なんやかんや言ってますが、『JIN-仁-』は好きです。今回の公演、ショーと芝居どっちが好きかと聞かれたら、芝居と答えるくらいには(笑)。

 迷走上等!のサイトーくん作『JIN-仁-』は、モチーフが好きなモノであることに加え、愛情だけは見える作りであるため、脳内補完+脳内盛り上がりできるのね。

 サイトーくんは力不足でまったく描けていなかったけれど、咲と結命、トップ娘役がふたりのヒロイン役を演じているのは、ふたりが別人設定ではなく、「同じ魂」「何度めぐりあっても愛し合う、運命の恋人」ってことでしょ?
 最後に出会う結命のなかに、咲が生きているわけでしょ? だからこそ、再び恋に落ちるわけでしょ?

 仁@キムは、恋人の結命@みみを失い、「もしやり直せるなら 君を今度こそ救うのさ」という思いを抱き、結命ではないけれど彼女と同じ魂を持った咲に出会い、彼女に惹かれ、咲を愛し江戸の人々を愛し真摯に生きることで、結果結命を救うことになった。
 結命のなかに、咲が、そして江戸の人々との出会いが生きている……。
 だからわざわざ、オリジナルヒロインの名前が「結命」……命を結ぶ、なんだよね?

 そーゆー話だよね?

 そのスピリッツが、ぜんぜん描けてないけど(笑)、描きたかったんだってことは伝わっているから、泣けるの。

 「神の手」ともてはやされながら、いちばん大切な人を救えなかった。
 その、悔恨。

 それは、「すべてを持ち合わせた人」と謳われながら、誰よりも孤独だった、カルロス@『ドン・カルロス』に通じる。

 誉められれば誉められるほど、、感謝されればされるほど、彼の心の傷はうずく。血を流す。
 他人が見ているモノと、真実の自分との乖離に、絶望がつのる。

 咲の役目は、仁を救うことなんだなあと、思った。

 自分自身を許せず、罪を背負ったまま生きている仁。
 どれだけ他人を救い、神と崇められようと、彼は自分を救えない。
 他人を救うことで、医師としての使命を全うすることで、折り合いを付けようと努力しているけれど、ほんとうのところ、彼は自分を許せずにいる。

 人を救うことは、仁が生きている意味……いや、言い訳なんだ。

 や、もちろん仁は誠実で真摯な医師だから、目の前で傷病に苦しむ人をあるがままに誠心誠意救っている。それはほんとう。
 だけど、その奥の奥で。

 他人の命を救っているんだから、必要とされているんだから、生きる意味はある……愛する人を救えなかったような自分でも、生きててもいいんだ……そう、言い訳になっているんだろう。
 それが、夕霧@杏奈を救えなかったことで、仁はその「言い訳」すら失う。
 現代の設備さえあれば救えた……つまり、「神の手」は仁個人ではなく、あくまでも現代の技術、設備、……仁自身になんの価値もない。
 結命ひとり救えなかったように、仁にはなにもできない、誰も救えない……。

 そう絶望した彼が、目の前の咲にすべてをぶつける。
 「もう限界だ」と。
 自分は150年後の未来から来ただけの、神でもなんでもない、無力な男なのだと。

 その仁の悔恨を、罪の意識を、自虐を、咲が、救う。

 難しいことなんてなにも理解しない、無垢な魂で。
 無邪気な誠実さで。

 全肯定する。

 神じゃない、無力だ、無意味だ、と投げ捨てる仁の言葉を聞いたのに、それを聞く前と同じ信頼を語る。仁は人々を救っていると。
 仁が救えなかった恋人も、幸せであったのだと。

 無力じゃない、無意味じゃない。

 仁は人々を救い、幸せにしている。

 仁自身が信じられずにいたことを、咲が教える。
 仁が見えないままだった世界を、咲が照らす。

 だから仁は、「この世界で生きる」と決意する。
 なにをなすべきか……自分を肯定し、自分に出来ることをする。自分を愛し、自分の生きるこの世界を、出会う人々を愛する。

 結命を救えなかったことで閉ざされていた仁の瞳が、心が開く。
 咲によって。

 そして……。

 咲と共に生きる決意をした仁は、やがて再び現代へ戻り、そこで生きている結命と再会する。

 医術に生きるのだと言った咲が、医師となった結命のなかに生きている。

 形を変えて、何度でも仁の前に現れる結命(咲)。
 絶望と希望、哀しみと喜びを編み込みながら進む、時間の輪。

 そのなかで、仁と結命(咲)は出会いと別れを繰り返しつつも、真摯に生き続ける。
 エンディングでは、仁と結命の物語ははじまっていない。
 きっとこれから、はじまる。
 いくつもある、彼らの物語、そのなかのひとつ。

 いつか別の時代では、ロミオとジュリエットだったかもしれない。
 ニコライとマーシャだったかもしれないし、カルロスとレオノールだったかもしれない。
 別の平行世界では、レンとアリエルだったかも、しれないね。


 主題歌の「My Life Your Life」では、「もしやり直せるなら 君を今度こそ救うのさ」とある。

 そしてこの歌は、さらにこう続くのさ。
 「もしやり直せてもまた 同じ道を歩くだろう 君と過ごした 美しい季節」

 何度出会っても、どこの時代、どんな姿でも。
 ロミオとジュリエットでも、仁と咲でも。

 何度やり直せたとしても、別れが待っているとしても。

 それでも、君を愛する。

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