わたしと弟は、猫のことを「この世でもっとも手触りのいい生き物」と呼んでいる。

 それは自分ちの猫を触る限り、そうなんだけど。

 ……この世の猫すべてが、同じくらいやわらかいわけじゃない??

 散歩の途中で、とてもかわいい猫に会ったんだ。
 わたしは犬にはなつかれるけど、猫には敬遠されるんだよね。何故か。わたしの愛は犬より猫に傾いているにもかかわらず、猫には愛されないの。犬も好きだから、なつかれるとうれしいけどさ。
 んで、今日会った猫はまるで犬のようだった。
 わたしを見つけると鳴きながら駆け寄ってきて、すりすりする。……犬にはよくこんな態度をとられるが、猫では皆無だ。
 うれしいのでしゃがみこんで撫でる。すると猫はどんどん悦に入り、ごろんとおなかを見せる。うおーっ、かわいいぞーっ。
 どこかの飼い猫だろうか。首輪はないけど、ころころに太っている。うちの猫より肉付きがいい。からだはうちの猫よりデブいのに、顔はうちの猫の半分くらいの大きさ。
 うれしいしかわいいので撫でまくったのだが……手触りが……。
 あんまりやわらかくない。
 あれぇ?
 猫って水みたいにくちゃくちゃにやわらかい生き物だよねえ?
 毛並みも硬いし、肉も硬い。
 そーいやこの間撫でたよその猫も、やっぱり硬かったなあ……。

 ひょっとして、特別やわらかいのか、うちの猫?

 うちの猫は一見アメリカンショートヘアだ。
 実はアメショーとチンチラのハーフ。
 短毛種と長毛種を掛け合わせるなんて、冗談としか思えんが……。アメショーを飼っていた娘さんが、チンチラを飼っていた従兄弟のところに嫁入りしてきたんだからしょーがない。できた子どもはなんとも微妙な存在。
 ぱっと見にはアメショー。グレーのトラジマ。誰もが「アメショーですね」と言ってくる。「きれいな猫」とほめられもする。
 だけど……よく見ると微妙に、変。
 まず、毛の長さ。
 実はさりげなく長かったりする。さすが片親が長毛種。ハーフの彼はふつーの猫より毛が長い。
 そして、体型。
 手足が短く、太い。これってチンチラの体型なんだよね。
 顔は楕円形。しかも、でかい。めちゃくちゃでかい。これもチンチラの特徴。
 うちの猫を見た人はたいてい「でかい」という単語を口にする。ものすごーく巨大な猫だと思われているようだ。「8キロくらいあるんですか?」とかな。
 うちの猫は4キロしかないっすよ……。
 倍の体重に見えてしまうのはすべて、顔がでかいせい。マンガみたいな体型してやがるのよ。顔でかすぎ。
 そして顔はチンチラそのまんま。昔うちはチンチラを飼ってたんだけど、その子に瓜二つの顔立ち。
 一見アメショー。でも、よくみるとあちこちがチンチラ。それがうちの猫。

 特別やわらかいのは、洋猫だから? チンチラの血が入ってるから?

 なんにせよ、「うちの子はかわいい」という飼い主バカなお話でした。

 

トイレの鍵。

2002年8月26日
 かなり久しぶりに、トイレの鍵を閉めた。

 祖父の三回忌だったのよね。
 親戚やらなんやら、ささやかに集まっていたので、トイレに入ったわたしは「あっ、そうか」と思って鍵を閉めた。

 ひとり暮らしですから。
 トイレに鍵をかける習慣がありませんでした。

 つーか、トイレのドアはいつもわずかばかり開けておくのが癖になってるし。
 全部閉めちゃうと、猫がうるさいのよ。「おねーちゃんの気配がするのに、姿が見えない!」てなもんで、鳴きわめいたり、ドアをがりがり引っ掻いたりする。
 とりあえずほんの少し、中がのぞける程度に開けておくと、納得するらしい。「ここにいるのね」って感じにのぞくだけのぞいて行ってしまう。
 そのときの気分なのか、「中へ入れろ」とドアの隙間に前足をつっこんでじたばたしたりもする。トイレのドア、重いから自分で開けられないらしい(風呂のドアは開けるくせに)。
 こちらからドアを開けてやると、中に入ってきて便器に坐っているわたしの周りを一周して出ていく。なにがしたいんだか。
 そしてごくたまに、坐っているわたしの膝に乗って、寝てしまったりする。

 トイレ使用中、むき出しの太股の上に猫……。

 客観的に見ると、これほどまぬけな姿もないが。
 それでも、うちのバカ猫はかわいいのである。世界でいちばんかわいい猫なのである。
 たぶん、猫に飼われている人間たちは全員、同じ想いのハズだ。

 そして、祖父の三回忌。
 お坊さんがお経をあげているその最中に、猫はあたりまえの顔をして、仏壇の上に飛び乗った……。

 じーちゃん、ばーちゃん。
 我が家には猫がいるよ。
 じーちゃんばーちゃんが生きていたころと変わらずにね。

 

猫の涙。

2002年7月24日
 母はタマネギをきざんでいた。
 強烈に目に染みる。
 涙ぼろぼろだ。

 母はテーブルでタマネギをきざんでいた。
 冬はこたつ、それ以外はふつーのテーブルである、一家団欒の場所だ。お膳、と我が家では呼んでいる、和風のテーブルだ。
 とーぜん母は正座している。
 正座をして、テーブルでタマネギをきざんでいるのだ。
 台所は超絶狭いので(母は整理整頓が苦手だ)、彼女は料理の仕込みをすべて、食卓の上でやるのだ。

 母の足元には、猫がいた。
 わたしの猫だ。
 昼間に連れて行ったら、そこで落ち着いてしまったので、そのままにしてあった。
 テーブルの下の床で、前足を折りたたむようにして、坐っている。
 母の膝の、すぐそばだ。
 狭いテーブルの下は、彼のお気に入りの場所だ。

 母はタマネギをきざんでいる。
 強烈に目に染みる。
 涙ぼろぼろだ。

 そしてふと、テーブルの下をのぞいてみた。
 そこには猫がいる。
 大きな目で、母を見ている。

 その、猫の目に。

 涙が盛り上がり、こぼれた。

 透明な、きれいなきれいな涙。

 …………どーやら猫も、相当染みたらしい、タマネギが。

 涙をこぼした猫は、のっそりとカラダの向きを変え、母におしりを見せてうずくまった。
 相当染みたらしい、タマネギが。

 母はわざわざわたしの部屋にやってきて、鼻息荒く語る。
「あんた、猫の涙って見たことある?!」
 ねえよ。
 つーか、本来なら泣かない生き物を泣かすなっちゅーの。

「長年猫飼ってきたけど、はじめて見たわ。ものすごくきれいだったわ」

 大変だな、猫よ。
 まさか泣かされるとは、お前も思わなかっただろう。

 どーせなら、わたしも見たかったぞ、猫の涙。

 

猫バカ。

2002年7月11日
 また徹夜で電話していたので、1日予定が狂う。

 前夜から親の家に置いてきていた猫を、引き取りに行けなかった。
 ので朝7時頃、こっそり親の家に合鍵を使って、猫を迎えに行った。

 猫は、わたしを無視した。
 わたしの顔を見て、かぼそい声で鳴くのだが(なにかをねだる、訴えるときの鳴き方)、わたしが抱き上げるとするりと逃げる。
 なんだとぅ?!
 2度ばかり逃げられたので、徹夜の疲れもあって、怒って帰る。
 なんだよ、その態度はっ。そりゃあんたのこと置き去りにしたけどさ。あとで父親が届けてくれるって言ってたから、猫溺愛中の父をたてて、あえて置いてきたんじゃない。なのに、猫のことすっかり忘れて、父が先に寝ちゃったなんて、わたしのせいじゃないわ。

 猫はすっかり拗ねているんだかなんだか。
 昼過ぎにもう一度引き取りに行ったときも、とても態度が悪かった。
 母には「あんたの孫、半日面倒見てやったわよ」と恩を着せられるし。孫ってなんだ、孫って。わたしはまだ嫁入り前だっつーの。子どもも孫もおらんわい。

 とゆー猫は今、わたしの横で、わたしの鞄の上で、熟睡中。鞄、ぺしゃんこだよ……もーいいけどさ……。

 猫はともかく。
 わたしは、睡眠不足がけっこう深刻かもしれない。

 

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