あの頃わたしは、まだ君を知らなかった。@音月桂サヨナラショー
2012年11月11日 タカラヅカ 1998年。
宝塚歌劇団に5つめの組、宙組が出来た。
最初の公演は、『エクスカリバー』『シトラスの風』。
発売日、いつものように梅田へ並びに行ったわたしは、とんでもなくいい番号を引いて、好きな日時のチケットを買うことが出来、やたらめったら興奮していたと思う。
贔屓組でないと、いい番号引けちゃうんだ。そんな話を、友だちとしていた。
たかちゃんと花ちゃんが好きだったわたしは、複数回観劇した。雪組ファンだったので、元雪組の宙組っこに客席からエールを送っていた。
初舞台生公演だったから、もちろん研1生口上とラインダンスがあった。
しかし、当時のわたしは初舞台生になんの興味もない。出来上がったスターさんに夢中で、全員同じ顔に見えるロケットはただぼーっと眺めていただけだ。
初日を観たかどうかおぼえていないのだが、千秋楽は観に行ったはず。たかちゃんのアドリブにきゃーきゃー言っていたので。
今、自分が確実に見たはずの回の、初舞台生口上のメンバーを確認した。
音月桂・舞城のどか・高宮千夏
今なら全員わかる。でも当時はまったく眼中にないままだった。
あそこに、彼らはいた。
あのとき、あの舞台に、彼らはいた。
音月桂サヨナラショーにて、『シトラスの風』を歌う84期の4人、みっちゃん、まっつ、キム、ゆめみちゃん。
あれから、15年。
長いよ。
長い時間だよ。
わたし自身変わった。わたしの周囲だって変わった。タカラヅカも変わった。世の中も変わった。
その年生まれた赤ん坊が、中学3年生になっている、そんな時間。
わたしがまだ知らないときに、知らないところで、彼らはいて、歌い踊っていた。彼らはもう、彼らとして存在していた。
いやそれは、当たり前のこと。
すべての人が、わたしと出会う前にもふつーに存在しているわけで、ふつーに人生を送っている。
彼らだけでなく、世界中の人々が、そう。
でもわたしには、とてつもないことに思えた。
あの頃、わたしは知らなかった。
あのラインダンスの少女たちの中に、音月桂がいること。未涼亜希がいること。
こんなに、大好きになる人がいることを、知らなかった。
ただぼーっと見ていた。なんの疑問も感動もなかった。あるのが当たり前、与えられるのが当たり前と、なんのキモチもなく受け止めていた。
当たり前のことなんて、なにもないのに。
ものすごい確率の偶然だとか努力だとかめぐり合わせだとか、人為と天意が重なって、現在がある。
きっとなにかひとつボタンが掛け違っていても、現在はなにかしら違った形になっていた。
15年、と思うと、途方もない。
15年前の自分を、周囲の人を、思い返すだけで、どれだけ大きく変わっているか。
その途方もなさを超えて、キムくんがいる。まっつがいる。
『シトラスの風』の同期並び場面を観たときにわきあがったのは感動であり……感謝だった。
ありがとう。
15年前、ただの固まりだった、個別に考えることもない、ラインダンスの少女たちだった。
そこで終わることなく、ここまで来てくれた。
こんなに魅力的になり、大好きにさせてくれた。
ありがとう。
こんなに、こんなに、好きにならせてくれた。
出逢えて良かった。
好きになれて良かった。
人生ってすごい。
生きるってすごい。
なんとも思わなかったあの「ヤッ」の女の子たちの中から、こんなに大好きになれる人たちができるんだ。
最初から「運命の出会い!!」である必要はない。
すべての出会いは無駄じゃないんだ。人生は無駄じゃないんだ。
「ふつう」だったあの頃に、宝物が眠っていたように。
だからもう、なにもかもが愛しい。
とまあ、『シトラスの風』に限らず、泣き通しだったんですがね。
「エメ」@『ロミオとジュリエット』ではじまったサヨナラショー。
舞台には、キムくんひとり。
『ロミオとジュリエット』、なのに、ロミオだけ。どうしてソロで歌うの、みみちゃんは?
すぐにわかった、わたしたちが、「ジュリエット」だ。
あそこにいるのはロミオ。
客席にいるのが、わたしたちが、ジュリエット。
「永遠」の愛を、彼は誓ってくれている。
わたしたちに。
キムくんのサヨナラショーでどの曲があるか、あまりちゃんと考えていたわけじゃないけど、安心していた。
わたしが聴きたい「ニコライとプガチョフ」「世界の王」は絶対あるだろう。あと、「心から心へ」も絶対ある。これはラストソングで雪組全員で歌い上げかな。
これだけははずれないと、勝手に思い込んでいた。
で、これだけ聴ければあとは構成がどうとか演出がどうとか、まったく気にならない。
なんの根拠もなく、そう思っていた。
そしてそれは、裏切られることなく、舞台で歌われた。
望んでいた、以上のカタチで。
「世界の王」。
わたしが、最も愛する曲。
2011年、1月1日。
この宝塚大劇場で、この曲を聴き、この場面を観て、震撼した。
心臓がしびれるような感動、高揚感を味わった。
キム、ちぎ、まっつ。この3人で、新しい雪組を盛り立てていく。
トップ娘役はおらず、決まっているのはこの3人の序列のみ。
「世界の王」を歌いながら銀橋を渡る彼らに、「新しい時代」を感じて高揚した。
胸が高鳴り、きゅーーっと痛んだ。
拳を握った。
強い喜びや期待は、切なさに似た鋭さで胸を焼いた。
あれから、まだ2年経ってない。
あれは、ついこの間のこと。
期待と幸せの記憶が生々しいだけに、今、別れの形見として再現される姿に、胸の痛みをもてあます。
あのとき、幸せだったのに、うれしかったのに、あんなに切なかったのは、未来のこの痛みとリンクしていたのか。
そう思えるほどに。
1年と11ヶ月前の姿をそのまま、再現してくれた。
キムちぎまっつ、そして青チーム。
そして、「ニコライとプガチョフ」。
この曲は絶対入っているだろうけれど、キムくん主演作メドレーの中のひとつに差し込まれている、くらいかと思った。
ガチに1場面来た。
しかも、銀橋だ。
ニコライ@キムとプガチョフ@まっつの掛け合いをまんま、銀橋でやってのけた。
瞬時に役に入るキムくん。
歌い出すまっつはもとより、その歌を黙って聞いているキムくんの入り込み方がすごい。
まっつは当時よりさらに歌がうまくなっている。凄みが利いている。
キムくんとの掛け合いが、ハモりがすごい。
並び立つ。
そんな言葉を思う。
一歩も引かず、対峙する。
舞台人として。役者として。同期として。
心の表面が直に「世界」に晒されるような感覚。
このふたりは、役者としての相性が半端なかった。最初はどうかと思った部分はあった、しかし共に舞台に立つうちに、ふたりで作るもの、その相乗効果は半端なかった。
キャラクタもスターとしての育ちもまったく正反対のふたり。
でもこのふたりもまた、見えないなにかに導かれ、同じ舞台に立ったんだろう。
キムみみのなれそめ作『忘れ雪』から、次の『ノンノンシュガー』の歌い出し「いろんなことがあったね」で、キムくんがみみちゃんに語りかけるように歌った瞬間、隣の席の人の喉が鳴った。
いずこも同じ、あれは、決壊する。
客席、泣き崩れ。
大好きだ、キムみみ。
握った手を放さない、そんな夢。
少女のころ見た夢。はじめて好きになった男の子、「この手は放さない」「ずっと一緒ね」……遠い日の夢、儚い夢。
その具現。
退団者の場面もあり、キムくんのなつかしい曲もたくさんあり。
ラストは全員で、黒燕尾と薄ピンクのドレスで、「心から心へ」。
まっつが、この歌を歌うのか。父上はこの歌、歌ってなかったよね。あの場にはいたけれど、コーラスには参加してなかった。
今ここで、こんなカタチで歌うことになるのか。
ラストの衣装で退団者挨拶を見守ることになるはずだから、明日の千秋楽、組子は黒燕尾と薄ピンクのドレスか。『GOLD SPARK!』のギンギラ衣装よりいいか、……なんてこともちらりと考える。
そして、こんだけ客席大泣きで拍手ものすごくて、空気がひとつになっているのに。
スタンディングもなくカーテンコールも少なく、ぴたりと終わって席を立つ雪組ファンの行儀の良さに、内心ウケた。
これもまた、組カラー。
培われる、伝統。
愛しい。
宝塚歌劇団に5つめの組、宙組が出来た。
最初の公演は、『エクスカリバー』『シトラスの風』。
発売日、いつものように梅田へ並びに行ったわたしは、とんでもなくいい番号を引いて、好きな日時のチケットを買うことが出来、やたらめったら興奮していたと思う。
贔屓組でないと、いい番号引けちゃうんだ。そんな話を、友だちとしていた。
たかちゃんと花ちゃんが好きだったわたしは、複数回観劇した。雪組ファンだったので、元雪組の宙組っこに客席からエールを送っていた。
初舞台生公演だったから、もちろん研1生口上とラインダンスがあった。
しかし、当時のわたしは初舞台生になんの興味もない。出来上がったスターさんに夢中で、全員同じ顔に見えるロケットはただぼーっと眺めていただけだ。
初日を観たかどうかおぼえていないのだが、千秋楽は観に行ったはず。たかちゃんのアドリブにきゃーきゃー言っていたので。
今、自分が確実に見たはずの回の、初舞台生口上のメンバーを確認した。
音月桂・舞城のどか・高宮千夏
今なら全員わかる。でも当時はまったく眼中にないままだった。
あそこに、彼らはいた。
あのとき、あの舞台に、彼らはいた。
音月桂サヨナラショーにて、『シトラスの風』を歌う84期の4人、みっちゃん、まっつ、キム、ゆめみちゃん。
あれから、15年。
長いよ。
長い時間だよ。
わたし自身変わった。わたしの周囲だって変わった。タカラヅカも変わった。世の中も変わった。
その年生まれた赤ん坊が、中学3年生になっている、そんな時間。
わたしがまだ知らないときに、知らないところで、彼らはいて、歌い踊っていた。彼らはもう、彼らとして存在していた。
いやそれは、当たり前のこと。
すべての人が、わたしと出会う前にもふつーに存在しているわけで、ふつーに人生を送っている。
彼らだけでなく、世界中の人々が、そう。
でもわたしには、とてつもないことに思えた。
あの頃、わたしは知らなかった。
あのラインダンスの少女たちの中に、音月桂がいること。未涼亜希がいること。
こんなに、大好きになる人がいることを、知らなかった。
ただぼーっと見ていた。なんの疑問も感動もなかった。あるのが当たり前、与えられるのが当たり前と、なんのキモチもなく受け止めていた。
当たり前のことなんて、なにもないのに。
ものすごい確率の偶然だとか努力だとかめぐり合わせだとか、人為と天意が重なって、現在がある。
きっとなにかひとつボタンが掛け違っていても、現在はなにかしら違った形になっていた。
15年、と思うと、途方もない。
15年前の自分を、周囲の人を、思い返すだけで、どれだけ大きく変わっているか。
その途方もなさを超えて、キムくんがいる。まっつがいる。
『シトラスの風』の同期並び場面を観たときにわきあがったのは感動であり……感謝だった。
ありがとう。
15年前、ただの固まりだった、個別に考えることもない、ラインダンスの少女たちだった。
そこで終わることなく、ここまで来てくれた。
こんなに魅力的になり、大好きにさせてくれた。
ありがとう。
こんなに、こんなに、好きにならせてくれた。
出逢えて良かった。
好きになれて良かった。
人生ってすごい。
生きるってすごい。
なんとも思わなかったあの「ヤッ」の女の子たちの中から、こんなに大好きになれる人たちができるんだ。
最初から「運命の出会い!!」である必要はない。
すべての出会いは無駄じゃないんだ。人生は無駄じゃないんだ。
「ふつう」だったあの頃に、宝物が眠っていたように。
だからもう、なにもかもが愛しい。
とまあ、『シトラスの風』に限らず、泣き通しだったんですがね。
「エメ」@『ロミオとジュリエット』ではじまったサヨナラショー。
舞台には、キムくんひとり。
『ロミオとジュリエット』、なのに、ロミオだけ。どうしてソロで歌うの、みみちゃんは?
すぐにわかった、わたしたちが、「ジュリエット」だ。
あそこにいるのはロミオ。
客席にいるのが、わたしたちが、ジュリエット。
「永遠」の愛を、彼は誓ってくれている。
わたしたちに。
キムくんのサヨナラショーでどの曲があるか、あまりちゃんと考えていたわけじゃないけど、安心していた。
わたしが聴きたい「ニコライとプガチョフ」「世界の王」は絶対あるだろう。あと、「心から心へ」も絶対ある。これはラストソングで雪組全員で歌い上げかな。
これだけははずれないと、勝手に思い込んでいた。
で、これだけ聴ければあとは構成がどうとか演出がどうとか、まったく気にならない。
なんの根拠もなく、そう思っていた。
そしてそれは、裏切られることなく、舞台で歌われた。
望んでいた、以上のカタチで。
「世界の王」。
わたしが、最も愛する曲。
2011年、1月1日。
この宝塚大劇場で、この曲を聴き、この場面を観て、震撼した。
心臓がしびれるような感動、高揚感を味わった。
キム、ちぎ、まっつ。この3人で、新しい雪組を盛り立てていく。
トップ娘役はおらず、決まっているのはこの3人の序列のみ。
「世界の王」を歌いながら銀橋を渡る彼らに、「新しい時代」を感じて高揚した。
胸が高鳴り、きゅーーっと痛んだ。
拳を握った。
強い喜びや期待は、切なさに似た鋭さで胸を焼いた。
あれから、まだ2年経ってない。
あれは、ついこの間のこと。
期待と幸せの記憶が生々しいだけに、今、別れの形見として再現される姿に、胸の痛みをもてあます。
あのとき、幸せだったのに、うれしかったのに、あんなに切なかったのは、未来のこの痛みとリンクしていたのか。
そう思えるほどに。
1年と11ヶ月前の姿をそのまま、再現してくれた。
キムちぎまっつ、そして青チーム。
そして、「ニコライとプガチョフ」。
この曲は絶対入っているだろうけれど、キムくん主演作メドレーの中のひとつに差し込まれている、くらいかと思った。
ガチに1場面来た。
しかも、銀橋だ。
ニコライ@キムとプガチョフ@まっつの掛け合いをまんま、銀橋でやってのけた。
瞬時に役に入るキムくん。
歌い出すまっつはもとより、その歌を黙って聞いているキムくんの入り込み方がすごい。
まっつは当時よりさらに歌がうまくなっている。凄みが利いている。
キムくんとの掛け合いが、ハモりがすごい。
並び立つ。
そんな言葉を思う。
一歩も引かず、対峙する。
舞台人として。役者として。同期として。
心の表面が直に「世界」に晒されるような感覚。
このふたりは、役者としての相性が半端なかった。最初はどうかと思った部分はあった、しかし共に舞台に立つうちに、ふたりで作るもの、その相乗効果は半端なかった。
キャラクタもスターとしての育ちもまったく正反対のふたり。
でもこのふたりもまた、見えないなにかに導かれ、同じ舞台に立ったんだろう。
キムみみのなれそめ作『忘れ雪』から、次の『ノンノンシュガー』の歌い出し「いろんなことがあったね」で、キムくんがみみちゃんに語りかけるように歌った瞬間、隣の席の人の喉が鳴った。
いずこも同じ、あれは、決壊する。
客席、泣き崩れ。
大好きだ、キムみみ。
握った手を放さない、そんな夢。
少女のころ見た夢。はじめて好きになった男の子、「この手は放さない」「ずっと一緒ね」……遠い日の夢、儚い夢。
その具現。
退団者の場面もあり、キムくんのなつかしい曲もたくさんあり。
ラストは全員で、黒燕尾と薄ピンクのドレスで、「心から心へ」。
まっつが、この歌を歌うのか。父上はこの歌、歌ってなかったよね。あの場にはいたけれど、コーラスには参加してなかった。
今ここで、こんなカタチで歌うことになるのか。
ラストの衣装で退団者挨拶を見守ることになるはずだから、明日の千秋楽、組子は黒燕尾と薄ピンクのドレスか。『GOLD SPARK!』のギンギラ衣装よりいいか、……なんてこともちらりと考える。
そして、こんだけ客席大泣きで拍手ものすごくて、空気がひとつになっているのに。
スタンディングもなくカーテンコールも少なく、ぴたりと終わって席を立つ雪組ファンの行儀の良さに、内心ウケた。
これもまた、組カラー。
培われる、伝統。
愛しい。
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