新人公演『エリザベート』の感想続き。

 ヒロイン、エリザベート@さゆちゃん。
 すっげー不思議だったのは、どうしていつも、怒っているのかってこと。

 シシィはいつも、怒っていた。
 眉をつり上げ、厳しい、こわい顔をして。
 笑っていないところは全部、怒っている。
 悲しんだり孤独だったり、なにかしら感じているのだと思うけれど、顔が全部怒っているので、よくわからない。
 「私だけに」も、怒ったまま歌いきった。
 息子が死んでも怒っていた。
 年老いた夫と話すときも怒っていた。
 暗殺者と出会ったときも、怒っていた。

 怒りだけに彩られた人生だった。

 ……苦手だなあ、このひと。わたしは臆病なので、いつも怒っている人って、苦手。周囲に対してマイナスの火花を振りまく人って苦手。
 と、エリザベートを見て思った。少女マンガの悪役美人お嬢様キャラみたい。

 エリザベートの言動は、表情ひとつでこんなにも攻撃的に見えるんだなー、と感心。
 今まで見たことのない、新しいエリザベートだった。世界のすべてに対し、怒り続けるエリザベート。憤怒の仁王像のよーな。

 怒る、攻撃する、というエリザベートも、アリだと思う。
 彼女はひたすら強かった。
 怒る、という能動的言動を取る彼女は、自身に対して絶対の愛と自信があり、それを損なうモノに対しての拒絶と嫌悪、反感がとても強い女性だった。
 扉を開けてくれと言う夫を張り倒し、共に黄泉の世界へとささやくテンション高い男を張り倒し、べそべそ泣く息子を張り倒し、ひとりずんずん力強く怒り続けていた。

 そんなに怒ってばっかじゃ、誰も君のこと好きになってくれないよ?
 今は若くてキレイだからいいかもしれないけど、トシとってソレじゃあ、誰もそばにいなくなるよ?
 ……と、心配してしまう。

 あまりに強くて怒ってばっかの人だったんで、ラストで何故いきなりトートを選んだのかはわかんないけど、「宮廷に収まらない」女性としては、こーゆーキャラ立てもアリです、ほんと。
 この性格ならそりゃ、誰ともうまくいかないわ……。
 そして、その強さゆえに他人からも理解されず、孤独にもなるわ……。
 そのことを本人が自覚し、「それでも、これがわたしよ!」と胸を張っているなら、それでヨシ。どんなに傷ついても、棘を持ち続ける覚悟があるなら、あっぱれな人生だ。

 せっかくおもしろいキャラなので、さゆちゃんにはこのエリザベート像を極めて欲しい。
 強いゆえの痛みとか、攻撃的であるがゆえの孤高さとかを表現してくれたら、さらに魅力的になる。
 ただの悪役キャラではなく、姫川亜弓@『ガラスの仮面』まで到達したら、都合のいいだけのヒロインキャラなんか足元にも及ばない共感と人気を得られるんだから。

 いっぱいいっぱいで表情が固定されたままだった、真剣さやせっぱ詰まり感が怒りの炎に見えた、とかゆー話にオトすのではなく。
 舞台裏がどうあれ、彼女が舞台上で表現したモノを評価したい。

 ……さゆちゃんがいちばん魅力的に見える役は、街にいるふつーの女の子、とかなんだろうなあ。お姫様とか女優とかバレリーナとか、華やかなジャンルの人ではなくて。天使とか妖精とか女神とか、人間外の体重のないよーな役も、チガウんだろうなあ。
 素のかわいさで勝負できる役なら、もっと活き活きと演じられるんだろーな。

 
 フランツ@しゅうくんは、辛抱役を切々と歌い上げる。
 わたしにとって彼は、『Young Bloods!! 』の「おとーさん」。や、そこではじめて認識したから。
 高いところに立って歌っていた記憶が、彼を認識した最初。
 そのすり込みのおかげで、「ふつーに歌える人」と思っていた。どっちかっつーとダンサーの人だったんですか? 『堕天使の涙』で水くんと踊っていたりしたよね?
 雪組の中では、まず身長で目に入ってくる人。

 ふつーに歌えると思っていたけれど、思っていた以上に歌える人だった。
 やさしげで軍服が似合って、なんかめおちゃんフランツを彷彿とするんですが……。

 トート@コマはテンション高くぶっ飛ばしているし、エリザベート@さゆちゃんは怒り続けているし、で、フランツは大変だぁな。
 相手が悪かった、という言葉が脳裏をちかちか通り過ぎていく。
 シシィが別人つーか、もっとちがった役作りだったら、もう少し向き合ってもらえたのかもしれないね、フランツ。
 怒りのオーラで人を寄せ付けないシシィに必死に取りすがっていたけれど、ビンタ一発で吹っ飛んだ。……婿養子テイストなのは何故。

 辛抱役で地味で目立たないけれど、やっぱフランツって好きな役だなあ、と再確認。
 強い嫁にたじたじになっているエリート色男って感じで、萌え(笑)。

 
 ルドルフ@キングは、なんか演技以前の手順のところで大変なことになってなかった?
 トート@コマがなかなか出てこなかったり、ラストシーンでなかなかセリ下がらなかったり。や、キングが悪いわけじゃないけど、「うわ、気の毒」と思った……。

 ルドルフって、しどころのない役なんだなあ、と思った。
 うーん、今までそんなこと考えたことなかったけど。つか、反対にオイシイ役だと思っていたけど。
 考えて見りゃ、これだけの出番で「なにか」を残すのは、ほんと大変だ。

 キングのルドルフは弱く、道に迷った子どものようだった。
 や、キミ、ママにまったく似てないから! ママは怒りの10時10分、息子は哀しみの4時40分。思い通りに行かないとき、ママは怒り、息子は嘆く。
 勝手に「ボクはママの鏡だから」とか言ってママに取りすがっていたけれど、「冗談じゃないわよ、このヘタレがっ!」とビンタ一発で吹っ飛んだ。

 そして最後の見せ場、拳銃自殺とトートのキス……。
 されど、セリが、動かない。

 ふつーなら「トートのキス←セリ下がり」なのに、キスが終わってなお、セリが動かない……。
 トートの腕の中のルドルフ、という美しいシーンのはずなのに、舞台に響くのはスタッフのおっちゃんの「降りへんぞー」という声。ああ無情。

 チューし終わったあとしばらく、小柄なトートはでかいルドルフ抱いたまま固まっていた。
 ライトも真面目に点灯したまま。……暗転させてやればいいのに。

 そのあとでよーやくセリが動き、不思議なタイミングでトートとルドルフは沈んでいった……。
 固まっていたトートが、最後の最後で後ろを振り返ってしまったのが惜しい。その動作、トートではなくコマとしてだよね?
 キングはずーっと死体だしなー……大変だなー……。

 
 つーことで、まだ続く。


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