はじめて、まともに入り待ちしたんだ。
 雪組公演『堕天使の涙』『タランテラ!』千秋楽の日。
 や、いつもなら当日券抽選に並んでるから、入り待ちどころぢゃないんだもの。
 でも今回、maさんになにからなにまでお世話になり、千秋楽が観られることになった。前もって「観ることができる」とわかっている安心感。これは、「実際に観られること」と同じくらいありがたいことだ。
 楽が近づくにつれ、わたしは「『タランテラ!』を、コムまーを、もう観られなくなっちゃう」という焦燥感でくるくる空回っていたけれど、「最後を見届けられる」という事実にすがって、なんとか平静を保っていられた。

 だからこその、入り待ち。
 観られるかどうかわからない、心の余裕も時間の余裕もない状態では、決してできなかった。

 今まででいちばん早く、ムラへ行った。
 行けば誰かに会えるだろう、と、特に約束をするでなし、ひとりで。

 なんかねえ、すげーいい場所取れてしまって。
 周り、カメラだらけ。てゆーか、カメラ持ってないのわたしだけ?
 レンズだらけ、のばされた腕だらけの中でぽつんと、ナマ目で眺めるだけのわたし。小心なんでどきどき。
 純粋に、最後の楽屋入りを見たくて、拍手で送りたくて、早朝からそこにいたんだ。

 下級生から順に楽屋へ入っていく退団者たちに、いっぱい拍手をして。
 専科の高さんにも拍手をして。

 ねえねえ、わたしあいようこおねえさま、ナマで見たのはじめてだったんだけど。
 かわいいねっ。
 舞台姿が嘘のように、なんかとてもかわいい人でした。ええ? きれいだし、細いぞ?! ……舞台ってこわい、あんな人でも、アレでアレな姿に映るんだ……。

 有沙姉さんは、大人になっちゃったんだなあ、と思った。
 有沙さんはちょっと個人的に思い入れというか、こっちが一方的に「知っている」人だったのね。
 ただ、その「知っている」有沙さんは、10年くらい昔の姿で。
 入り出待ちをしないわたしは、舞台の上の有沙さんしか知らない。舞台では大人の女ってゆーかすでにマダム役をする人になっていたけれど、舞台と素は別だから。
 わたしの記憶の中の有沙さんは、かわいい小柄な女の子で、目の前にいる大人の女性とは、ずいぶん印象がちがって見えて、感慨深かった。

 ゆっさんがファンの人たちに「なおきさん」と呼ばれていることに、なんかおどろいてみたり……。そうか、なおきさんか……そりゃそーだよな、悠なお輝だもんな……。
 ナマのゆっさんを見たのは、何年ぶりだろう。ゆっさんもカオ変わったよね、この10年。

 ゆっさんと有沙さんが卒業して、雪組77期生はいなくなっちゃうんだ。
 や、その、わたしが一方的に愛着を持っていたのが10年くらい前の「雪組77期生」でね。だからトウコやケロは含まれているが、コムはごめん、入ってない。
 時代が変わること、区切りがきていることを、ひしひしと感じた。

 雪組以外でも、楽屋入りするオサ様やかしちゃんを見られてよろこんだ。きっと、楽屋内でコムちゃんに挨拶とかするんだろうな、と思った。
 うん、そんときは(笑)。

 妖精のようなまーちゃんが楽屋入りした、少しあとに。

 雪組生たちがわらわらと楽屋口から出てきた。
 下級生たちは私服の上に雪組ジャージ。上級生は緑色の雪組はっぴ。
 緑のハチマキもりりしく、大騒ぎ。

 さっき入っていったばかりのまーちゃんも、はっぴ姿で出てきた。
 手には謎の物体。
 えーと、魔法少女のバトン? 用途不明。祭りを一部始終眺めたあとでも、不明。ただわかることは、杖状の先端に、ペガちゃんがついているということ。

 まーちゃんと一緒にいるのは、我らが水先輩。
 オトコマエな彼が持つのは、拡声器。

 なんの飾りも洒落もない、どっからみても拡声器。
 夢の世界の住人が持つ拡声器……。

 さて、魔女っこペガちゃん付きバトンを持ったまーちゃんと、拡声器を握った水くんは、ふたりでなにやら打ち合わせ。
 サービスいいな、花の道に顔を向けて相談してくれるよ。

 いやあ、このときの水くんがねぇえ。真剣そのもので。
 そして、隣のまーちゃんが水の話聞いてないよな? ってくらい、にこにこの笑顔で。
 ふたりのコントラストがすごい(笑)。

 まーちゃんはもー、かわいすぎ。
 落ち着きのない小動物みたい。動作のひとつひとつが愛らしくてたまらん。

 水先輩は、仕切ってます。引率の先生のようです。下級生たちの立ち位置調整したり、指示してます。また下級生たちが素直に言うこときいて、動いてるの。どっちもかわいい。

 なにかと忙しい水先輩。
 自然な動作ではっぴをめくり、尻ポケットから携帯を取り出し、話し出した。
 尻ポケットに携帯かよ!!
 ふつー女の子は尻ポケットに携帯入れませんわな。男子です、そーゆーことするのは。
 動作が自然で、彼がナチュラルに男子であることがわかり、大変眼福な瞬間でした。

「はい。……はい、わかりました」
 てな声が、とぎれとぎれに聞こえたよーな、仕草からそう聞こえたように思えたのか。わりとでかい声で電話してたよな、水くん。

 電話を尻ポケットに戻した彼は、やおら拡声器を握り直すと。

「コムさん、来られますー!!」

 てなことを叫ぶ。
 おおっ、つーと今の電話、コムちゃん相手かよー!!
 なんか萌え(笑)。

 宣言のあとすぐに、コム姫登場。車が楽屋口前に停まり、コムちゃんが降りてくる。
 こちらは悠々たるもの。

 わたしはコムちゃん登場の瞬間の、水くんを見ていた。

 水先輩は、とにかく真剣な顔で。
 終始謎の中腰なんだけど、高校球児のような真剣さなのね。

 なのに。
 コムちゃんが現れた瞬間、ぱあぁあっと笑ったの。

 水くん、真剣なときと笑ったときのギャップ激しいから。でかい口がドナルドダックのよーに開くから。

 うわ、笑った。
 ずーーっとこわいカオしてたのに。

 黙っているとオトコマエだけど、全開で笑うとすげーファニーフェイス。
 そのファニー全開の、ピエロ人形みたいな笑顔。

 コムちゃん見るなり、笑ったよおお。すっげーうれしそうに。

 そっかあ……ほんとコムちゃんのこと、好きなんだぁぁ……。

 なんかもう、胸が熱くなりますよ。
 そして水くん、あんなにうれしそーに笑っておいて、またカオ引き締めるのね。「きりっ」てカオになって、仕切りはじめるの。
 カオに、「使・命・感」って書いてある(笑)。

 愛しい人だ、水夏希。

 まーちゃんとふたりして謎の中腰でコムちゃんを誘導。わたしの視界からいったん消える。

 なんで中腰なの?
 テレビカメラに映っちゃいけないってこと? いやいや、誰もアナタたちにそんなこと言ってませんから!! 一般人スタッフぢゃなくて、娘役トップスター(しかも退団者)と2番手スター(しかも次期トップスター)なんだから!!

 お着替えをしたコムちゃんが、謎の中腰まー&水に先導されてもどってきてからはもー、無礼講? 太鼓と替え歌、クラッカー。
 てゆーか、いつの間にかしちゃんいるの?!

 わたしが水くん注目しているうちに、いつの間にかあたりまえにまざっている私服の人がいます……。
 楽屋で挨拶、だけだと思っていた……だから、雪組勢揃いの「ここ」に、かしちゃんがいないことが寂しかった……のに、なんだよーっ、あたしが気づいてなかっただけで、いたのかよぅ。涙。

 コムちゃんの拡声器を使っての挨拶は、あまり聞こえませんでした。音割れちゃって。そして、柱と雪組上級生が視界を遮るのでコムちゃんがあまり見えない。
 馬鹿騒ぎしている雪組上級生がわーわー騒いでいるのを眺める。みんな団子になって騒ぐ。
 騒ぐ。騒ぐ。

 だけど。

 撤収の際には、咄嗟にゴミ拾い。

 すげー(笑)。
 みんな一斉にかがんでゴミ拾い出したっ。
 そしてやはり、わーわー騒ぎながら、コム姫にくっついて楽屋の中へ。ジャージ下級生たちがそれに続く。

 予行演習でもしたのか? てな揃い方。……したのかもな(笑)。

 ちらちらと見える、コム姫の笑顔。爆笑してるよ、クールビューティ様が。
 たのしそうに。

 祭りだもんな。
 祭りなんだ。

 
 わたしの77期生はすっかり大人になっちゃったけど。
 ここはやっぱりワンダーランドで、時の流れとはべつのところにあるんだなあ。
 学園祭ムード満載。
 タカラヅカのいいところは、永遠の学園祭前夜であることだ。
 祭りの前。夢の直前。
 ずっと、ずっと。

 
 そして。

 次にわたしがここで入り待ちをするときは、宙組千秋楽の日なんだと思って、ひそかにヘコんだ。

 
 …………ところで。

 なんかすっげーあったりまえにまちかめぐるがいたんだけど。

 わたし、ひとりだったから誰にも言えなくて。周囲の人も誰もなにも言わなくて。かしちゃんのことはみんな口々に言ってたのに。話題にしていたのに。

 アレ、まちかだよね? ふつーに楽屋入っていって、そのあとはビデオカメラ持って入り口にいたぞ?!

 入り待ちのあと友だちと合流して報告したけど、誰も見ていないっていうし!!
 またしても、わたしだけまちか?!!


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