轟悠が、恋しい。

 『エリザベート スペシャル ガラ・コンサート』へ行ってきました。
 もちろん、初演バージョン。
 トート@イチロ、エリザベート@花ちゃん、フランツ@タカネくん、ルキーニ@トド。
 ゾフィー@朱未知留ちゃんで観たかったけれど、東京だけで残念。ルドルフはわたし的にコム姫がベストなので、ルドルフ@コムはありがたい。

 「戻りたいのは場所じゃなくて、時間なんだよ」……なんの台詞だっけ、忘れられない台詞がある。
 なつかしい故郷。……チガウ、求めているふるさとは、ここじゃない。もうどこにもない。
 求めているのは、時間。
 あのころ過ごした時間、自分、そして、仲間たち。

 なつかしいのは、戻りたいのは、場所じゃない。
 あのころの、自分だ。


 ガラ・コンサートのキャストが発表になったときから、いっちゃん、花ちゃん、ゆきちゃん、トドの4人が揃うこと、これだけが重要だった。
 に、加えてルドルフ役を選べるなら、ごめん、タータン以外、という選択肢。
 わたしは初演厨だけど、ルドルフだけは当時から納得できてなかった。新公のかっしールドルフに軍配だった人ですもん。

 それ以外のキャストはアタマにない。全バージョン観に行けるお金と時間があればともかく、選ぶしかないなら、欲望に忠実に。
 自分がいちばん大切なモノを。

 誰が出ているのかも知らないから、客席でいちいちおどろいた。ねったんいるんだ、とか、しゅうくんいるんだ、とか。あかしは歌アレな人なのに、何故コンサートに?!とか。いや、あかし好きだけど。めぐむとしゅん様ってナニこの並び(笑)とか。
 軍曹、やっぱ変わっちゃったなとか、はっちゃん変わらなさすぎてこわい、とか(笑)。
 トド様と並ぶまりえったに、彼の雪組デビューはトド様の従者役だったよなとか、なつかしく思い出したり。

 隅から隅まで味わい尽くす気満々でいたのだけど、実際に観てみると、わたしの視界は、わたしの思っていたものとちがっていた。

 わたしのオペラグラスは、ルキーニを追っていた。

 こんなことはもう2度とない、いっちゃんを、花ちゃんを、タカネくんを見なきゃ。
 そう思うけれど、わたしはまず、トドロキを見る。見て、しまう。

 そう。
 時が、戻ったんだ。

 いっちゃんがいて、花ちゃんがいて、ゆきちゃんがいる。
 なにもかも同じではないけれど、この主要メンバーがいれば、気持ちは安定する。
 わたしは無意識に、戻っていた。
 あの頃に。

 わたしの、『エリザベート』の視界。

 もちろん真ん中も見ている。物語も観ている。
 だけど、それ以上に。

 轟悠だけを、見ていた。

 友人たちと並んで観た、初演雪組『エリザベート』初見の日。初日だったっけ?
 出番が終わってなお、ルキーニ@トドロキは舞台にいた。下手花道に立ち、にやにやと本舞台を眺めていた。
「あの人、ずっとあそこにいるの?」……友人のひとりがそうささやいてきたのを、おぼえている。トドファンじゃないのに、物語の外側にいるルキーニの存在が気になったらしい。
 それくらい、目を奪う存在だった、トドロキルキーニ。

 初演は何回観たんだっけ。チケットが取れず、いつも2階席だった。1階席で観られたのは新公だけ、あとは千秋楽も含め、2階S席が定位置だった。梅田のプレイガイドで売っている席しか買うすべを知らなかったから、いつも同じあたりの席で、同じ角度で観ていた。

 いつも同じ。
 いつも、同じ視界。

 自在に暴れ回る、トドロキルキーニを視ていた。


 あれから16年?
 初演『エリザベート』は、映像でしか見られない。
 だからもちろん、映像だけを繰り返し見ていた。
 映像は、わたしの視界ではない。当たり前だけど、他人が差し出した視界を受け入れ、それで満足していた。

 それが、今、「あの頃」と同じモノを差し出されて。

 わたしはなんの迷いもなく、とまどいもなく、「同じ視界」を得ていた。

 時が戻る。
 16年前、大劇場の2階席で、必死にオペラグラスを握っていたわたしに。

 トドが好きで、だからといって彼の舞台力にそれほど実力を感じていたわけではなくて(役幅せまかったもん、出来ることと出来ないことがきっぱりしてたもん)、だけどこの『エリザベート』で、ルキーニ役で、「この人、わたしが思ってるよりすごい人なんじゃない?」とハクハクした。

 所詮、顔で一目惚れした人だ。
 平成元年の雪組『ベルサイユのばら』。『ベルばら』だから、と観に行った、ライトな観客だった。ヅカと言えば『ベルばら』でしょ、『ベルばら』やるなら観なきゃね。
 それで、主役のアンドレでもなく、オスカル様でもなく、2幕からしか出番のないアランに一目惚れした。今思うとすげーへたっぴ。棒読み台詞。
 リピートしてはじめて、同じ人が1幕では近衛兵をやっていることに気づいた。

 顔はきれいだけど、へたっぴな人。
 タカラヅカにくわしい子に「轟悠が好き」と言うと、「アンタ、顔だけで選んでない?」と鼻で笑われた。
 そうか、轟悠を好きって言うと、ツウな子には馬鹿にされちゃうもんなんだ。たしかに顔だけ、実力なさそうだもんな。
 ヅカ初心者だったので、右も左もわからない、ツウな人が鼻で笑うってことは、世間一般にそういう認識のジェンヌなんだろう。
 そう素直に思い込むところから、スタートした。
 世間の評価がどうであれ、わたしは好きだからいいや、と。
 プログラムに蛍光ペンでライン引いて、出番を見逃さないようチェックした。群舞の中から彼を探し、オペラグラスで追いかける。それがわたしの「タカラヅカ観劇」だった。

 時が戻る。
 トドをオペラで追いかけていた、あの頃に。

 わたしにとっての『エリザベート』。
 ルキーニの一挙手一投足。

 いっちゃんがいて、花ちゃんがいて、タカネくんがいて。
 大好きな雪組で、わたしは安心してトドを視る。彼を追う。

 今、いっちゃんのトートも、花ちゃんのシシィも、うれしいけれど、興味深いけれど、わたしのほんとうの関心は、そこになかったらしい。
 いやもちろん、彼らも大好きで、彼との再会がうれしくて、彼らも見ていたのだけど。味わっていたのだけど。

 ひとりずつをじっくり眺めて「ここはどうだ」「誰はどうだった」と論じたいのではなく、ただ単純に、戻りたかったんだ。「あの頃」に。

 いや、過去は過去でしかなく、ほんとの意味で「戻りたい」わけでもない。
 今この一瞬だけ、この時間だけ、「あの頃」を、体験したかった。

 愛しい時間。
 愛しい人々。
 大好き。大好き、大好き、だいすき。

 いっちゃんの歌声に包まれながら、安心して、トドロキを見ていた。
 彼に恋していた時間を、思い出していた。


 ……そうやって16年の時間を飛び越えさせてくれた、キャストに感動する。感謝する。
 よくぞこれだけ、演じてくれた。

 まあその、タカネくんはやり過ぎっちゅーか、「アンタそれ、すでにフランツちゃうやろ」と思ったけど(笑)。そのやり過ぎなところがいかにも「タカネくん」で、うわ、変わってねえ!とウケた。
 それも含めて、愛しい。

 トド様のすごさ、素晴らしさも改めて思った。
 この人を好きで良かった。
 そう思った。

 観る前は漠然と「他キャストの日も、時間とチケットがあったら観に行ってもいいかな」と思っていたし、オサ様トートにはとても会いたかったのだけど。
 見終わったあとは、トドロキ以外のルキーニは見たくない。と、思った。
 他のルキーニ役者さんがどうとかではなく、わたしの思い入れ的に。
 他で唯一観たいのはキムルキーニだし。……トドルキをオペラで追いながら、思い出した。同じように唯一オペラで一挙手一投足追ったルキーニがいたことを。

 初演メンバー以外は、今回もう観られない。わたしのキャパ的に。入る余地がない。
 コム姫ルドルフで、キムトート@『アルバトロス南へ』ががーーんと浮かんできて、ここでも轟沈したしな。

 トド様、好きだな。
 ほんと好きだわ。しみじみ。
 なのにわたし、『おかしな二人』のチケット持ってないとかいうし。や、努力はしてるけど、ほんと手に入らない。最悪サバキ待ちしに行くけど。
 つか、チラシすら手に入ってないし。あー。


 あ、でも、『ブラック・ジャック』のチラシは手に入れた!! キャッホウ!

 初恋の人を語り、現在のダーリンの話で終わる(笑)。

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