未だに『ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌』の話。

 わたしはこの『BJ』を好きだけど、名作かどうかはわかんない。
 欠点というか、「ここはこうしてくれたらいいのに」が、あちこちにある。
 それはわりと、全体にどうこう、って感じなの。
 全体を見て、バランスを整える意味での手直し希望。
 メリハリがないとかクライマックスの作り方がオカシイとか、そういうことであって、部分部分はいいんだもの。
 わずかに手を加えるだけで、名作になるのに、惜しいなあ。もどかしいなあ、てな感じ。

 ただひとつだけ、どーしてもわかんないところがある。
 全体バランス、とかいう、ファジィな問題ではなく、明らかに「おかしいだろこれ」とか「失敗してるだろ」と思える部分。
 ここがあるから、「わずかに手を加えるだけ」と言えなくなるっていうか、大幅な外科手術が必要、骨組みから作り直さないと名作にはなりようがないんぢゃね? と思えるような。

 それが、バイロン侯爵@ともみんのエピソード。

 事故に遭ったカテリーナ@せしこを救うために、BJ@まっつを誘拐。
 自分のカラダを使って、カテ子の治療をしてくれ、と。手術をしてくれ、と。

 バイロンの手術ってつまり、彼の臓器をあれこれカテ子へ移植したのよね? カラダを使う、ってつまり、そういうことよね?
 カテリーナは内臓がいろいろ壊れちゃってる。壊れたままだと助からない。壊れた部分を、壊れてない元気な内臓と取り替えたり、部分的に切り貼りして元気な内臓にする……てのが、BJのやった手術なのよね?

 バイロンさんは「普通じゃない」からナニをしても大丈夫だけど、それがわかったのは手術後。
 結果オーライなだけで、やる前はそんなことわかってなかった。

 なんでBJ、そんな手術引き受けたんだろう?

 たとえば、カテ子さんの胃が壊れていたとして、バイロンさんの胃を移植したら、バイロンさん、胃がなくなっちゃうのよね?
 いずれ生えてくる(!)としても、切り取った瞬間はなくなってるのよね?
 カテ子さんにいろいろあげてたら、バイロンの内臓すっからかんになりそうなんですが。
 すぐに生えてくる(!)としても、BJ先生はそれを知らないわけで。

 いろんな臓器のなくなったバイロンのおなかをとりあえず閉じて、手術完了? いやそれ、ふつーに人殺しぢゃあ……?

 臓器まるまる1個移植ではなく、部分部分だからOKってこと? 胃を3センチ、心臓3センチ、とか、破れてるとこをちょぴっとずつ切り取って交換していっただけ、だから大丈夫、って?

 わたし無知すぎて、医療の常識がよくわかんないからなー。
 人間の臓器のほとんどって、そんなに都合のいい移植がOKなのか。内臓パッチワーク。部品交換。
 BJ先生みたいな「神の手」と、「内臓提供しますよ」っていう生きた人間がいたら、人は不死になれる?
 や、ふつーそんな風に内臓提供したら、ドナーは死んじゃうわけで。だから『輝夜姫』みたいな内臓提供用クローンが必要なわけで。

 ファンタジーとしてそーゆー手術がアリなのはわかるけど、BJが引き受けたのがわからない。
 「やってみて無駄だったら途中でやめる」って言っていたのは、カテ子に必要な臓器が、バイロンさんから切り取ったらヤバイような部分だったら、やらないよ、ってこと?
 たとえば、心臓まるごと取り替えなきゃ無理とか。それをしたらカテ子助かるけど、心臓なくなったらバイロンさん死んじゃうよ、そんなことはできないから、そんときは途中でやめるよ、ってこと?

 だからさ、バイロンが真実を言うタイミングが、理解できないのよ。
 途中でやめられたら、意味ナイじゃん。
 心臓なくなっても大丈夫なんで、どんどん取っちゃってください。すぐに生えてくる(!)んで、無問題っす! ……って、バイロンが最初に言って、それではじめてBJは手術を引き受ける。
 たとえBJが半信半疑だとしても、真実を伝えた上でないと、おかしい。

 生えてくることを知らないBJが、「移植したらカテ子は助かったけど、それじゃバイロン死んじゃうから、途中でやめたよ。それでカテ子死んじゃったけど、仕方ないよね」って結果になったら、どうしたんだ。カテ子は死に損、バイロンはカラダ切り刻まれ損。

 バイロンさんが「人間じゃないから大丈夫」を言わなかったのって、保身のためなんだよね。
 「どんだけ切り取ってもすぐに生えてきます、無限ドナーです!」とバレるとやばい、不死を願う人間に利用される、と恐れているからなのよね?
 だから「切り取っても生えてくる」ことは言わずに、BJに手術をさせた。

 ほんとうにカテリーナを愛しているなら、命にかえても救いたいと思うなら、手術を依頼する段階で、カラダの秘密を打ち明けなきゃだわ。

 たまたまカテ子は助かったけど、今の流れじゃ、「無限ドナーだと知ってたら助けられたのに、知らなかったからカテ子を見殺しにしちゃったよ」となってもおかしくない。

 バイロンさん、カテ子のこと、そこまで大切でもなければ、愛してもいないのね。自分の秘密の方が大事なんだもん。
 あわよくば、自分の秘密は秘密のままで、手術だけ完遂して欲しかったのよね。

 過去に似たような理由から破滅した同族の者がいる、それがわかっていて医者に自分のカラダを使って手術をさせようって段階で、腹くくれよ、と思う。
 秘密がばれて、自分だけでなく一族全部を破滅させてもいい、それでもカテリーナを助けたい。そこまで覚悟しての行動。
 ……それならいいけど。
 バイロンさんってば、「カテリーナは助かって欲しい」「でも自分も、不幸にはなりたくない」……なのに、クチでは「彼女が助かるなら、命を失ってもいい」……ひでえ。
 後半、バイロンさんは自分の中のカテ子への不信がどうのと反省するけど、そーゆー問題じゃないから! 君結局ナニもわかってないってことだよ??

 バイロンさんのダブスタっぷりと、BJの謎の行動が、よくわかんないの……。

 や、悪いのはバイロンさんでもBJでもなく、正塚の失敗だと思うけど。

 バイロンの秘密を、1幕ラストに持って来たかった。……それだけの理由だと思う。
 1幕最後の「引き」を作るために。


 バイロンさんがバケモノだとわかった途端の、BJもひどいんだわー。
 「内臓切っても切っても、復活するんだ。それじゃ、金はいらないから内臓ちょうだい」……って。
 内臓あれこれなくなって、生えてくる(!)とはいえ、今現在ぼろぼろのバイロンさんを目の前にして。そっからさらに、筋肉とか皮膚とかおくれ、って。

 バイロンさんを説得するBJの歌も、……意味わかんない。
 「♪私が手術をするときは、命を懸けるつもりです」……って、はぁ? だから、ナニ?
 命を懸けたからどうだっての? そんなのなんの関係もナイ。

 なんでこれで、バイロンさんが納得するのか、さっぱりわかんない。
 まっつの歌声で、全部力尽くで誤魔化した。

 ……だからさあ、DCラストの方、まっつが歌えなかったときは、ロジックの破綻ぶりが丸出し過ぎて、つらかった。
 ふつーに台詞で言っちゃうと、植爺やスズキケイ並にひどい会話。

 誰か止めるモノはおらんかったんか……。や、歌だから誤魔化されちゃうけど、歌っても結局、めちゃくちゃな論理だから。

 バイロン侯爵絡みのエピソードは、とにかく正塚らしくない。
 なにもかも台詞で説明するし、意味なくミュージカルだし、「タカラヅカ」だし。
 植爺とかの悪いところも全部「タカラヅカ」として踏襲している感じ。

コメント

日記内を検索