凍えながら、当日券に並んだ。

 雪組東宝公演『タランテラ!』
 チケ運ナシなわたしには、東宝のチケットなんてまず手に入らないし、札ビラを切る財力もない。
 つーことで、とりあえず体力勝負。
 ひとりで並ぶ平日の日比谷。

 並んでいる時間を利用して、ブログの更新をしようなんて考えてたんだけど、甘かったね!
 パソコン持って行ってたって、凍えて指が動かない。
 ブランケット(旅行荷物の大半をこいつが占めてくれたさ……ああ大荷物)にくるまり、カイロを握りしめていたって、指は動かないっ。
 いやあ、過酷だった……(笑)。

 それでも、観たかったんだよ、『タランテラ!』。
 それでも、会いたかったんだよ、タランテラ@コム姫。

 結局東宝では2回観ただけに終わった。2階のてっぺんと、1階のいちばん後ろ。ほんとにわたし、水くんの出る公演のチケットは手に入らないのよ……このジンクスはいつまで続くんだヲイ。

 
 心の整理を付けるために、ここへ来た。

 
 千秋楽を観られるはずもない。大阪在住のわたしが、チケットもないのに何度も東京へ通えるはずもない。
 これが、最後だ。
 わたしはもう、『タランテラ!』をナマで観られない。

 ソレを、思い知るために行った。

 何回観たって満足できない、多彩すぎる舞台。
 たった2回でわたしは、ナニを見れば、どこを見ればいいんだろう?
 そりゃ、コム姫を見ているよ。まーちゃんを見ているよ。この作品を最後に天へ還ってしまう愛しい天使たちを、必死で見つめていたさ。

 それとは別の次元で。

 『タランテラ!』という世界を愛するものとして、なにを選び、なにを捨てればいいのか。

 東宝ではもちろん、舞台はさらに深化していた。
 ムラであれほど危ぶんでいたハマコの高音がクリアになり、今回は度外視していたキムの歌声に、熱と勢いを感じた。
 コム姫の人間離れ度はさらにどえらいことになり、「奇跡が“あたりまえ”に舞台にいる」てな風情だ。
 そして、そんななかでも変わらない壮くんに癒され、やっぱり高音になるとあちこちやばいアミたんに苦笑し、気を抜くと水くんをぜんっぜん見ない自分@水ファンだってば、に、愕然とする。
 「作品」主体に観ると、水くんが視界に入らないんだもん……意識して見るよーにしないと、黒燕尾場面まで一度もピンで見ない、とゆー可能性大いにあり@だからあたしは水ファンなんだってば。

 キャストの誰が好き、という前提をぶっ飛ばしてくれるんだよなあ、『タランテラ!』。
 まず、「作品」ありき。
 そりゃ、そもそものキャストへの好意は前提だけれども。好意の濃淡、順位を無意味にするんだよなあ。

 水くんラヴなはずのわたしが、水くんを見ていられないほどに。

 
 『タランテラ!』が好き。

 初日は情報量の多さと型破りさについてゆくだけで大変だったけれど、繰り返し観ることで毒に侵され、中毒化した。

 もう戻れない。この毒を知るまでの自分には。

 『タランテラ!』を観ることができる最後の日、最後の回。

 わたしはわかった。
 唐突に。

 何回観たって、何十回何百回、毎日観続けることができたって、わたしが『タランテラ!』を見切る(=見極める・納得しきる・咀嚼しきる)ことはできないんだ。

 わたしが、考え、感じ、人と出会いふれあい、毎日なにかしら得てなにかしら失い生きている人間である以上、『タランテラ!』を見切ることはできない。
 観るたびにチガウことを感じ、チガウことに気づき、チガウことに涙する。
 わたしが生身の人間である限り、無理だ。わたしが一定のまま一切なにも変化しない存在でない以上、無理なことなんだ。

 見切ることはできない。
 満足することはない。

 そうわかったときに、すこんと納得した。
 不可能を不可能と知り、心が軽くなった。

 それは、絶望かもしれない。

 わたしにとって最後の『タランテラ!』の幕が下りたあと、しばらく動けなかった。
 劇場のすみっこ席で、自力入手できた唯一の席、自分の限界だった席で、泣き続けた。
 多少の涙ならまず使わないのに、このときはハンカチを出して顔を埋めて号泣した。係の人に追い出される直前まで、泣き続けた。
 や、たんに動けなくて。すぐに立ったら絶対また倒れるし。

 わかってしまったから。
 心は軽くて、澄んでいて。
 そして、絶望している。

 麻痺してしまったような、透明な気持ち。

 ああ、そうか。
 毒だ。
 タランテラの毒はわたしのなかに入り、わたしを侵し、わたしの一部になったんだ。
 中毒が行き過ぎ、わたし自身が毒になったんだな。

 あー、そうか……なるほどなー。

 かわいた、澄み渡った心で、そう思った。

 
 整理をつけるために、東宝へ行った。
 そして、そこへたどり着いた。

 わたしの『タランテラ!』。

 もう、戻れないんだ。 
 とても幸福で、そして、かなしかった。

 
 
 −−−−その、数時間後に。

 白衣を着て、海馬に乗っていたりするもんだから、人生って素晴らしい。
 (2006-12-07「海馬に乗った征服者、リアルバージョン。@MIND TRAVELLER」参照・笑)


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