『シトラスの風III』の創作意図はどこにあるのだろう?

 『シトラスの風』初演は「宙組スタート」として意欲に満ちたものだったんだなあ、と、焼き直し作『シトラスの風III』を観て、改めて思う。

 初演は、新しく出来た組、新しい意識の組、タカラヅカの未来を担う組……その希望と誇りがびんびん伝わってくる公演だった。
 「タカラヅカ」としてやれること、全部やっちゃいます的な。それが行きすぎて、「高校生の創作ダンス・青年の主張演説付き」みたいな、トホホな場面があったりな。

 宙組創設公演の作品を、新生宙組スタートに再演する。
 それだけなら、「スタートだ!」というわくわく感があり、まぁ様率いる新生宙組、今の宙組に相応しいモノだと思える。

 ……けど、実際はどうだろう。
 新生宙組スタート、っぽくなってるか?
 どのへんが?

 初演時は、トップコンビのずんはな、2番手たかこ、3番手ワタル、と、きれいにピラミッドが出来ていた。つか、当時のタカラヅカはそれがあたりまえだった。
 もともとタカラヅカは、トップを中心としたピラミッド制度が似合うカンパニーだった。妙齢の女性だけで構成された劇団ゆえ、表現できるモノに制約がある。限られた範囲で「世界」を構築するのは困難で、それを潤滑にするツールのひとつとして「スター制度」「明確な序列」が有効なんだ。
 なんで何十年もこのシステムで来たのか。それが、有効だからだ。「みんなが主役」「公演ごとに序列が変わる」だと、興行として成立させるのが難しかった。長い歴史の中で、有効なシステムが自然と構築され、根付いた。
 大階段でのパレード、最後に大羽根を背負ったトップスターが登場する、など、無から突然ソレが出来たのではなく、必然的にソコへ行き着いたのだと思う。
 有効だから。
 『シトラスの風』初演もまた、その「タカラヅカの基本」を、「有効なツール」を、当時としてはごくふつうに、そのまんま活用していた。

 のに、『シトラスの風III』では初演のスター配置を無視し、近年のタカラヅカの迷走ぶりを表している。
 つまり、初演のきれいなピラミッドは影を潜め、「トップコンビとその他大勢。番手ぼかしが最優先事項」という構成。

 テル時代の宙組は、トップ以外は誰ひとり立場が決まっておらず、2番手が誰か3番手が誰か不明なだけでなく、トップ娘役が誰かも秘密になっていた。
 たぶん、トップ娘役はみりおんで、2番手がまぁくんなんだろうけど、実際の舞台は、たぶん、としか言えない曖昧なモノだった。
 わたしは裏トップ娘役兼裏2番手のヲヅキファンだったので、彼が宙組で「トップの次の位置」にいるのを、愉しまなかった、というとまったくもって嘘になっちゃうのだけど、古いヅカヲタとして、そーゆー宙組の状態に疑問も持っていた。愉しんでるくせに不満ってなによダブスタひどい。そうなのよ、ダブスタなのよひどいのよ、でも本心。

 テルキタ時代が終わり、新しい時代が来た。
 まぁくんの治世に合わせて組替えしてきたマカゼは、入団前から折り紙付きのトップ候補生、揺るぎない路線人生を歩んできたスターだ。番手ぼかしされることなんてあり得ない、鳴り物入りスター様。
 お披露目公演の『王家に捧ぐ歌』は男役2番手がやるほどの役のない、番手ぼかし作品のひとつだったけど、マカゼに限ってソレはない、たまたま『王家に捧ぐ歌』だっただけで、彼は宙組の単独正2番手だ、今度こそ宙組で、美しいピラミッドを観られるんだ……そう、思っていただけに。

 なんで、せっかくの「新生宙組」で、宙組誕生の番手はっきり『シトラスの風』を持って来て、「番手ぼかしが最優先事項」やっちゃうかな。

 初演で2番手が演じていた役をすっしーに、そして3番手中心だった場面は消去。
 おかげで2番手に大きな役はなくなり、3番手に至っては場面も持たせてもらえず。
 トップコンビ以外は目立たないように気を遣う、宙組の悪しき伝統再び。

 えーと、まぁくんの宙組もこーゆー体制で行くの……?
 まぁくん時代の「はじめてのショー」で、トップから3番手まで全員出演したショーでこういうことされると、「ああ、そうなんだ」と思われても仕方ないよねえ?

 なんで初演でも人気のあった「トップ娘役(美女)を、トップスター(美男子)と2番手(美男子)が争う」という、タカラヅカ定番場面を、「トップコンビの場面」にしてしまうのか。
 たかはな時代はたしかにそうやって、たかはな以外は活躍しないよう気を遣われてきたし、テルキタ時代も番手ぼかしに精を出していたけれど。
 代替わりしてもまだ、そーゆーことをするのか。

 いやあ、たかこの演じた2番手役ですっしーが出て来たときは、アゴが落ちました。
 中日再演時は「2番手」がそもそも出演していない公演で、「トップスター候補」以外にこんな大きな役をやらせるわけにはいかない、ということで、あえてすっしー、という「宙組らしい」配役も仕方なかったのかもしれないけど。(若手にやらせりゃいいじゃん!とわたしは思うけどなー)
 マカゼという劇団お墨付きの「トップスター候補」にすら、「大きな役をやらせるわけにはいかない」のか。宙組って……。
 や、前後にマカゼ中心の、2番手に相応しい場面と役が用意されていて、それゆえにこの役をやることが出来なかったんだと、勝手思って観てたから、それすらなくてさらにアゴを落としたのですよ……宙組ェ………。

 3番手はたぶん愛ちゃんなんだと思うけど、彼にはろくに見せ場がナイ……。真ん中に並んでたから、あの場面は愛ちゃん中心とカウントしていいのかな?程度の、よその組なら番手外の若手でもやっていそうな役割のみ。
 初演では、ワタルくんがやたらめったら長い場面を、タキさんとふたりして任されてたっけ……ちょーびみょーな場面だったけど、それでも「3番手」として立ち位置を示すことは出来た。

 トップコンビ以外は、扱いが軽い。
 今までの宙組と変わらずに。違和感なく。

 新生宙組も、こうなんですかい。
 せっかく『シトラスの風』なのに。
 新しい風が吹かねえ……。


 はじめてのショー作品なんだ、トップから3番手まで勢揃いして出演しているんだ。
 この体制でやりますぜ!! と、お披露目してくれてよかったのに。

 「代替わりしました、でも現状維持です、ヨロシク」てのは、わくわくしない……。

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