タカラジェンヌは大変! と、改めて思いました。

 『フットルース』制作発表会の感想、その2。

 この制作発表の2日前が、大劇場公演の千秋楽だったわけです。彼らは16世紀のスペインを生きることに心血を注いでいたわけです。
 これが東宝の千秋楽なら、またチガウかもだが、終わったのはムラ公演、これから東宝もある。まだまだ彼らは、16世紀のスペインで生きなければならないわけです。

 なのに、「1980年代のアメリカが舞台ですね。どんなダンスを踊りたいですか?」だもんなー。


 制作発表のトーク部分を見ての感想は、「タカラジェンヌは大変!」でした。
 彼らが、今、制作発表している作品について、まだなにも知らないことが、丸わかりで。

 ただ、連れてこられたんだね……。

 制作発表なら去年の『H2$』もあったけど、ヅカで上演済みの再演作で予備知識も舞台映像もあるモノと、タイトルだけしかわかっていない新作ミュージカルとでは、スタート地点がチガウ。
 また、制作発表のタイミングもチガウ。全ツやバウがそれぞれ終わって、心身共に切り替えたのちではない。

 彼らは作品についてナニも知らず、演出の小柳せんせに説明されたことしか、知らない状態。

 世に流通しているのは『フットルース』の映画版のみ、ブロードウェイ版はないよね? で、今回はまだ脚本もできてないよね?
 こんな状態であってなお、前もって個人で作品について知識を深めよ、役だの音楽だの振付だのを研究しておけ、というのではあれば、それができる態勢を劇団が用意するべきだった。
 今現在の大劇場公演がもっとも大切であり、そこに全霊を挙げている彼らに、そこまで求めるならば。

 結果、劇団もナニもしておらず、出演者もナニもしていない。
 演出家も「一昨日、制作発表で作品の見どころを語れと言われ、昨日あわてて考えた」と言い、梅芸社長は「今日披露したパフォーマンスは、昨日やっつけでやった」と言う。

 いやあ、社長の「やっつけ」発言には、びびりました。言っちゃったよこの人!と(笑)。
 そんなもんだったんだろうなと、客席も察していたとは思うけど、それは言っちゃいけないことっていうか、双方見て見ぬ振りをするところだと思っていたから。
 場内の空気が微妙になって、社長は自分の失言に気づく。で、あわてて「やっつけ」発言をフォローする。

 どんな作品になるのか、漠然とアタマにあるのは、この場では小柳たんだけ。
 その小柳たんだって、具体的にはナニも決まってない状態。「明日、装置のスタッフと打ち合わせをします」とか、あるのはイメージだけ、ここで「どんな風にします」と言って、本当に出来るかどうかわからない状況。

 まだ、ナニも話せないんじゃん。

 こうしたいな、こんな感じかな、そうするつもりです。
 どこまで話して責任が取れるのか、わからないんだろう。手探りで言葉にしている。
 唯一作品を理解している演出家が、このレベル。

 衣装を着て坐っている出演者たちは、その言葉にいちいち「ええ?!」「そうなんだ、初耳」と驚いているレベル。

 制作発表、だからこれでいいのか? まだなにも語れることはないし、ナニも知らない人たちばかりがステージに乗ってますけど、これからがんばりまーす、と言うのが趣旨の場ってことで、世の中的に認識合ってる?
 わたしは、これから作るわけだから未知の部分ももちろん大きいけれど、なによりもまず「宣伝の場」だから、商品のことは熟知した上でガンガン宣伝する場かと思ってたんだ。……それは「完成披露発表会」のことで、「制作発表会」だと、こんなもんなのか。

 それならいっそ、小柳たんに出演者たちが「私こんな衣装ですが、どういう役なんですか?」と聞く形式のトークショーにすればいいのに、と思いました。
 で、マスコミの質疑応答は「さっき小柳先生から**だと言われて、どう思いましたか」とかにすれば、生の声が聞けていいんじゃね?

 いやあ、フリーライターの人から「役をダンスでどのように表現したいですか」と質問されたときの、出演者たちの困惑顔がねえ。
 役のこともぜんぜんわかってないのに、それをダンスで、どう表現するかって、三重にわけわかんないこと聞かれましたよ??
 通常の制作発表会なら、これくらいの知識は出演者にあってしかるべきなのかなー。
 でも、今の彼らにソレを求めるのは酷っていうか、……ライターさん、空気読もうよ(笑)。

 てな一幕があったので、余計にこの制作発表の意義に疑問を持った。


 世の中の制作発表会がどんなもんかは知らんが。
 一昨日が大劇場公演の千秋楽で、昨日一日でやっつけでパフォーマンスのお稽古して、役も作品もわかんないままお化粧して衣装着て、ここにいる彼ら。

 ナニがすごいって、そんな状態でも、パフォーマンスは完璧だからだ。

 こんな感じの役、ぐらいの知識で、それでも役になって演技し、踊っちゃうんだもの。

 やっつけ発言しちゃった社長さんも、言いたかったのはそこじゃない。
 やっつけ、にしか思えないような、タイトなスケジュールしか取れなかったのに、真摯に努力する音月桂と雪組っこたちを讃辞したかったんだ。
 それでもやってのける、プロな彼らを表現したかったんだ。

 ちとKYな質問したライターさんも、きっとあの完璧なパフォーマンスを見たあとだから、「役と作品について熟知している」と勘違いしちゃったんだね。

 で、「聞かれても困るよそんなこと」「答えられることなんてナニもないよ」状態で。

 キムくんの腹の据わり方と、機転に感動した。

 答えられない質問をされたわけですよ。まだ役についてなにもわかってないのに、そんなこと聞かれても答えられるだけの素地がない。
 だけどキムくんは「答える」ために、自ら名乗り出た。そこにあるのは、トップとしての責任。
 ここで答えることが、自分の仕事であると理解し、責任を果たすために前へ出た。困惑している他のメンバーを背中にかばって。(注・イメージです。キムを含め、みんな椅子に坐ってます・笑)

 ああ、この子が雪組のトップスターなんだ。
 こうやって、矢面に立つんだ。
 その覚悟と責任感のある子なんだ。

 キムくんを研3だかくらいから眺めてきている者としては、彼の大人の男っぷりに胸熱ですよ。
 見た目少年だから軽く見えがちだけど、彼は研15の大人の男だもんよ。

 結果として、小柳せんせが、その質問を引き取ってくれたんだけどね。
 や、彼女だってわかってるもんね、この質問に生徒たちが答えようがないこと。
 小柳たんの解説を得た上で、キムくんがなんとか語り、それを受けて他のメンバーもようよう乗り切ることが出来た。……かなり、苦しかったけど。


 タカラジェンヌは大変!
 なんにもわかってないのに、仕事だから連れてこられた。
 一昨日が大劇場公演の千秋楽。まだ東宝公演も控えている。
 時間も気力も体力もぎりぎりのところで、今、ここにいる。

 それでも。

 制作発表は、おもしろかった。

 パフォーマンスに大盛り上がり。
 テンション上がった。

 今の状態で、コレなんだよ?
 彼らが今の本公演をきちんと終え、心身共に切り替えて全力で向き合い、作り上げる『フットルース』は、どれほどすばらしい作品になるだろうか!

 なんか、すごくわくわくする。

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