『ベルサイユのばら-フェルゼン編-』脚本の嫌いなところを語る。
 嫌いなのは植爺作品であり脚本である。
 出演しているジェンヌさんに含みはナイ。むしろ、こんだけ嫌いなのにフタ桁観劇できるのは、ジェンヌさんが素晴らしいからだ。つくづくタカラジェンヌすげえと思う。
 作品はキライで、キャストは好き。
 だから「作品」の嫌いなところを記す。(台詞引用は「ル・サンク」から)


第1幕
第5場 王家の紋章

 今回、ルイ16世の人格破壊がひどいのだが、その原因のひとつは無用な加筆にあると思う。

 2006年の『フェルゼンとアントワネット編』
ルイ十六世「弟よ。なんだこんな夜中に。私にとっては貴重な時間なんだぞ。この錠前がもう少しで開けられる所だったのに…」
プロバンス伯爵「兄上、呑気なことを言っている場合ではありません。平民達が暴動を起こしました」
ルイ十六世「なに…またか…。やれやれ、私は平民の希望を入れて三部会まで開いてやった。こんなに私が譲歩してやっているのに、まだ不満があると云うのか」
プロバンス伯爵「兄上…」
ルイ十六世「軍隊があるではないか。フランスの誇る軍隊が…すぐに各地に派遣して不届者を鎮圧させろ」
プロバンス伯爵「兄上…」
ルイ十六世「もうよい、たかが百姓の暴動ではないか、なあメルシー伯爵」
ブイエ将軍「いいえ。暴動ではございません…革命でございます!」
ルイ十六世「… (持った宝石箱を取り落とす)」

 今回の『フェルゼン編』
ルイ十六世「なんだ。二人とも騒々しい。こんな夜中に。私にとっては貴重な時間なんだぞ。昼間は王室のしきたりにガンジガラメ。今夜はどうしてもこの錠前を開けなければならないのだ!」
プロバンス伯爵「兄上、そんな呑気なことを言っている場合ではございません。平民議員たちがフランスの各地で反乱を起こしました!」
ルイ十六世「ばかばかしい。そんなつまらぬことで騒いでいたのか。議員に選んでやった恩顧も忘れ、騒乱の先頭に立つとは許しがたい。軍隊があるではないか、フランスが誇る軍隊が。すぐに各地に派遣して不届き者を鎮圧させろ」
ブイエ将軍「は…!」
プロバンス伯爵「兄上!」
ルイ十六世「もうよい、たかが百姓の暴動ではないか」
プロバンス伯爵「いいえ! 暴動ではございません、革命でございます!」
ルイ十六世「な、なに… (持っていた宝石箱を取り落とす)」

 今回はなんつっても、この会話の前にえんえんプロバンス伯爵とブイエ将軍が60行も無意味な説明台詞を垂れ流したあとだ。
 2006年版では「私は平民の希望を入れて三部会まで開いてやった」の1行で済んでいることを、60行(「ル・サンク」の行数)かけて水増し。
 無駄に60行喋られたあとで、登場した国王は「ばかばかしい。そんなつまらぬこと」とばっさり。
 2006年版では暴動を嘆いているが、今回は「ばかばかしい」ですよ。見下してますよ。無能っぷりが突き抜けてますよ。暴動ではなく「反乱」と、さらにすごい単語になっているのに、その重みを理解してないし。
 嘆いて武力行使という流れと、バカにして武力行使という流れは、国王の人格がまったく別モノ。
 また、その前の台詞に加えられている「昼間は王室のしきたりにガンジガラメ」。この台詞がまた、国王の人格破壊を際立たせている。
 「貴重な時間」というだけなら、その言葉だけの意味だが、「しきたりにガンジガラメ」と加わることによって被害者意識による甘えが表現されている。
 なにか要求を通したいとき、愚痴を言いたいとき、まず他者を攻撃して自分を正当化する。そういうずるさがこの台詞にある。
 今回新たに加筆された部分がすべて、ルイ16世の人格を破壊している。

 それが生理的に許せないんだな。
 ルイ16世を「無能な悪人」として描きたいのなら、それでいい。原作の彼が良い人であっても、この作品ではそういうキャラクタ設定だというならば。
 でも、そうじゃない。
 ルイ16世は無能なだけでなく、人格も邪悪である。そうとしか思えないモノを見せつけておきながら「愛情あふれた聡明なお方、すぐれた王」という設定だと解説されると、世界観がよじれる。
 この世界では、無能な卑怯者が聡明で優しいそうですよ……。

 加えて、わからないのは、プロバンス伯爵と、ブイエ将軍の立ち位置。

ブイエ将軍「フランスの各地に暴動が起こり、それが燎原の火のごとくフランス全土に広がりつつあるとの緊急の報告が入りました」
プロバンス伯爵「原因はなんだね,三部会の解散か。(中略~平民議員について無用な固有名乱発無用な説明えんえん~)三部会の強行解散など荒療治が過ぎたな。国王さまは今ここにお出でになる。とにかくご報告を…」
(中略~平民の暴動について、無用な説明をくり返す~)
ブイエ将軍「そんな相手には日には目を! 力には力を! 我々には軍隊があります。奴らは所詮烏合の衆。今度こそ軍隊の力を見せてやりましょう。我々にはその準備が完了しております。(中略~国王に報告をとさっきと同じ話~)なにとぞ国王さまには伯爵からご進言を。この機会に一気に不平分子を壊減するのです
(中略~何故か八つ当たり的に王妃の浪費、フェルゼンとの不倫の話、唐突すぎておかしい~)
(王様登場、上記の会話)
ルイ十六世「すぐに各地に派遣して不届き者を鎮圧させろ」
ブイエ将軍「は…!
プロバンス伯爵「兄上!」
ルイ十六世「もうよい、たかが百姓の暴動ではないか」
プロバンス伯爵「いいえ! 暴動ではございません、革命でございます!」

 ブイエ将軍は「武力で暴徒を皆殺し」論でここにいる……のよね? 国王からの進軍命令を求めている。
 のわりに、せっかく王様が「逆らう者は皆殺しにしろ」と命令したのに、そのテンションの低さはナニ? 「ははーっ、ただちに!!」ぐらいの勢いで返してしかるべきよね? わざわざ夜中に国王のところへ来たのは、「すぐに」軍を動かしたいからよね? なのに、国王様が「すぐに」って言ってるのに動きもしないし。
 勇ましいこと言って進言に来たわりに、武力行使にとまどってるのか? てなはっきりしなさ具合。

 また、プロバンス伯爵はさらによくわかんない。三部会解散を批判・反省しているようなことを口にする(下線部)。……のに、「皆殺しだ」というブイエ将軍を止めもせずに会話を続ける。
 そしてやはり「皆殺しだ」という国王に「革命です」と言う。えーと? 革命だから、ナニ? 武力行使に反対なの? 賛成なの?
 会話の意図が、まったくわからない。

 ブイエ将軍もプロバンス伯爵も、この会話でナニをしたかったのかが、まったくわからない。
 大体、この時点でどのへんが「革命」なのか、わけわかんないんだけど。
 だって「革命」が起こっているわりに、王様も将軍も一緒になって、のんきにフェルゼンの吊し上げ会をやってるし。あのー、暴動は? 軍隊出撃はどうなったの?

 無意味すぎて、いや、意味がないだけならまだしも、害しかない。
 生理的に許せない、こんな無駄な場面。大嫌い。だから、全否定。

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