い!」と思えるナニかがあった。

 だからわたしは無邪気に期待していた。
 限られた出番や役割しかない役をやっていて、あんだけ面白いんだ、準主役を演じれば、まなはるはどんだけ面白いものを見せてくれるだろうかと。

 ダルタニアンは……面白くなかった。

 ダルタニアンはシリアス一直線の役、笑わせる役じゃないよ!という意味ではなくて。
 まなはるなら、ナニかしら面白い……interestingなダルタニアンになると思ったんだ。

 なんか……ふつーだった。
 ふつーのダルタニアン。

 そして。

 あんなどーでもいい程度の書き込みの、わけわかんない脚本のまんま演じてしまうと……ほんとに、ただわけわかんない人になるんだ、ダルタニアン……。

 本役のちぎくんは、それでもスター力でねじ伏せてるんだね。あの変な役を。

 そしてなんつってもダルタニアンは、抑えたクールな役。
 まなはるは、顔芸を禁じられた。……まなはるピンチ! 得意技を禁じられた。魔法を使えなくなった魔法使いみたいなもん、そんな状態でバトルしても勝てないって!!

 まなはるダルタニアンは、ずっと同じ顔をしていた。
 最初から最後まで、怒った顔。
 あの特徴的な弧を描いた眉を強く跳ね上げて、ずーっとずーっと同じ顔。

 もちろんまなはるだから、いつも力一杯。抜きどころなく全力投球。
 全力で……力入りまくりで……同じ顔。

 たぶん彼は、全力でクールなダルタニアン、苦悩しているダルタニアン、黒いダルタニアンを演じていたのだと思う。
 しかし、いつものにぎやかな顔芸、なにをしでかすかわからない跳ねっ返り感を封じられたまなはるは、ただの不自由な人だった。

 なんなんだ、この「足りていない」芝居は。
 まなはるに感じたことのない印象。
 だっていつだってまなはるは、器からはみ出るような「やりすぎ」芝居の人だった。足りてないなんて、真逆じゃん……。

 まなはるの「やりすぎ」ぶりは微笑ましく、もともときれいな子だから余計に光となって目についていた。
 派手な芸風の子だと思っていた。

 現に、本公演で彼が演じている仮面の男。
 フィリップ/ルイ@キムの影武者で、同じ衣装で仮面を付け、素顔は決して見えない。
 でも仮面の男は、派手だ。主役の影武者だけあって、主役に負けない華を持って大暴れしている。
 顔が見えないのに、顔芸すげえ! 鼻息すげえ! さすがまなはる!
 ……なのに。
 仮面ナシで準主役を演じて、仮面の男より地味ってどういうこと? 地味というか……光っていない。

 それまで脇しかやってこなかった星組のベニーが、突然『スカーレット・ピンパーネル』で主演して、その「面白い」芸風を全開に花開いたように、まなはるにも期待していた。脇しかやってきてないけど、その脇姿がものすごーく面白いから、真ん中に立ったらさらに面白いんじゃないかって。
 役が悪かったのか。
 いやしかし、どんな役でも「面白く」してくれると思ったし、それでこそのキャラだと期待していたんだが……。

 タカラヅカの「真ん中」ってほんと、難しいんだなああ。

 まなはるも、もっと下級生時代、今よりもっともっと向こう見ずではねっかえっていた頃に抜擢していたら、違っていたんだろうか。
 脇で、少ない出番と小さな役割でのみ、自由に面白く演じられる人、脇で小芝居をする人、になっちゃったんだろうか。積んできた経験ゆえに。
 もちろんそれもいい、それも大切な役者さん。
 でも『銀薔薇』や『凍てついた明日』の頃は、すげーわくわくしたんだけどなああ。

 いやその、なにを勝手に夢を見てたんだ、つー話ですが。
 そしてなにを勝手に肩を落としてるんだって話ですが。

 すべてわたしの思い込みでしかなく、世間的には「まなはるダルタニアンは素晴らしい華と輝きで劇場を圧倒、誰もが新スターの誕生に歓声を上げた」ってことになっているのかもしれませんが。
 「まなはる、意外に地味だったね」「仮面付けてる方が派手ってどうなのよ」という感想を交わしていたのは、わたしの周囲だけなのかもしれないし。

 わたしがひとり勝手に「まなはるなら、きっと面白い」と思い込んでいて、思っていた通りのモノが見られなかった、というだけのこと。
 芝居として悪くなかったはずだし、ふつーに脚本にある通りのことはできていたんだと思う。あ、歌はひどかったけど(笑)。ダルタニアンの銀橋の歌、いい曲なのに、正しいメロディで一度も聴けない……(笑)。
 はじめての大きな役で、彼は十分によくやっていたのだと思う。
 なのにすっきりしない、ゆえにわたしは考えたよ。わたしはまなはるに、ナニを求めていたんだろう、って。

 タカラヅカってほんとに、すごいところだ。
 真ん中に立つ、って、どれほど難しいことなんだろう。

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