雪組集合日。配役と、退団発表があった。

 なんで夢華さん、やめるんすか? わけわかんない。

 わたしの夢華さんへの評価は低いです。
 彼女がふつーのタカラジェンヌだったら、ここまで低くはないと思うんだけど、なにしろすげーマイナス地点からはじまってるの。

 96期云々は舞台外のことなので考慮しない。したくない。わたしは舞台の上だけを見る。
 で、その「舞台の上」の夢華さんは、だ。

 「宝塚歌劇団史上類を見ない超逸材スーパースターで、100年に一度の天才」として、華々しくデビューした。
 なにしろ「入団1年目で娘役トップと同位置、大劇場本公演でヒロイン」だよ。100周年を間近に控えるこの劇団で、そんなものすごい人はどれくらいいたの? 今のトップスター制度が成立してはじめてのことだよね。だから100年に一度の逸材ってことだよね。

 こんだけものすごい「劇団からの評価」を突きつけられたんだ。
 娘役トップとして納得させるだけの実力を「100」とするならば、とーぜん100は当たり前、それ以上のモノがあるからの抜擢、120とか150とかの点数を見せつけてくれるんでしょうね。
 100点でも「それが基準点」だから、「0」と同じ意味。

 そしていざ目にした夢華さんは、せいぜい60点から高くて70点ってとこだった。

 100点=0点だから、夢華さんの評価は「-40点」とかになっちゃったの。

 彼女がふつーの研1生、素人がはじめてプロの舞台に上がって60点取れたというなら、すごいと思う。や、そもそも数ヶ月前まで学生だった子に、60点取れるだけの場をいきなり与えたりしないから、他の研1たちと比べて60点がどれくらい高い点数なのかもわかんないけど。
 夢華さんとまったく同じ実力だとして、他の研1生なら60点、でも夢華さんだけは-40点。
 不公平かもしんないけど、わたしが基準点を引き上げたわけじゃない。
 劇団が、そうしたんだ。

 -40点の人の舞台を、えんえん見せられたわたしは、とても不満だった。

 ええ、とっても根に持ってます(笑)。
 キムくんのお披露目『ロミオとジュリエット』が正規の形でなかったこと。

 キムくんロミオはジュリエットを愛していない、キムくんみたいな強い人に恋愛は不要、これは『ロミオとジュリエット』ではなく『ロミオ』だ。……そう思った、雪組『ロミオとジュリエット』初日付近。

 キムくんの負担はどれほどのものだったのか。大作ミュージカルでのトップお披露目で、相手役がふたり、しかもひとりは舞台に立つことだけで精一杯の新人。
 相手役のいないキムくんの、孤軍奮闘ぶり。トップ娘役不在にも研1ヒロインにも納得していない観客の冷たい空気。
 そんななかで、続く公演。

 それがだんだん、変わっていった。
 みみちゃんジュリエットが息づきはじめ、キムくんロミオもみみちゃんを、相手役を、視るようになった。ふたりで手を取り合い、ひとつの方向へと走り出した。
 逆風の中で、キムみみコンビが生まれた。夢華さんジュリエットのときは相変わらず『ロミオ』だったけれど、みみちゃんジュリエットのときは『ロミオとジュリエット』になった。

 あの初日付近の停滞感は、なんだったの。
 最初から無理なWキャストでなければ、あんなに孤独な「ロミオ」は見なくて済んだんじゃないの?
 ジュリエットがみみちゃんだけなら、トップ娘役がみみちゃんなら、もっと早くラヴラヴなキムみみを、愛し合うロミオとジュリエットを観られたんじゃないの?

 キムみみの『ロミジュリ』が好きで、感動して大泣きして劇場に通い、午前公演を見て「午後も観ようかな……でも、ジュリエットがみみちゃんじゃないから、やめとこう」と、観ないで帰るしかなかった、あの寂しい日々は、なんだったの。

 すべてを否定するわけじゃない、夢華さんがいたことによって得られたモノも、きっとたくさんあるんだろう。なにごとも作用し合って存在しているのだから。
 だけど、夢華さんのソロで拍手皆無とか、不可解な抜擢のたび劇場の空気がぴきんと張りつめた、あの日々はいったい、なんだったの。

 わけわかんねえ。
 なんで「今」なの。

 もしも夢華さんに「辞める」絶好のタイミングがあるとしたら、『ロミジュリ』と全ツと連続休演したときだろう。
 それを越えて戻って来たのだから、肝を据えてがんばるんだと思っていた。
 アホな抜擢なし、ふつーに研1からスタートしていたなら、夢華さんは実力ゆえにちゃんと評価されただろうに、と思うよ。ふつーの基準点で見られたなら。

 まあその、とってもアタマ悪いことを言っちゃうと、わたしが夢華さんに辛口評価なのは、ぶっちゃけ「顔が好みではない」ってことが、大きいの。
 すまんなあ、こんな理由で。鼻スキーなわたしには、横顔が陥没している人は美人に思えないのよー。
 ふつーのジェンヌさんには、そこまで完璧な高い鼻や整った横顔を求めないけど、「100年に一度の逸材」でしょ? 入団するなりトップをやっちゃうよーな人でしょ? ふつーレベルじゃ困るのよ、美貌でがつんと納得させてよ~~。
 顔が好みだったら、アタマの悪いわたしは評価甘くなっちゃうんだけどね~~。好みじゃない、てのがほんと大きいのだわ~~。
 あと、芝居が好みじゃない、てのもあるんだけどね。これも顔が好みだったら底上げされるだろうから、やっぱ顔かなあ……。

 今の夢華さんは「学年相応」な感じになっている。
 研4の新進娘役ならこんなもん、ってな感じ? 新公ヒロやったり、ショーでオイシイ立ち位置だったり。
 大劇場ヒロインを務めた人が、何で今さら「学年相応」になってるのか、それもわけわかんないけど、劇団は「前代未聞の研1ヒロイン」の事実を抹消してるっぽい?
 「なかったこと」にして、これから何食わぬ顔で「新進娘役です」と上げていくのかな、と思っていた矢先の、退団。

 なんなのよ。
 あの謎の抜擢と組の大混乱は、なんだったのよ。

 わたしの夢華さんへの評価は低いし、ぶっちゃけ好みじゃないし。
 でも、それとこれとは別っすよ。
 劇団はいったい、ナニがしたかったの?

 ナニを思い、ナニを目指して、多くの人々を傷つける人事を行ったの?
 キムくんも雪組子もファンも、当の夢華さんも、そして不信感から客足にも響いたはずだから、劇団の経営的にも、誰も得をしなかった。損ばかり、傷ばかりが残った。
 もしもこの樹齢100年の大樹が倒れるとしたら、こういうところに原因があるのだと思わせる、歌劇団の闇部分が、夢華さんの謎の抜擢とその後の扱い、そしてこの退団発表に現れているのだと思う。


 舞台の上の夢華さんしか知らないから、彼女がどんな子で、どんな思いで舞台に立ち続けていたかは知らない、わからない。
 劇団の考えや裏事情がどうあれ、とどのつまりは夢華さん自身で選んだことであり、その結果だ。

 ただわたしが夢華さんで思い出すのは、『インフィニティ』のカーテンコールだ。
 主演のまっつが挨拶を噛むと、出演者全員でウェーブをして囃し立てる。その先頭を切るのが、夢華さんだった。
 はるか上級生で座長のまっつが、噛んだことを誤魔化して喋っているのに、それを見逃さず「いぇ~~い!!」とウェーブをはじめた。舞台の上も、客席も、爆笑。
 みんなの心がひとつになっていた、みんながにこにこキラキラ笑っていた。
 先頭切ってウェーブをはじめる夢華さんも、にこにこ笑っていた。楽しそうだった。
 『インフィニティ』のカテコは、緞帳が下りる最後まで、キャストみんなが自由に動いていて、下級生たちはみんな、膝を折って緞帳が閉まる最後まで客席に手を振っていた。
 夢華さんも舞台に倒れ込む勢いで二つ折りになって、手を振り続けていた。
 ふつーの女の子の笑顔だった。ふつーにかわいい、タカラヅカの下級生娘役だった。

 劇団は、なにをしたかったんだ。
 夢華あみとは、なんだったんだ。

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