ねえねえねえ、カリオストロ伯爵って、すげーいい役じゃないですか?

 『ルパン三世―王妃の首飾りを追え!―』が俄然面白くなったのって、カリオストロ@だいもんの役の面白さに気づいたときだ。

 初日に観たときは、作品の「タカラヅカでなさ」に落胆し、反射的に反発した。
 わたしはタカラヅカを観に来たんだ、こんな、よその劇団でもできそうな話を観に来たんじゃナイ。

 でも2回目、「タカラヅカじゃない」ことはあきらめて観たら、楽しかった。
 所詮、雪組が好きなんだもの。出演者が彼らである限り、好きになる。

 に、しても、だ。

 ちぎくんたち、ルパンチーム+銭形は、アニメありきの役だ。
 アニメキャラになりきることが最優先。
 そして、ここが重要、彼らには、「ドラマ」がナイ。

 ルパンたちは、ドラマしてはいけないのだ。
 つまり、登場して、どんな人なのか説明して、壁にぶつかって、それを乗り越えて、成長して、終結する……そういう「ドラマ」をやってはいけない人たちなんだ。

 彼らは「すでに存在していて」「なにひとつ変化してはいけなくて」「終わってはならない」んだ。

 だから、ルパンは主役でありながら、「主人公」であってはいけない。
 本筋と主人公は別にいて、それに外側から絡む・手を出すだけの人になる。

 変化も成長もない、終わらないキャラを使ってストーリー作る以上、彼らが手を貸すことになる「本筋」と「主人公」が魅力的でないと、成り立たないのよほんと。
 ゆえに重大任務。
 本筋部分の人たち。

 で、本筋ってのはつまり、マリー・アントワネット@みゆちゃん。

 とっても安直に「タカラヅカと言えば『ベルばら』。ルパンに『ベルばら』絡めれば、それで『タカラヅカのルパン三世』」というのが、今回の小柳タンの創作スタイル。
 んで、安直であるがゆえに、たしかにアントワネット救出が本筋なんだけど……アントワネット自身の物語は、描かれていない。

 エンタメのお約束。起承転結。
 主人公が壁にぶつかって、悩んで、乗り越えて、成長する。
 ところがマリーちゃんの物語は、「ヅカファンなら知ってるでしょ?」と、肝心の彼女の成長部分が描かれていないのよ。
 おバカな王妃姿を気まぐれ謁見場面で描き、悩んでいる姿を「ローマの休日」場面で描き……起、承、と描いているのに、肝心の転はナシ、いきなり牢獄場面で結、彼女はすっかり大人になっている。
 この手抜きな描き方が、この作品の「ヅカファンに甘えている」部分。
 大切な場面をスルーして、おちゃらけ場面に尺を割く。間違ってると思うよ、小柳タン。

 だから、わたしはマリーちゃんの物語を「本筋の一部」とのみ認識。彼女を「本筋の主人公」とは認識しない。

 では、主人公は誰か。

 この物語で唯一、起承転結する人物がいる。
 その人物を、「主人公」だと思う。

 カリオストロだ。

 心の傷から世を拗ね、詐欺師として生きている男。でも、そんな自分に疑問を持ち、鬱屈した日々を送っている。
 そんな彼がルパンと出会い、生き方を変える。
 その、自分の本当の望みに気がつく場面、「変わる」瞬間をも、きちんと作中で描かれてるんだわ。

 壁にぶつかって、悩んで、乗り越えて、成長する。きちんと、起承転結。
 カリオストロだけが、描かれている。
 マリーですら、「みんな知ってるから、描かなくていいよねー、てへぺろ」と終わらされているのに。
 彼だけが、「物語」「ドラマ」として、成立している。

 だから、これは、「カリオストロの物語」だ。

 主役はもちろんルパン、だけど「本筋の主人公」はカリオストロ。

 そして何故、カリオストロが主人公として成り立っているか。カリオストロが主人公でなくてはならないのか。

 彼が、「タカラヅカ」だからだ。

 なにも変化しないルパンは、「タカラヅカ」ではない。外部のキャラクタだ。
 だが、カリオストロは「タカラヅカ」なんだ。
 「タカラヅカ」の方程式で作られた、正しい「タカラヅカ」のヒーロー。
 美しく登場し、歌い、踊る。
 ルパンたちしか登場していないとき、舞台には歌もダンスもなく、「タカラヅカ」ではない、外部の舞台のようだった。
 カリオストロが登場してはじめて「タカラヅカ」がスタートする。
 『ルパン三世』という世界観と、「タカラヅカ」が「出会う」……それが、カリオストロ登場の場面なんだ。

 「タカラヅカ」のヒーローだから、カリオストロは悩むし、乗り越えるし、成長する。
 恋人もいる。

 変化しない、成長しない、恋のハッピーエンドもない、ルパンとは違うんだ。

 カリオストロは、「タカラヅカ」だ……。その凝縮だ。
 そして彼が、「ルパン」と出会う物語なんだ。

 そう気づいたときから、俄然面白くなった。
 わくわくは加速した。

 『ルパン三世』、楽しい。

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