スペサルな逸翁デー、『清く正しく美しく』

 もうすっかり忘却の彼方だったけどそーいや幕開き冒頭は、逸翁の演説フィルム上映でした。
 昭和13年の愛読者大会だっけかの。

 愉快なのは、そこですでに「日本物は人気がない」と逸翁の口から語られていること。日本物に人気がないことはわかっている、でもタカラヅカは日本物をやらなきゃーならないのだ、みたいなことを言っていた。

 1938年の段階で、すでに日本物は人気がなかったのかよ。

 タカラヅカの長い歴史の中、ずーっと日本物は人気がなかったっつーわけか。
 「選択肢がなかった」太平洋戦争時代だけか? 日本物が支持されたのって。

 まあ、そんなこんなで、「ファンが喜ばないことはわかっているが」と前置きしての日本物ミュージカル。
 『恋に破れたるサムライ』。

 女ひとりをふたりの男で争う、一見恋愛モノ。
 しかしその実、火曜サスペンス劇場系のノリで物語は展開する。

 
 遠藤盛遠@トド様。
 強引で猪突猛進な超美形様。人生挫折無しでなんでも思うがままにしてきた若きエリート官僚は、「子どもの頃、結婚の約束をしていた」袈裟御前@キムが渡辺亘@トウコと結婚してしまったことでブチ切れる。
「恋敵の亘を殺し、約束を破った袈裟御前の母親を殺してやる!」
 だって彼が正義。思ったことは思ったままにやってきた。「私がそーゆー性格だと知っているだろう!」……迷惑な。

 吠える盛遠に、袈裟御前が言う。
「亘を殺してください、私が手引きします」
 キラリ光る新妻の目。盛遠と袈裟は幼なじみ。亘の妻となりラヴラヴに見えた袈裟だったが、出世した盛遠を前にして気が変わった模様。
 夫・亘を殺し、幼なじみのエリート盛遠と再婚。完璧な筋書き。「ふふふ……」ぶ厚い唇に半分だけ塗った朱がこわい。

 そーして、殺人計画の夜。
 嫁にベタ惚れの夫・亘は袈裟の酌に、ヨイヨイで酔っぱらう。
 袈裟はなにかっちゅーと「これが最後……」とつぶやいては「なにか言ったか?」「い、いえ、なにも」てな会話を繰り返す。
 決行は今夜。今宵が夫婦最後の夜。袈裟はもー、しつこいほど「これが最後……ふふふ」を繰り返す。もういいから、ソレはわかったから! と観客に突っ込まれるためにだろうか。
 疑わない夫を酔い潰そうとする、新妻の鋭い視線。「これが最後……ふふふ」
 逃げて亘、逃げてーっ! その女、あなたの殺人計画を練っているのよ?! 酔い潰したあとに男を呼び、あなたを殺させるつもりなのよーっ。

 高まるサスペンス。
 悪女・袈裟のたくらみは成就するのか? 利用される単細胞・盛遠は? コキュとなりはてた亘の命運は?!

 火サスのノリ。すげえ。

 で。
 袈裟はもちろん、亘の身代わりに盛遠に殺されるんだけどね。
 「これが最後……」というのは、自分が死ぬって意味だったんだけどね。盛遠のよーな強引自己中権力者に見初められたが最後、自分が死ぬ以外に周囲のモノを守る術はないと思って。

 筋書きは最初からわかるんだけど。

 演出のせい? キムの演技のせい?

 袈裟が夫殺しをたくらむ悪女にしか見えなかった。

 そして、袈裟が自殺すれば済む話なのに、わざわざ盛遠に殺させるのは、盛遠への復讐にしか見えないんですが。

 おそろしい……。
 なんておそろしい女なの、袈裟!!(白目)

 火曜サスペンス劇場・女の犯罪シリーズって感じ。

 もっと可憐な持ち味の娘さんが袈裟を演じれば、ちがっていたのかもしれないけどねえぇ。

 さて、残された男たち。

 爆裂わがまま男・盛遠は、それでも袈裟を愛していたのは本当だったらしい。
 袈裟を殺してしまったことで慟哭し、激しく後悔し、亘に断罪を求める。
 イイ面の皮、ここまでコケにされた夫は大変・亘も激しく自分を責めながら、復讐の刃を納める。盛遠を殺したからって、どうなるもんでもなし。

 トド様とトウコの競演、てすげー豪華だ。
 しみじみ。

 このふたりのこってりした芸風は、合うんだよなー。元祖雪組芝居っていうか。
 トウコは下級生時代何度もトドの役をやっているしねー。トドのトップお披露目時は単独3番手で悪役やってたしねー。
 そーいや「トウコの涙がトドを動かした」ってのもあったよなあ、昔。
 新公を見に行かないトドが、そのときばかりは見に行った。何故か。「だってトウコが泣くんだもん」……グラフかなんかに載っていた話。
 本役のトドが、トウコになにも教えてやってなかったらしい。で、トウコが「どうしてなにも言ってくれないんですか」とマジ泣きしてトドを責めたという……そしてトドが降参したという……。
 今から思うと、すごい話だニャ。

 日本物の、トドの美しさときたら。
 遠藤盛遠、キャラのイタさはともかくとして、問答無用に美しい。

 日本物の、トウコの美しさときたら。
 渡辺亘、キャラのまぬけさはともかくとして、問答無用に美しい。

 そしてどちらも、泣きの演技に突入だ。

 亘の慟哭と絶望。
 いやあ、トウコに被虐キャラをやらせるなんて、GJっすよ!!

 そらした喉の美しさ。
 儚さ。

 このワンシーンだけでトウコファンは何杯でもおかわりできるでしょうよ。

 盛遠はその場で髪を切り、出家する。
 同じ慟哭演技でも、彼は儚くはならずに武人らしく生き方を決める。
 骨太な美しさ。
 あー、やっぱトドはいいなぁ。彼のハッタリに満ちた芸風が好きだ。

 袈裟御前があまりにこわかったうえに、彼女が死んでからの男たちの泣き演技の華々しさに、印象が見事にバラバラ、
「えーとソレで、コレってどーゆー話だっけ?」
 とゆー、混乱に満ちた作品。

 まさにカオス。

 イベントにて、ノリだけで上演するに相応しい作品だったと思います。

 混乱のまま幕。第1部終了。


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