わたしが演出家なら、轟悠になにをさせたいだろう。

 思わず、遠い目をして考え込んでしまった。
 少なくとも、『LAVENDER MONOLOGUE』のよーなことだけは、絶対にありえないっ。

 5年ぶりのトド様コンサート。
 もちろんわたしは、わくわく出かけた。ディナーショーはわたしのよーなびんぼー人には手が出ないけれど、コンサートなら観に行ける。ハコもバウホールと小さいし、濃密にトド様体験できるわ〜〜、と。

 それが。
 それなのに。

 なんで、こんなことに。

 
 はじめに明記するが、この作品はすべてにおいて、わたしの趣味ではなかった。
 わたしが心地よいと思うものではなかった。
 趣味嗜好の問題であり、善悪でも品質の問題でもない。わたしの嗜好に合わないからといって、駄作であるかどうかはわからない。

 ただ、わたしにとっては、憤慨するほどの駄作だった。
 
 5年ぶりのコンサートなんだよ? バウホールだよ? 期待するじゃん。いいものを見せてくれる、見たいものを見せてくれるんじゃないかって。
 芝居じゃなくコンサートなんだから、ある程度はたのしいものになる、歌とダンスだけなら失敗しようがない、って思うじゃないか。

 ……涙で前が見えません。

 なんだって、こんなことになってるんだ、酒井澄夫。
 ほんとうに、轟悠のことを考えたのか? ファンのことを考えたのか?
 手ぇ抜いた? どーでもいいと思って、なんかの使い回しでもした? 少なくとも、轟のために書き下ろしてないよな、この作品。アテ書きはしてないよな?

 轟悠に、今さら「少年」役をやらせるなんて、ありえない。

 沖田@『星影の人』の水夏希に続き、不自然に若者ぶるベテラン男役。『オクラホマ!』の悪夢再び。

 不自然に作った高い声、かわいこぶった話し方。
「18歳のボクは夢を見た……」
 一人称「ボク」かよ!! 漢字でもなくひらがなでもなくカタカナな発音、「ボク」。ボクちゃんとかそーゆー感じのかわいこぶり。

 かわいらしく、さわやかでとてもつなくダサい主題歌。そのうえ、ただ揺れるだけの、ダサい振付。

 わざとらしいかわいい声、かわいい歌い方。少年っぽい仕草。

 これが「轟悠」なの? みんなが求める「轟悠・男役23年目」の姿なの?

 何度も語っているが、「少年」ならば経験の少ないオンナノコにも、ある程度できる。
 しかし、「かっこいい大人の男」「色気のある中年男」はキャリアや技術がないとできない。
 専科に残ってまで男役を極めたトップ・オブ・トップスには、洟垂れ小僧が真似できないジャンルを見せて欲しいと思うのは、まちがっているのか?

 わたしが見たかったのは、「大人の男」だ。
 アイドルめいた若者や、ましてやかわいらしく揺れている少年ではない。

 ステージは2部構成で、1部はストーリー仕立てで2部がバラエティ・ショー。

 特に1部がひどかったのさ……。
 トドは少年からはじまり、いちおー彼の人生めいた展開をたどるのだが、とにかくすべてにおいて、「若い」。
 女の子と舞踏会で踊っていても、スーツでジャズを歌っていても、兵士となって戦場に行っても。
 年齢は10代から20代? なにもかも「若者」として演技をしている。
 青い、夢見がちな若者として演じられている。

 轟悠だから。
 スーツ姿の帽子を使ったダンスでも、戦場でのダンスも歌も、「大人の男」設定ならばそのように踊れる、歌える。
 いくらでもクサく、クドく表現できる人だ。

 なのにそうはせず、若者の演技を貫く。

 青さとかわいらしさとつまらない振付、そしてとってつけたよーな反戦が、目眩がするほどダサい……。
 そーだな、少年が戦場に行くんだから、反戦歌になるよなー、ははは。戦争はヨクナイコトデス、みんなヤメマショウ。

 ドラマティックに戦死したあとも、「ナーンチャッテ」って感じでかわいらしく「詩人のボクちゃん」になって終わるし。ナンチャッテなのかよ?!
 ダサい主題歌をかわいらしく歌って終わるし。振付、すべて若央りさだし。

 選曲も微妙。
 歌い上げ系、轟かせ系はなく、雰囲気重視。ニュアンスを愉しむ系。おとなしく「8分の力で歌えます」って感じ。魂からの熱唱!!なんてものはナイ。

 幕間は、なんかわたし放心してました。こんなにひでーもの見せられるとは思ってなくて。
 気を取り直してプログラム開いたら、読むところも眺めるところもなかったし。

 なんでぇ? 5年前のプログラムは、トド様のミニミニ写真集みたいになってたじゃん!! わたしはソレを期待して買ったのよ?! ふつーならプログラムなんて買わない人なのに、トドファンだからこそ買ったのに!

 2部はまだ、マシだったんだけどね……ただのバラエティ・ショーだったから。
 それでも、主題歌になると盛り下がるので後味が悪いったら。

 
 ただの嗜好の問題だから、他のトドファンのみなさんが、この構成を愉しんでいるなら、ソレはソレでいいのだと思う。
 少年トドを「イシちゃん、かわいー♪」と愛でているなら、ソレでいい。

 でも。

 アンコール曲が「チェ・タンゴ・チェ」だったのだわ。

 この曲がはじまるなり、客席の空気が変わった。
 それまで、ただおとなしく席についていた人たちの、温度が上がった。わたしよりセンター寄り後方に坐っていたnanaタン曰く、「観客が一斉に前のめりになった」。

 客が求めていた「轟悠」は、コレだったんぢゃん!!

 熱い熱い、絶唱。
 クドく濃く、糸を引きそうな「大人の男」。
 客席を練り歩き、セクシー爆発に目線をキメ、一本釣りしていく様にあちこちで声にならない悲鳴が上がる。
 嘆息に音が混ざる。
 至近距離で目線合わされた通路際の女性は撃沈。トドが通りすぎた後、顔を覆ってその場に崩れ落ちていた。
 あの「轟悠」に一本釣りされて、目の前で「チェ・タンゴ・チェ」歌われたらそりゃ崩れ落ちるだろうよ。

 轟悠、全開。
 こんなトドロキ、見たことナイ。

 大人の余裕で客たちを殺して回る。
 たのしそうに笑いを浮かべ、低い太いセクシーヴォイスを自在にあやつりながら、クドくクドく、濃ぃ〜くね〜っとりといやらしさを解放する。

 トドはいつもどこかストイックな人で。
 日本男児というか、「日本のお父さん」的な人で。ベタベタしたところを外に出さない硬質さがあるというか、や、今の時代ソレだけぢゃやっていけないだろう?と心配になるよーな、まあその、高嶺の花でありその分時代遅れ感のある人だった。
 こーゆー「あざとい」ことはしない人だった。

 なんだよー、こんなこともできんじゃん!!
 そして、ファンはソレを求めているんじゃん!!

 かわいい「少年」ではなく、あざといまでのセクシーな「大人の男」。

 抑えて歌うきれいな歌よりも、低音が響き渡る絶唱系。

 客がこんなにこんなによろこんで、空気変わって、温度上がっているのが、1時間半の演目のうちの、たった5分だけって、なにソレ。

 残り1時間25分はしーんとしている、って、なにソレ。

 なんだって、こんなことになってるんだ、酒井澄夫。
 ほんとうに、轟悠のことを考えたのか? ファンのことを考えたのか?
 トドが出ていればいい、なにかしていればいい、程度にしか考えてなかったんぢゃねーの?
 トドじゃなくても、他の誰かでもこの公演、ぜんぜんOKだよな。かわいい「少年」の一生なんだから、タニでもあさこでもできるよな?
 トドのためのアテ書きじゃないよな?

 トドのためのシーンは、アンコール1曲だけだよな?

 「チェ・タンゴ・チェ」で狂乱のまま終わっておきゃーいいのに、最後はまたあのダサ〜〜い主題歌で、みんな揃ってゆらゆら揺れるだけのダンスで幕。
 いやあ、盛り下がりました(笑)。


コメント

日記内を検索