脚本がひでーことになっている『シークレット・ハンター』

 作者が「人の心」というものを理解せず、「なんとなく聞きかじったことのある、いい場面」だとか「どっかで見た設定」「どっかであったシチュエーション」だとかをてきとーにパッチワークしただけなので、それはもう仕方がない。
 壊れていてもおもしろけりゃソレでいいので、概ねいいっちゃーいいんだが、今回は「いちばんいい場面」としての主人公とその恋人の会話が壊れていたので、破壊力絶大。
 過去作品から見ても、こだまっちは基本「人の心」なんて理解できないんだから「いい話にしよう」なんて欲を出さずに、いつもの萌えパワーだけで書ききればよかったものを。ちっ。

 
 それでも、『シークレット・ハンター』はおもしろい。
 脚本も台詞も、壊れているところは「ただの音」として意味を考えず、主役ふたりの演技に集中するのだ。

 泣けるんですけど。

 ジェニファー@あすかの恋に。

 
 わたしはトウコファンでもあるが、まちがいなくあすかファンでもある。
 初日はダグ@トウコ中心で見たけれど、次からは他も見る。そして、相手役のジェニファーに行き着く。

 「ジェニファー」という、ひとり女の子に行き着く。

 「嘘」をついている女の子。
 「嘘」の上で、存在している女の子。
 「嘘」を通しながら、恋をする女の子。

 ジェニファーの、心の動きのきめ細かさ。
 「嘘」を知った上で見れば、彼女のさまざまな表情がわかる。

 彼女の苦しみ。
 よろこび。
 そして、恋。

 ジェニファーと共に、恋をする。

 追体験。
 彼女と共に歓び、はしゃぎ、傷ついて、切なくなる。

 ダグを見つめるジェニファーは、わたし自身となる。

 わたしが、恋をする。

 「嘘」をつきながら。
 「嘘」の上で、存在しながら。
 「嘘」を通しながら。

 恋をする。
 ただひたすらに、たったひとりの男性を愛しく思う。

 それはもう、すでに忘れてしまったひたむきさで。純粋さで。

 追体験だから、ジェニファーと一緒にどきどきするの。南の島のダンスや歌にわくわくして、お酒を飲んで、色とりどりの花に歓声を上げて。
 命がけで守ってくれるハンサムな男性と一緒に。
 ひとときだけの自由を満喫するの。
 夕焼けの美しさに感動し、人間の醜さに疑問をこぼし、それでも今、ダグを愛しはじめている自分を知る。

 愛しているから、嘘が苦しい。
 巻き込んでいる事実がつらい。

 それでも、愛する国のため、敬愛する王女のため、任務を貫く。
 終わってしまう時間。
 このしあわせは、近い将来必ず消える。
 王女だと嘘を突き通しても別れは来るし、真実を知らせれば騙していたことがバレるわけだからきっと許してもらえない。

 待っているのは、恋の破局。終焉。
 それでも今、たしかに恋をしている。

 
 ジェニファーの恋を受け止める男、ダグが、まちがいなく「いい男」で。

 これで役者の力が拮抗していないと、「あんないい女が何故、あんなチンケな男に?」となるんだけど(なにしろ脚本壊れてるんで)。

 演じているのがトウコだから。
 めちゃくちゃな論理で泥棒しているわけわかんない男でも、台詞の中身なんか関係なく「いい男」になるんだわ。

 恋をしたのは、ジェニファーの方が先だと思う。
 ダグはただ、人の良さから「子犬を拾った」だけ。

 ダグの方はたぶん、キスをしようとするその瞬間まで、特別なキモチはなかったのだと思う。傾きつつはあったとしても。

 一緒に逃げている間に、子犬から「守らなければならない少女」に昇格していたとしても、それはべつに「恋愛対象」ではない。
 一緒にいればソレだけで恋に落ちる、ほどダグはウブじゃないし、飢えてもいない。

 想い出の教会跡にて、会話の内容はわけわかんない電波っぷりだけど、ダグとジェニファーの心は確実に近づき、盛り上がっていた。
「約束して」
 と言うジェニファーを見つめて、ダグの目がやさしさを帯びる。

 「守らなければならない少女」は、ひとりの「愛すべき女性」としてそこにあった。

 だからこそ心の触れあったデュエットのあと、キスになる。
 高まりを抑えきれないように。

 「嘘」をついているジェニファーは、そのことゆえにダグの愛を拒むのだけど。

 ふたりの「心の動き」がリアルで。
 ドキドキする。

 一緒に、恋を追体験する。

 使命に忠実なジェニファーが、任務を忘れ、「ただの女の子」になって懇願する場面がある。

 男爵@しいちゃんに狙われ、アナ・マリア@みなみ姫に追いつめられ、ダグが「囮になる」と言い出したとき。

 アナ・マリアの手を振りほどき、ダグにすがりつくジェニファー。

「あなたと一緒にいたいの」「お願い」……そう懇願するジェニファーの、表情は客席から見えない。

 だけど、ダグの表情が見える。

 彼の大きな瞳に、いろんな想いが映る。

 どれほど、彼が彼女を愛しいと思っているか。

 どれほど、彼女が彼を愛しているか。また、彼がそれをわかっているか。

 「お願い」……泣き声でそう言う彼女の、背中の痛々しさ。
 使命ゆえ、任務ゆえ、愛を語ることもできず、キスを拒むことしかできなかった彼女の、精一杯の気持ち。

 それを、確実に男は受け止めている。
 だからこそ彼は、彼女のために行くんだ。命を懸けて。
 彼女を守ろうとするんだ。

 騙されている・いないはもう、関係ない。
 今ここで真実を知ったとしても、男は同じ行動を取っただろう。

 そののち、すべての嘘が明かされたとき、ダグは「なにも言わなくても、君の気持ちはわかっている」とあっさり許してしまうんだが。

 ふつーなら、そんな簡単なコトじゃない。
 悪気がなかった、仕方なかった、そーゆー次元じゃないから。
 だけど、この簡単ぷーな許し方が、変じゃない。脚本の浅さが、ご都合主義にならない。

 だって、「わかる」から。

 ダグはジェニファーを愛していた。
 王女だとか泥棒だとか関係なく。

 「あなたと一緒にいたいの」……そう言って泣くひとりの少女を、愛した。
 愛し合った。
 あのときの彼女は、演技のプリンセスではなく、任務中の影武者でもなく、「ブリジット」という、ひとりの少女だった。

 
 ダグとジェニファー……ブリジットの、心のリアルさ。
 その繊細な動き。

 それらが、脚本のアレさをまるっと飛び越えていく。

 恋が出来る。
 できて、しまう。

 ジェニファーになって。あるいは、ダグになって。

 疑似体験が、気持ちいい。
 カタルシスが快感。

 安蘭けいと、遠野あすか。
 「恋愛」をきちんと表現できる演技巧者ふたりによる、「恋愛物語」を堪能できる新生星組。

 なんてたのしみなんだろう。

 
 ……この壊れきった話で、ここまで持っていくんだぜぇ? まとな話だったら、どこまで魅せてくれるだろう。
 想像するだけで、わくわくするよ。

 トウあすで、濃ぃ〜〜いエロエロなラヴストーリー希望。
 魂を焦がし尽くすような恋を、彼らと共に追体験したい。


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