わたしが信じていたのは、「宝塚歌劇団」なんだと思う。

 貴城けいは、人気がない。

 そりゃーもー、隠しようがないことだろう。
 10年以上かしちゃん眺めてきて、新公、主演公演等含め追いかけてきて、思い知っているよ。
 一度だけお茶会に行ったこともあるが、サクラだらけでひどい雰囲気だったさ。ヘコんで、二度と行くまいと思うくらいにはな。
 破綻のない実力と、歌劇団で五指に入る美貌を備えていながらも、人気がなかった。出なかった。

 わかるよ。
 かしげが人気の出ないタイプだってこと。

 人気スターになるには、「色気」が必須だ。

 現実社会で実際につきあうなら、薄くても地味でも「やさしい人」「誠実な人」がいいに決まっているが、自分とは無関係な虚構の世界なら「濃い人」「黒い人」「悪役」にときめきたいもんな。
 非現実であるところのタカラヅカでは、持ち味が「色悪」である方が人気に結びつく。もともとの持ち味が「白いいい人」なのに、人気を取るためにわざと「濃いキャラクタ」のふりをする人たちだっているもんな。「役のかっこよさ」と「本人のかっこよさ」を誤解するファンが多いことに目をつけて。

 そんななか、かしちゃんは、ずーっと「いい人」のまんまだった。
 色気のなさがそのまま人気のなさだった。
 「いい人」だからべつに嫌いじゃないけど、夢中になることもない。もっと他に、どきどきさせてくれる色男が現れればそちらに行く。
 きれいだし、ヘタじゃないし、いてくれる分にはかまわない。でも、わざわざ無理をしてまで舞台を追いかけたり応援したりしたい人じゃない。

 そーゆー「クラスメイトの、ハンサムだけど貴重感に欠ける学級委員(雑用は彼にお任せ)」感覚のキャラというかな。

 人気がないことなんか、知っていたさ。
 『アメリカン・パイ』の売れなさ具合……てゆーか、サバキのものすごさは記憶に刻みつけられているしな。同じ2番手バウとして同年に上演された水・あさこ・トウコの公演がものすげーチケ難の人気公演だっただけに、気の毒過ぎたさ……。
 『DAYTIME HUSTLER』はチケ難だったが、正直謎だ。2番手特出を経て人気は多少上がっているようだったが、それほど急撃とも爆発的とも思えなかったので。
 ほんとーに人気が出たなら、そのあとの『コパカバーナ』のチケットの売れなさ具合がさらに謎になる。

 お披露目の『コパカバーナ』はトップお披露目初日ですら売り切れていなかった。そのあとのコンサートは、平日とはいえ、たった2日間なのに定価以下に値下げされたチケットが売買掲示板でいつまでも買い手がつかず、回転寿司状態になっていた。
 近くの劇場でやるなら見てもいい。前方席なら見たい。土日なら見てもいい。……自分になんの犠牲も必要ないなら、まあ見てもいいか。その程度の位置にあるんだろう、貴城けいという人は。

 それでも、貴城けいはトップになった。

 かしちゃんが人気がないことも、地味で薄いことも、劇団はわかっているだろう。
 わかっていて、トップにした。

 だからこそ、期待したんだ。
 ヅカにおいて人気が出やすいのは、「色悪」キャラだ。だが、ヅカのトップスターが演じる役は、「白い役」である。
 かしげは、2番手以下では人気の出にくいキャラだった。オイシイはずの「色悪」キャラを演じても、まぬけに見えたりおひとよしに見えたり、ちっとも魅力的にならなかった。(悪役がまともにできたのは、鎌足役ぐらいのもんだ)
 かしげの魅力がもっとも活かせるのは「真ん中の役」、すなわちトップスターだ。
 それを見越しての、かしげトップ就任だと思ったんだ。

 そりゃあ、今まであれだけ人気がなかったんだ。トップにしたって、いきなりブレイクはしないだろう。
 だけど、周囲をきっちりかため、宣伝をし、盛り上げていくことで着実に人気を得られる人だと思った。
 そこまで巨視的な目で見てこその劇団経営だと思った。2番手等の「オイシイ役」だけに頼った「色悪」のバブル人気キャラではなく、堅実に「真ん中」をつとめられるキャラの育成。目先の人気や利益ではなく、5年先10年先を考えて、「白い人」もトップ路線として雇用する。かしげだけでなく、これからのトップスター候補たちも含めてね。

 「白い人」で成功したキャラに、「和央ようか」がある。彼の場合は白というより「無色」だった気もするが。
 トップ就任前、たかこは「実力はあるが、人気がないので、トップ就任は難しい」新聞に書かれたんだからな。「全国ツアーは、代理トップとして回る」と書かれたんだからな。
 そこからスタートしたたかこも、「白い人」を演じて魅力を出せる持ち味と、破綻ない実力と美貌で人気スターになった。

 もちろん、たかことかしげはチガウ。
 でも、かしげは、たかこのいたポジションをねらえるキャラクタだった。

 白馬に乗った王子様を、素の持ち味で演じられるキャラクタが、他にいるかよ?!

 ただ、熱狂的にチケットを買ったりリピートしたりする層が好きなのは「白馬の王子」ではなく、「黒馬にまたがった盗賊」だっただけで。「王子様」にファンがつきにくいだけで。
 今の世の中、「それはとてもよいね(肯定)」と言うより、「どこがいいんだよ、そんなもん(否定)」と言う方が簡単に「かっこいい姿」になるんだよ。
 簡単に「かっこいい」からって、その人をトップにしたって、トップが演じる役は「白馬の王子」であり、「肯定」する役なんだから。「否定」する姿がかっこよかっただけじゃ、他のかっこよさは出せないよ。

 貴城けいに、期待していた。
 たしかに、今の彼に人気はない。
 だが、これから先、「タカラヅカらしいもの」を正しく見せてくれる「真ん中の人」になることを。
 タカラヅカは、夢を見せてくれるところ。現実社会において「どこがいいんだよ、そんなもん」と否定することがかっこいいことだとしても、タカラヅカだけは「とてもよいね」と肯定することの美しさを見せてくれるところだと思っている。
 愛だとか、夢だとか、友情だとか、人情だとか。笑われるような「うつくしいもの」を「肯定」してくれる世界。

 貴城けいを、信じていた。
 彼に、それだけの力があることを。

 そして。
 そんなかしげの能力を正しく理解し、素質を正しく開花させるために、歌劇団がかしげを宙組のトップスターにしたのだと。
 期待していた。

 ありえない落下傘トップ、怒濤のスケジュール、不穏なサインは出ていた。
 だが、わたしはそんなことに気を取られはしなかった。
 信じていた。

 宝塚歌劇団を。

 1作トップなんて非道なことは、もうしないはずだと。
 企業はメンタル面だけで動いたりしない。損得勘定で考えても、もうそんな愚行は繰り返さないはずだ。
 「宝塚トップスター」というブランドを、自分たちの手で地に落とすことはしないだろう。その価値を高めるために、最低限のことをするだろう。

 信じていたんだ。
 だから、かしげの人気のなさを目の当たりにしても、平気でいられた。劇団は、わかってやっているのだと。2番手時代以下の人気のなさと、トップになってからの人気は別ものであるのだと。

 トップというのは、それくらい「別物」なのであると。

 「真ん中」にふさわしい扱いをすること。任期も含めて。
 それが、「宝塚トップスター」という、他にないブランドの価値を守り、引いては「宝塚歌劇団」というカンパニーを守ることだと、信じていた。

 信じていたんだよ。

 
 ……所詮、わたしが貴城けいファンであるという偏った立場から、一方的に盲信していただけにすぎないのかもしれないが。


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