星組全国ツアー『大海賊』
 これを語る前に、初演の思い出を語る。
 だって、記憶は消せない。自分のなかにあるもの、立ち位置を整理した上でないと、感想にならない。
 いろんなことが積み重なって、今がある。

 初演は観たけれど、再演は観ていない。ので、初演の印象のみで語るのだが。
 この作品の2番手役って、エドガーだよね?

 当時のタカラヅカは新専科制度による混乱真っ只中。あっちを立ててこっちも立てて、だけどこっちも売り出したくて……と、「大人の事情」最優先、舞台クオリティも観客もどーでもよし、という潔い経営方針だった頃だ。
 「新専科枠」で出演していたのは75期のワタさんとなおちゃん。ただし、新専科発足時、ワタさんは宙組2番手から新専科へ異動、なおちゃんは花組3番手から新専科へ異動、ということになっていたので、いちおーワタさんを上に扱うことは理に適っている。
 もっとも、ワタさんは「新専科発足」直前に2番手に繰り上がったばかりで、2番手としては一度も大劇場に立ったことがなく、3番手のなおちゃんと同じくくりにされてもおかしくないあたりの人ではあった。
 が、ワタさんとなおちゃんを一緒に考える人はいなかったろう。ワタさんは「将来のトップスター」として劇団が大切に育ててきた「超路線」様のひとりで、「年功序列の花組にいたら、消去法で3番手になってました」というなおちゃんとは身分が違いすぎた。それこそ、ジェローデルとアンドレほどに。
 当時は番手のついたスターが途中で退団することはめずらしく、「順番待ちしていたら、いずれはトップスターになる」という空気があった。同時に、「このままだと、あの人もこの人も、いずれトップにするしかなさそうだけど、それでいいのかな?」という空気もあった。
 ゆえに、新専科制度が出来た、と噂になるほどに。新専科の真意なんぞ一ファンのわたしにはわかるはずもないが、結果として「年功序列の順番待ち」でトップになれなかった人たちが出た。そのなかのひとりが、なおちゃんだ。

 実際、なおちゃんはトップには向いてなかったと思う。というか、路線スターに向いてなかったと思う……んだが、それはわたしの好みの問題で、客観的評価ではナイだろう。だって路線スターだったんだもん。
 わたしがなおちゃんを苦手だったのは、大根役者だった、ということに尽きる。
 舞台クラッシャー。空気読めない。この人が出て来ると、それまでの芝居が壊れる。
 いくらタカラヅカがスター芝居で、スターの存在感で自由にしていい作りだとはいえ、コレはナイわー、という。
 脇ならいいけど、路線スターだからある程度の位置と役が確定しているので、見ていてつらかった思い出。

 時代がまずかったかなあ、とも思う。
 なおちゃんは美人さんだったので、今のようにスカステだのネット動画だのの時代なら、もっと加点されたかもしれない。実際に舞台を見に行く人より、自宅だの手のひらの端末だので無料コンテンツを見てファンする人が多い時代だもの。
 美人さんだから、今の時代なら、もっと評価されたかもな。わたしも最初、なにかで素顔写真を見て「きれいな人!」って好意を持った。で、実際に舞台を観て顎をオトしたけど。写真だけなら、好きだったろうな……美人は正義。

 だから、ワタさん演じるエドガーが2番手、なおちゃん演じるキッドが3番手、で疑問なし。


 ……かといって、ワタさんが良かったわけでもナイ……。

 ワタさんは、いわゆる「超路線様あるある」を体現する人だった。
 劇団が「将来のトップスター」と決めて、特別扱いをしているスターのお約束。
 まず、歌ヘタ。それも、ハンパなくヘタ。
 芝居もびみょー。
 ダンサーというわけでもない。
 分不相応な役、立場を立て続けに与えられるが、みんな「超路線だから仕方ない」と黙認。
 ただ、美貌と華はある。
 タカラヅカってのはそういうところ、なにもできなくても、きれいでキラキラしてれば、それでアリ。
 タニちゃんもそうだったなー。
 そして、この手のタイプは小さいときから「将来のトップスター」として育てられているので、なんにもできなくてもとにかくどんと真ん中に立つことだけは出来る、鍛えられている。
 ワタさんも、真ん中に立つ説得力だけはある人だった。


 そんな2番手3番手、組子ではなく初顔合わせの寄せ集め、トップお披露目公演で、ムラ公演なしのいきなり東宝、トップ娘役は他組からの嫁入り落下傘超下級生キャリアなし、トップスターはノドつぶして声が出ず、体調悪くてフラフラ……って、どんだけものすごい状態だったんだ。
 ネットのナイ時代でよかったねとしか……。(すでにインターネットはあったけれど、今とは比較にならない)

 そんな『大海賊』初演で。
 わたしは、エドガー@ワタさんに不満を持ち、キッド@なおちゃんはアリだと思った。

 中の人の苦手度でいけば断然なおちゃんダントツなんだけど、キッドはOKだった。

 キッドの浮きっぷり、ダメっぷりは、わたしの「ヘタレ男スキー」にマッチした(笑)。
 あまりにも哀れで、かえってオトメゴコロがキュンキュンした。
 や、とりあえずイケメンだし! 顔はいいのにキャラが残念、って、なかなか萌えですよ!

 それに比べ、エドガーは。
 ストーリーを回す力がない。
 それは、大きな減点になる。

 キッドは、いてもいなくてもかまわない役だ。しかし、エドガーは物語の起点である。この役が弱いと、作品が成り立たない。
 いなくてもかまわない役がへたっぴなのと、主役の次に重要な役がへたっぴなのとでは、意味が違いすぎる。

 観ていて猛烈に、タータンを思った、のをおぼえている。
 この役をタータンがやっていたら、どんだけ物語が立体的になっただろう、と。
 脚本がカスなのは周知のことだが、それにしたって、クソ作品を力技で掘り起こし、盛り立て、陰影を付けて来たろうなと。

 でもわたしはタータンがちょー苦手だったので、それでも「ワタさんでよかった、だってきれいだもん」とアタマ悪いとしかいえないよーなことを本気で思っていた、ことも事実。

 このときが、「ワタルに2番手やらすな」と思った最初かな。
 2番手役でも、主人公の親友とか、本筋に関係ない「華」役割ならいいの。でも2番手の真骨頂は「悪役」「敵役」でしょ? 主人公と肩を並べ、ストーリーの核を成す役でしょ?
 ワタさんに悪役をする能力はない。が、なまじきれいで華やかだから、悪目立ちする。
 「トップにするしか能がないスター」って、いる。
 脇にいると邪魔、作品を壊す。だから少しも早く真ん中に。彼は、トップスターになるべき人。

 トップになってからのワタさんは大好きだ。彼はとてもつなく「タカラヅカ」で、これ以上なく「トップスター」だったと思う。
 でも、2番手専門新専科スターとして、各組を渡り歩いていたときは、ほんっとに苦手だった。舞台壊して回るんだもの。芝居出来ない奴は悪役やるなー! ラスボスやるなー!

 という、ワタさん評価の原点が『大海賊』のエドガー。
 ワタさんのエドガー、きれいだったなあ。
 でも、いろいろとひどかったなあ(笑)。
 という思い出。

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