愛が試されるとき。

 レンはアリエルが大好き。ラヴラヴ。

 アリエルは父ムーア牧師への反抗心から、父の嫌う赤いカウボーイブーツを履き、父の嫌う不良少年チャックとつきあっていた。
 だけど父と和解し、レンとラヴラヴになった今、アリエルは無理に悪ぶる必要がなくなった。

 もう赤いカウボーイブーツを履く必要はない。

 解き放たれたアリエルは、本来の彼女に戻る。
 つまり。

 年齢不詳の白いブラウスに、ふくらはぎまであるハンパな丈のスカート。色はもちろん地味なおばさん色。
 白い三つ折りソックスに、ストラップ付きの黒のエナメルシューズ。
 髪は太い三つ編み。
 手には分厚い本。
 しかも、分厚いまん丸メガネ付き。

「……ア、アリエル……?」

 驚愕するシティボーイのレン。この田舎町にそぐわないトンがったオシャレな女の子アリエルはどこに??

 アリエルの姿はまるで……そう、母親そっくりの服装センスだ。

「これが本来のわたしなの」

 にっこり笑うアリエルは、間違いなく牧師の娘、地味でダサくて真面目だけが取り柄の女の子。
 その上読書と勉強が好きだったりするので、視力も低下、ほんとはメガネが必要だった。

 ミセス・ムーアの服装を見ていたら、わかるよね。グレる前のアリエルがどんなファッションの女の子だったか。
 あのダサい服装がムーア牧師の好み、そしてパパを大好きなアリエルが、牧師の好みに忠実に育つことぐらい、誰でもわかる……。

「レンはこういう服、キライ……?」

「………………い、いや、そんなことないよ。クールだと思うな」

 愛が試されるとき。
 見た目だけで好きになったわけじゃない。最初に教会で見かけたとき、「かわいい♪」と興味津々釘付けだった、イカした女の子。そうさ別に、外見なんか……。

 うん。
 外見なんかで、愛は変わらないよね。
 がんばれ、レン。


 愛が試されるとき。

 レンはムーア牧師と和解、ファザコンのケがあるだけに牧師様大好きに。

 ムーア牧師は冷静で知的な町の指導者。5年前の痛ましい事故で心を閉ざし、厳格さに非情さを加えて町を支配してきた。
 だけどレンとの話し合いにより傷から解き放たれ、心を閉ざして生きることはなくなった。

 ムーア牧師は、本来の彼に戻る。
 つまり。

「頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるってやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ!」

 背景に炎、目には星、涙は心の汗だ、熱血説教師がそこに!!

「もうダメです牧師様。僕なんて……っ」
「なにを言うんだっ。あきらめたらそこで終わりだろう! あと1回叩けば壊れる壁かもしれないんだ、なのにそこであきらめてしまうのかっ?! たとえあと1回があと1万回続いたとして、それで壊れなかったとしても、あきらめずに叩き続けたという自信が君に残るんだ。なにも無駄なことなどナイ、少年よ顔を上げ前へ進むのだっ!!!」
「牧師様……っ!!」
 がしっと抱き合う牧師と迷える子羊。滝のように流れる目の幅の涙。

 アリエルが言ってたっけ。「昔の父さんはたくさんの人を教え、導いていた。あらゆる人に心を開いていたし、人々に希望を与え、人生を変えるのを見てきた」……って。
 あらゆる人に心を開き、人生を導き、変える、って……そうだよね。熱量が必要な行為だよね……。

「なんだレン、そこにいたのか。なにか困ったことでも? さあっ、おそれずに話してみなさい! HAHAHAHAHA!!」
 いやそんな、歯をきらーんとされても。

 愛が試されるとき。
 知的で冷静で、ちょっとはにかみ屋で、大人のかわいさのある父のような男性……だったから好きだなんて、そんなことナイ、別にそんなことでキモチを変えたりなんか……。

「いえ、牧師様、あの……今日はイイです、帰ります」
「いつでも来たまえ! 教会の門は開かれているっっ!! HAHAHAHAHA!!(ウインク+親指立て)」


 どんだけ重い傷だったんだ、5年前の事件。
 そして解き放たれた今……。

「ムーア家って……」

 レンの愛は試される。
 愛はすべてを超える、よな。


                ☆

 『フットルース』のために博多へ行ったんですが、旅はなにかとやらかしまくりで、ボロボロでした。

 びんぼーゆえ夜行バスだったんですが、行きのバスでやらかしたことがイタすぎて、しばらく立ち直れなかったっす。

 『インフィニティ』の放送初日だったので、わたしははりきって音声だけでも携帯機に落として「バスの中で聞くんだっ」と家を出る寸前まで作業をしていたわけですよ。アナログダビングなんで音声悪いけど、いいんだ、わたしひとり楽しむだけなんだからと。

 で、夜行バスに乗り、さっそくイヤホンで聴きはじめたの。
 スイッチオン、よかった、ちゃんと録音できてる。でも録音レベル低いなあ、音が小さいわ。ボリュームを最大にしてよーやくふつーに聞こえるくらいだわっと。

 消灯まではまだ時間があり、連れと喋ってる人がいたり、雑然としたムードではあった車内。
 変だな……なんかわたし、注目されてる気がする……?
 なんでだろう……?

 はい。

 『インフィニティ』はオープニングが終わり、コマくんが「世界はひとつ」を歌っていました。
 さらに「ニューヨーク」になろうとしていました。

 そこでようやく気づいた。
 イヤホンを挿していた穴が、マイク穴だということに。

 イヤホンを耳から外しても、まっつの歌声が響いている。
 いやむしろ、イヤホンを外した方が、よく聞こえる。

 ……………っ!!!(声にならない叫び)

 フル音量で、バス中にとどろかせていた、『インフィニティ』実況音声を!!

 うきゃ~~~~っ!!

 ごごごごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!

 道理でみんなわたしを見ていたはずだ、無言の抗議、圧力かけてたわけだ。てゆーか、教えてよ、あるいは叱ってくれていいです迷惑行為、そしたら「間違いです、ごめんなさい」と言えた。でもでもみんな無言だから言い訳も謝罪も出来ない、うひゃ~~っ!!

 もーしばらく恥ずかしさで身の置きどころなくて、どーしていいかわかんなかった……。
 バス乗ったところですから、同じメンバーで一晩過ごすわけですよ……痛い……痛すぎる……。

 同じバスだったみなさん、ほんとにごめんなさい。


 最初からコレだもん。
 他にもいろいろ、次々とやらかしてましたよ……。

 恥かきまくりーの。


 落ち着いた大人になりたい。

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