しつこく『華やかなりし日々』を考える。

 えー、作品の組み立て方について。

 『華やかなりし日々』の作品解説は、

>「狂騒の時代」と称された1920年代のニューヨークを舞台に、ヨーロッパから
>渡ってきた移民の青年の愛と野望の軌跡をドラマティックに描いたミュージカ
>ル。貧しい移民街からのし上がり稀代の詐欺師となって巨万の富を築いた男は、
>ショー・ビジネスの世界を次なる標的とし、劇場を手に入れようと画策するが
>……。

 と、ある。
 2011年11月18日に発表されたときのままだ。

 愛と野望の軌跡を、ドラマティックに。
 この内容のまま、華やかで良かった演出、ゆーひくんのカッコイイ演出、ラストシーンの小粋な去り際などはそのままに、どーにかならんかったんかいを、考える。

 主人公の設定は、
1.貧しい移民
2.詐欺師としてのし上がる
3.現在、巨万の富を得ている
4.劇場を手に入れようと画策する
 と、これらのことがまずあり、最終的に、
5.小粋に去って行く
 とする。

 まず、大筋。
 詐欺師ものであることから、できることは。


その1.ゼロからスタートして、詐欺が大成功。
その2.成功している詐欺師が、破滅する。

 大きく分けると、このふたつ。
 犯罪者を主人公にする場合、成功を収めてハッピーエンドにするためには、「悪人を懲らしめる義賊的役割」か、「今現在底辺にいて、その詐欺を行うことでトップに立てる(悪いことをするのは今回だけ、これからはいいことをする)」ぐらいでないと、日本人の感性に合いにくい。
 ズルをして幸福になる、他人を陥れて成功する、は、観客の共感を得にくいためだ。

 「3.現在、巨万の富を得ている」という設定なので、この場合はその2(成功→破滅)で考えるべきだろう。
 すでに持っているものを、失う話。お金持ちの悪人が、さらに悪いことをしてもっと稼いで、さらに幸せになりました、だと物語を作るのが難しい。できないわけじゃないが、1時間半の大衆向けドラマでやるこっちゃない。

 ただ、「5.小粋に去って行く」わけだから、深刻な悲劇にしてはならない。

 これを、どう描くか。

 ここがタカラヅカである以上、ヒロインとの恋愛ははずせない。
 解説にはナイが、ショー・ビジネスの世界でヒロインと出会って、恋愛するのは鉄板。

 ヒロインの設定をどうするか。


その1.ショー・ビジネスの世界にあって希有な、ピュアガール。
その2.ショー・ビジネスの世界で戦う、タフガール。

 ののすみならどっちも行けるだろうけれど、今回原田くんはその1を選んだ。

 詐欺師とピュアガールの恋。
 ピュアなヒロインは、犯罪なんか許せない。受け入れられない。


その1.犯罪者だということは秘密にする。
その2.犯罪者だと知らせる、それでも愛していると通す。

 えーと。
 原田くんが選んだのは、その1なんだよね? ロナウドはロシア貴族ではない、貧しい移民だったことは告げたけれど、今現在詐欺師であるとは教えていない。

 このルートは、難しい。

 A・その2(成功→破滅) → B・その1(ピュアガール) → C・その1(犯罪者なのは秘密) でもって最終的に「破滅」して、「小粋に去る」を成立させるのは、かーなーりー、難しいんですが。
 何故こんな難易度の高いルートを選んだんだ。

 主人公が犯罪者なら、ピュアなヒロインは心を許していない。主人公は、ヒロインをも騙しているわけだ。
 それでクライマックスでは犯罪者だということが、バレてしまう。つまりそこでヒロインは、とても傷つく。
 ヒロインを騙したあげく傷つけて、小粋に去って行くENDって、どんなんよ?

 わたしなら、最初からこのルートは選ばない。
 最初からナニも持たない底辺の男が、一念発起して悪人たちから大金を騙し取り、それでハッピーエンドという、A・その1(無→成功)をスタートとするルートなら、B・その1(ピュアガール) → C・その1(犯罪者なのは秘密)という路線もありかな。

 もしくは、A・その2(成功→破滅) → B・その1(ピュアガール)までは同じでも、C・その2を選び、「俺は悪人だ、でも君を愛している」とやる。
 ピュアなヒロインが「汚いお金なんかいらない」と言っても、とことん悪党の顔で「そんなことを言っても君は俺に逆らえないんだ」とかドSにやって、無理矢理彼女を成功に導く。
 主人公を許さず、罵るヒロイン。そののち主人公は破滅、本当ならいい気味よと思わなくてはならないのに、何故なの、心が痛い……。
 彼は悪人だけど、警察に捕まって欲しくない、ヒロインの女心が揺れ動く。
 で、主人公は警察も煙に巻いて、小粋に去って行く。悪い男だけど魅力的、ヒロインも泣き笑い。「悪人は許せない、でもアナタを愛してる」で、完。

 いちばん好みなのは、A・その2(成功→破滅) → B・その2(タフガール) → C・その2(犯罪者だと告げる)ですけどね。
 目的に向かってまっしぐらなタフガール。多少強引な方法でも、チャンスはチャンスと割り切る大人。
 主人公が犯罪者だと聞かされても、びびらない。
 ならば手を組んで、共にサクセスを目指しましょう。
 これぞまさに「俺と君は似ている」ですよ。
 マンハッタンの夜景を背景に、愛と野心のラブソングをデュエットしちゃってください。
 そんなタフな女の子なら、主人公が破滅して、されど小粋に去って行くのも笑って許してくれるでしょう。「私も負けないわ」とスターとして、スキャンダルを武器にのし上がっていくことでしょう。

 と、別ルート、別の組み立てなら、いくらでも「犯罪者の主人公が破滅して、でも小粋に去って行く」が成り立つのに。
 原田くんの選んだルートは、よりによってパラドックスルート、成り立たない式なんですよー。

 や、もちろん成り立たせることは、不可能じゃナイ。
 心理劇として本気で複雑なやりとりを書き込む気があるならば。

 でもそれ、原田くんがもっとも苦手とすることじゃん。

 まちがったルートを選んで袋小路、ゲームオーバーになっちゃったのは、いかにもデビュー作で『Je Chante』を作った人だなあという感じ。
 人の心の動きを、追うことが出来ない人なんだなと。
 それゆえにストーリー自体が破綻する、と。


 ジェンヌは大変だ、この脚本でも辻褄合わせて演技しなきゃならないんだから。
 ロナウドを美しく格好良く、脚本の粗を隠して演じてしまう、ゆーひんをすごいと思う。
 ジュディを美しく心正しく、脚本の粗を隠して演じてしまう、ののすみをすごいと思う。

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