「『運動会』をタイトルに作文を書きましょう」
「やだやだやだ。書きたくない」
「書かないと2学期の成績表がつけられなくなりますよ」
「やだやだやだ。作文きらい」
「嫌いでも書くのです。みんなだって書いているでしょう?」
「やだやだやだ」

 さんざん逃げ回って末に、提出された作文は。

「『運動会』 四年三組 とどろきゆう
 朝起きました。
 お母さんが「おはよう」と言いました。
 ぼくも「おはようございます」と言いました。
 家族で朝ごはんを食べました。
 手を合わせて「いただきます」と言いました。
(中略)
 学校へ向かって歩いていると、みのるくんに会いました。
 みのるくんは、「おはよう」と言いました。
 ぼくも「おはよう」と言いました。
 それから、まことくんに会いました。
 まことくんは「おはよう」と言いました。
 ぼくも「おはよう」と言いました。
 まことくんは「今日の運動会、たのしみだなあ」と言いました。
 ぼくも「たのしみだね」と言いました。
(中略)
 こうして、運動会がはじまりました。
 たのしかったです。」

 てな具合の「その日の出来事箇条書き」で、しかもどーでもいいことだけをさも「書くことないんだよ」と書いてマス目を埋めて、結局運動会の感想は「たのしかったです。」だけ。

 ……はい、トド様の「最初で最後のエッセイ」(本人談)は、こーゆー感じの本でした。

 前日欄でちょろっとトドロキのエッセイの話をしたので、どう最悪だったのかを書いておこうかと(笑)。

 当時のトップスターはすべからく、自筆エッセイを出さなければならなかった。
 これは「トップスターとしての義務」だった。……たぶん。
 それ以前、3番手のころトドは、同期のマミ・ノル・タモと一緒に『すみれ四重奏』というエッセイを書く予定だったが、「書きたくない」と言ってひとりだけ逃げ切り、『すみれ三重奏』というタイトルで出版された。
 これはどっかでトド本人が語っていたぞ。「同期(マミ・ノル・タモ)から恨まれた(笑)」と。

 3番手のころは「嫌だ」で済んだけれど、トップになればそうはいかない。
 「トップの義務」で仕方なくトドは筆を執った。

 轟悠の唯一のエッセイ。タイトルは、とってもやる気なく『My Stage』

 わたしはトドファンだったので、発売日にわくわく買いに行きましたよ。
 そして、アゴを落とす。

 まず本文1ページ目にデカい活字でひとこと。

 わたしは

 作家では
 ありません。

 1ページ、コレだけ。
 究極の、開き直り。

「オレは作家ぢゃねーんだよ、こんなもん書けるわけねーだろ、仕事だから仕方なく、嫌々やってんだよ。うまくなんか書けるわけねーんだから、内容がどれだけアレでも文句言うなよ?」

 ジェンヌ自筆のエッセイに、「巧さ」なんか誰も期待してないって。
 ファンが買うものであり、スター本人の人となりや過去のエピソード、舞台裏がのぞければソレでいいんだってば。
 つたない文章でも、どんな子どもだったとかどんなふうにタカラヅカに出会って、どんなふうにがんばって受験して、音楽学校時代はこんなことがあって、入団してからはこんなことがあって……と、本人の「想い」が伝わればソレだけでいいんだって。
 他の人のエッセイはそうだったってば。

 なのにトドエッセイは、それすらなかった。

 初舞台からの仕事を、箇条書き
 それも、資料としてもらった写真を見ながら、思い出したことを書いてあるだけ。
 ひどいときは、「新人公演*月*日」と、ほんとに日付だけ書いてある。
 「この写真の私は、**さんとなにを話しているんでしょうね」って、おぼえてもいないのに、ただ写真見て書いてるだけかよ?!……とかな。
 「このお衣装は好きでしたね」「**役は**さん、**役は**さんでした」「この公演は大変だったことをおぼえています」って、終始この調子。

 エッセイぢゃ、ない……。
 こんなの、エッセイぢゃないよーっ!

 備忘録以下。
 目的は、「原稿用紙を埋めること」。マス目を無駄に稼いで、「とにかく、終わらせたい」という本音プンプン。
 全編通して、「書きたくて書いてんぢゃねーよ! 嫌なんだよ!」という、トドの叫びが伝わってくる……。

 あまりのことに、口は開いたまんまふさがらないわ、目は点だわ……。
 『歌劇』の「えと文」を、格言を書き写すだけで3ヶ月埋めたという伝説の持ち主は、やることがチガウわ……。

 本当に、モノを書くのが嫌いなんだな。

 わたしはこの通りモノを書くのがダイスキなので、さらに唖然としましたわ。
 文章書くのなんか、どーってことないじゃん。踊ったり演技したりより、ぜんぜん簡単で、誰にだってできることだろうに。

 最低最悪、こんなもんを世に出すくらいなら、本人のためにもファンのためにも、出版しなければよかったのに。と、心から思いました。

 でも、だんだん慣れてきたのか、記憶に新しくなるからか、後半になると「舞台の思い出」らしい記述も増えていくので、ほっとする。

 あっ、そーいや新人公演の『ベルサイユのばら』の記述のころはまだただの「箇条書き」で、なんの思い出も書かれていなかったのだけど。
 あのころいろんなインタビューでたかこが、「ファーストキスの相手はトドロキさん♪」と宣伝して回っていたのに、トドはオスカル@たかこにキスをしたことなんか、完全スルーしていたことに、ウケたっけ。
 たかちゃんがあんなにうれしそーに、トドとの新公『ベルばら』の話をしているのに、トドにとってソレは黒歴史、記憶から抹殺したいような出来事なんだ……(笑)。
 後年トドも大人になったのか、いろんなところで「ファーストキスの相手はたかこ」と言うようになっていたけれど。
 
 『ベルばら』みたいな大きな作品での初新公主演すら、出演者の名前を数名挙げただけの箇条書きレベルで済ませていた、実にやる気のない文章。
 
 ほんとにひどい本だと思いつつ。
 それでも、ファンにとっては愛すべき1冊であることも、たしかだ。

 ここまで書くのを嫌がりながら、それでも気力を振り絞って書いた1冊。
 この投げやりな文章が、やけっぱちな態度が、彼の性格を物語っていて、それこそが愛しい。

 くそお、ファンってやつは、どーしよーもねぇな。

 この最低最悪なエッセイの最後のページには、

 やっぱり
 わたしは
 作家では
 ありませんでした。

       あしからず。

 と、まるまる1ページ使ってデカい活字で書き捨ててある。

「だからオレは作家ぢゃねーんだよ、嫌々やってんだよ、わかって読んだんだから文句言うなよ?」

 って、書き逃げかよっ?!(笑)

 帯のあおり文「舞台人・轟悠が溢れる思いの丈を綴った、ファーストエッセイ集。」が、ひたすら哀しい……(笑)。

 

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