『ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌』って、どんな話?

 公式サイトにもプログラムにも、「あらすじ」がまったく載っていない、謎の公演。
 ポスターからすれば、ドシリアスの暗い物語を想像するか。なにしろサブタイトルが「許されざる者への挽歌」とハードだし。

 舞台はおそらく、1970年前後。今から40年前、原作の『ブラック・ジャック』の時代じゃないかな。作中に「1678年」という数字が出てきて、次に「(1678年から)300年近く」経ったとある。
 また、主人公のBJは「少年時代の事故」から「20年」経っているとある。
 わたしは漠然と「BJっておっさんだから、45歳くらいかなあ」と思っていた。アニメでは大塚氏だし、ドラマでは壮年以上の役者(宍戸錠とか、加山雄三とか)がやるイメージだし。
 原作ファンに聞いて驚愕した、「事故に遭ったのは8歳のとき。だからBJは28歳」。

 28歳なのか、まっつ!!(叫ぶ)

 ごめん、初日はふつーに45歳だと思って見てたよ……。
 まなはる(BJの同級生)、45にしては若いなー、まなはるだし、しょーがないなー、とか思ってたよ……どっちもごめん……。

 てことでええっと、70年代、28歳のBJが主人公。

 BJ@まっつはご存じ天才無免許医師。その腕で奇跡のごとき手術を行うが、かわりに法外な治療費を要求するアウトロー。
 BJは今現在、人間のこぶの中からひとりの少女(であるはずのもの)を摘出し、足りないパーツを補って人間として作り上げようとしていた。

 というBJ自身の物語に、別のふたつの物語が絡む。

 ひとつは、ヨーロッパの大金持ち、バイロン侯爵@ともみんの物語。
 彼は恋人のカテリーナ@せしるが事故で重傷を負ったため、BJに手術を依頼してくる。
 少女の治療に専念したいからとBJが断ると、力尽くで誘拐した。それくらい、手段を選ばす。

 もうひとつは、日本人のびんぼー青年カイト@咲ちゃんの物語。天涯孤独で足が不自由な彼は、世をすね他人を恨み、自暴自棄な生活をしている。
 BJが大金を稼ぐ悪徳医師だと知り、その屋敷へ強盗に入るが、成功するはずもなく。

 この3つの物語が、同時進行する。


 この3つの物語に、3人の男たちに、共通するものはナニか。

 「生まれてきた意味を、探すこと」。

 出たっ。
 正塚せんせのライフワーク、「自分探し」!!


 莫大な財産と美貌と不死に近い肉体を持つ、バイロン侯爵。
 なにもかも持ち合わせた、誰よりも幸福な存在であるはずの彼は言う。
「私は何故生まれてきたのでしょうか」
 ずっと孤独だった。そんな彼がはじめて愛を知った。なのに。
 たったひとりの女性すら幸せにできない……いや、彼ゆえに恋人は不幸になった。
 ならば私は、なんのために。

 健常な肉体も家族も金もない、カイト。
 自分はどうせ負け犬だから、幸福になれるはずもないと絶望し続ける。
 未来は見えない。ただ、昨日と同じ闇があるだけ。
 博打、借金、強盗……そして、誘われるままに組に入り、鉄砲玉として使われて。
 つらいだけの人生。
 こんなことなら、最初から生まれてこなければよかった。


 正反対のふたりの男は、同じ問いを口にする。

「何故、生まれてきたのか」

 絶望し、苦悩するためだけに、生まれてきたのか。
 孤独を味わうためだけに、生まれてきたのか。
 他人を傷つけるためだけに、生まれてきたのか。


 一方、BJは自分の「生きる道」を自覚している。
 彼は医者であり、彼の患者を救う。「命懸けで」手術をする。

 そんなBJは、「生まれるべきではなかった」少女を、生き長らえさせていた。
 そのとんでもない医療技術で。さらに、莫大な金を掛けて。

 「人間」とは言えないような、いびつな生まれ、いびつな姿で生き続けている少女。
 彼女に語りかけ、「お前を見捨てたりしない。お前を必ず自由にしてやる」とくり返すBJ。

 BJもまた、そのツートンカラーのつぎはぎ顔からしても、少女と似た境遇を持つことが推測される。
 少女に語りかける言葉は、自分自身に向けられたもの。

 少女が抱える孤独に誰も気づかなかった……そう歌う彼は、自分の中の闇を見つめている。

「何故、生まれてきたのか」……その答えを、反芻するように。


 これは、傷を抱えた男たちの物語。
 「生まれてきた意味」を探す物語。

 傷つきながら、間違いながら、闇の中であがきながら。

 バイロンとカイトを、BJは医術で救う。
 BJに手術されたふたりの男は、それぞれBJとの出会いをきっかけに、人生を見つめ直す。
 闇を超えて、光を見つける。

 ふたりの男に、光を見つけるきっかけを与えたBJは。

 彼自身、医者生命の危機と直面しながらも、自分の歩く道を、生きる世界を、再確認する。
 それは、「もうひとりのBJ」である少女ピノコ@ももちゃんが生まれ、まっさらな目で世界を見回すことにリンクする。

 「ふつうじゃない」からと差別され、突き放されながら。
 それでも、生きてゆく。

 この過酷で、美しい世界で。


 物語の最後、カイトはピノコにケーキを届けにやって来る。
 1年前、カイトがBJの屋敷へ強盗に入ったとき、ピノコを手術してまだ2週間だとBJが言っていたことを、おぼえていたらしい。
 自分が強盗に入った2週間前が、ピノコが奇形腫から摘出された日=誕生日。

 人間とは言えないような姿をしていたピノコを見て、カイトは「死んだ方が楽だ。どうせまともに生きられやしない」と決めつけた。
 それはカイト自身が、そう思っていたからだ。

 「生まれてこなければよかった」……自分の生を呪っているからこそ、自分の人生を認められない、愛せないからこそ、そう言った。
 苦しみだけの人生なんか、最初から与えられなければ良かったのに。

 自分自身を否定していた彼は、ピノコの生をも否定した。

 その、彼が。

 ピノコに、バースデーケーキを届けに来た。
 顔を合わせられずに、ケーキと手紙だけ置いて立ち去ったけれど。

「誕生日おめでとう」

 そう言うことが出来たのは、彼が、自分の人生を祝えたからだ。

 生まれたことを恨んでいた青年が。
 世界すべてを憎んでいた青年が。

 「誕生日」を……この苦しみ多い世界に生まれたことを、肯定した。

 世界を、自分を、愛した。

 だから彼は言った。
 はにかみながら、微笑んで。
「誕生日おめでとう」

 この世界に生まれて、よかったね。


 そして、BJもまた。
 いろんな苦しみを内に秘め、それでも世界に「美しくあれ」と願う彼は。

 歩き出したばかりのもうひとりの自分に、微笑んで言う。

「ハッピー・バースデー」

 この物語は、主人公BJのこの台詞で終わる。幕を閉じる。
 人生讃歌・人間肯定の主題歌「かわらぬ思い」を背景に。

 誕生日おめでとう。
 君が、そしてわたしが、この世界に生まれた。この世界に生きている。
 そのことを、祝おう。



 だから。
 『ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌』って、どんな話?
 公式サイトにもどこにも、あらすじすら載ってないしねえ。
 聞かれたら、こう答えるかな、わたしなら。

「正塚の、もっとも正塚らしい話。自分探しと人生讃歌、人間肯定を、男の美学(笑)でラッピングしたハートフルな物語」

 んで、付け加えとかなきゃねー。

「まっつ、28歳の若者役だから!!」

 ……きっと、言わなきゃわかんない。(言っても通じない、気もする・笑)

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