なにがあろうと、まっつには全幅の信頼を置いている。

 DC楽日前に喉を痛めてしまったけれど、その瞬間からすべて見ているし、どんだけ大変なことになっていたかも、すべて見ていたけれど、それでも、心配していなかった。
 まっつの心や身体の心配はしても、舞台クオリティに、心配はなかった。

 まっつなら、必要なレベルをクリアして、差し出してくる。
 半端なものは、見せない。

 そう信頼しているから、まっつのコンディションが不安でも、公演的には安心して東下りした。
 青年館公演、初日。

 なんの問題もなかった。

 まっつは美声だし、安定しているし。
 演出も変わり、『ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌』はなおも進化していた。

 もちろんまっつは本調子ではない。
 でも、そんな予備知識のない人にはわからないレベルで、歌い、演技している。

 DCでは、声量のないまっつを支える意味でしかなかったカゲコーラスが、まともにコーラスとして機能していた。

 音楽として、機能しているの。ハモっているし、メロディを盛り上げる効果として使われている。
 その場しのぎのユニゾンではなく、演出として編曲されたカゲコは問題なく作品に溶け込んでいて、青年館から付け加えられたとは思えない感じ。
 最初から、あったみたいに。

 てゆーかこれ、いいよ。まっつの声が絶好調だとしても、あってよし。なお音楽に深みがますから。多層的になるから。

 手を加えられたことで、さらに音楽が良くなってる。
 ケガの功名とはいえ、大阪公演と東京公演で、こんだけ音楽効果が手直しされることってそうそうないだろうし、なんかお得な感じだぞ。


 そしてなんつってもBJ@まっつの演技がいい。
 怒鳴らない、っていいなあ。

 いろんなインタビューで、まっつはBJの人間らしさについて「怒鳴る」ことに触れていた。
 正塚的脚本で、最初から「怒鳴りまくる」ことが盛り込まれていたんだろう。

 でも実際、怒鳴る必要性は薄かった。
 まっつの声と話し方って、怒鳴る必要がないのね。怒鳴ったからといって、格段の効果はない。
 なにしろ声がいいもんで、怒鳴らなくても鋭い声を出せるんだもん。
 喉を痛めてから怒鳴らなくなったんだけど、なんの遜色なく感情の高ぶりを「怒鳴らずに」表現している。

 声を汚して怒鳴らなくても、美しい鋭い声で感情を表す方が、「BJ」というキャラクタには似合っている。
 マンガの怒り表現を、単純に「怒鳴り声」としか認識しなかった演出家の問題ぢゃね? 怒鳴らなくても、いいのに。

 大きな声を出すことで感情の起伏を表していた場面で、音量は低いけれど深く慎重な声を出す……単純に怒鳴るよりも、内に秘めたモノが大きく感じる。

 最初からこれでよかったのに。
 正塚がやたらめったら「怒鳴る」ことにこだわったばっかりに。

 でもこれ、まさしくケガの功名というか、まっつが喉を潰さないと、正塚せんせは気づいてくれなかったんだろうなあ。

 BJの怒鳴りは主にカイト@咲ちゃん絡みと、後半の空港あたりかな。
 カイトと最初に出会ったときは、怒鳴ってないけれどすげー鋭い声で、かえってぞくぞくする。
 次に、撃たれて助けを求めて来たときの、ヤクザ@真地くんたちに対峙するとき……が、もお、やためたったら色っぽい(笑)。
 ヤクザが怒鳴りまくってるからって、それに対し同じように怒鳴り返していたDC版のBJと違い、穏やかである分凄みが増しているというか。

 なんつっても、カイトに語りかける声が、めちゃくちゃやさしい。そしてエロい(笑)。

 芝居に関しては、ほんとこっちの方がいいよ。


 まっつの歌自体は、DCの通常版(A)とも、X-Day後のとりあえず版(B)とも、青年館版(C)は違っていた。

 オープニングの「かわらぬ思い」は、A完全ソロ、B・Cカゲコ付き。
 最初のピノコへの歌は、A完全ソロ、Bカゲコ付き・半分以上台詞朗読、Cカゲコ付き・ソロ。
 2回目のピノコへの歌は、Aソロ+カゲコ、B台詞朗読的ソロ+カゲコ、Cソロ+ラストだけ台詞+カゲコ。
 バイロンとの掛け合いソングは全バージョン歌ってた。喉つぶした当の回以外は。

 1幕のエンディングは、1・影たちのセンターにてBJのソロ→2・ピノコへの語りかけソロ→3・全キャストのセンターでのBJソロ~合唱、となっている。
 これが、Bでは、1・BJも歌っているけれどカゲコ大音量、2・カゲコ付き・半分以上台詞朗読、3・最初から合唱。
 Cでは、1・BJ歌まるっとカットでカゲコのみ、2・ソロ+カゲコ、3・最初から合唱。

 2幕の夕暮れの歌は、Aソロ、Bカゲコ付き・ほとんど台詞朗読、Cソロ+カゲコ
 夜明けの歌は、Aソロ+ラストはカゲコ入り、B半分以上台詞朗読+カゲコ、Cソロ+真ん中だけ台詞+カゲコ
 作中ラストの「かわらぬ思い」は全バージョン、ソロで歌ってた。根性。サビ以降コーラスなのは同じ。
 フィナーレの「かわらぬ思い」はAソロ→合唱、Bソロ+カゲコ→合唱、Cソロ+カゲコ→合唱。

 DCラストのB版ではほんと、歌ってなかったなあ。
 それが青年館C版ではどこまで復活するか、が注目点だった。

 大体復活していたのに、反対に1曲だけまるっとカットされていて、かえっておどろいた。
 ここ、カットなんだ! そんなに喉に負担のかかる箇所だと素人にはわからなくて、よりによってここ、ということに驚いた。

 あと、一旦台詞になって、このまま朗読で終わるのかと思いきや、歌に戻る、ってのは、かえってドラマティック。よりミュージカルっぽいというか。

 いろんなバージョンを観たなあ。
 まっつの試行錯誤、戦いが如実だった。


 ところで、青年館版の変更点で、わたしがいちばん感心したところ。

 2幕の空港にて、職員役の大樹くんの台詞。

 もともとは「怒鳴りちらしやがって」だったのよ!
 喉を潰して怒鳴れなくなったDCラストあたりは、ここ、台詞削れないのかとやきもきしたよ。怒鳴りちらしやがって、だけ削って、「なんなんだあいつ」から台詞言っちゃダメなの?!と。

 それが、青年館初日。

 「文句ばっか言いやがって」に、変更されてる!!

 すごいや正塚!!

 植爺だったら絶対そのままだ! 『ベルばら』でどんだけ整合性なくても台詞まんまつぎはぎしてるもん。
 なのになのに、正塚はちゃんと演出変えたら台詞も変えてる!!
 ……当たり前のことだけど、なにしろ劇団でいちばんえらい演出家が一切そんなことをしないので、そんな当たり前のことをするってだけでもハンカチ握りしめて震えるくらい、感動した。
 ……宝塚歌劇団って……。

コメント

日記内を検索