美しい物語になる。@舞姫
2007年6月16日 タカラヅカ「豊太郎さいてー。女の敵!」
とゆーのが、森鴎外作『舞姫』を読んだ女子高生の感想のほとんどだった。
わたしもそうだったし、周囲の反応もそうだった。
マザコンで優柔不断で大勢に流されて、おなかの赤ん坊ごと女を捨てる男。いちばんつらい役目を親友に押しつけて、自分はなにもしなかったくせに、その親友のことを恨んで終わる男。
ふつーにやっても、これらの基本設定が変わらないのなら、主人公・豊太郎は女性の共感を得られるヒーローにはならないだろう。
ソレをどう料理するのか。
演出家の腕の見せどころ。
花組バウホール公演『舞姫』。
景子タンは見事に、上記のマイナス要因をひっくり返し、豊太郎@みわっちを、悲劇のヒーローとして描ききった。
すげえ。
「主人公をかっこよく描く」という、それだけのことを終始一貫完遂させた。
アタマのいい人の作品って、見ていてキモチいいなあ。
や、『舞姫』初日行ってきましたよ、もちろん!
武士の誇り、武家の嫡男であるという、「日本人の志」を最初からがんがん描く。
『大坂侍』もそうだけど、武士というのは、愛よりも生命よりも、別のモノを尊ぶものなんだ。愚かかもしれない。不器用すぎるのかもしれない。だけど彼らは、「美しい」ものを魂に抱いて生きる。
豊太郎の「仕事」がなんであるかを描く。
日本が近代国家として「世界」に認められるかどうかの瀬戸際。日本が他のアジア諸国のように、欧米列強の植民地となるか、独立国として生き残るか。
そんなギリギリの時代に、「国」の未来を背負った「戦士」であるということを描く。
太田豊太郎は、戦場にいた。
彼は愛する祖国のため、愛する人々の未来のために戦う、ストイックなソルジャーなんだ。
原芳次郎@みつるという志半ばで倒れる「戦友」を配置することによって、豊太郎の戦いはさらに重さを増す。
「日本の未来を頼む」と、戦友が腕の中で息を引き取った。
彼の分まで、豊太郎は戦わなければならない。
色恋にかまけて、「使命」を投げ出せるはずがない。
と、ここまで彼の「外側」の理由を完璧に創り上げて。
そして。
これがいちばん感心したことなんだが。
エリス@すみ花を、妄想女設定にした。
彼女の母親が、なにかっちゃー豊太郎との交際を反対する理由が、コレ。
変だな、原作ではたしか、エリス母は「金ヅルを逃がすんじゃないよ!」的モーレツババアだったよーなイメージがあったんだが。父親の葬式代のために娘を売ろうとしたよーな母親が、なんで「どうせ幸せになんかなれないから」と金を運んで来そうな男との交際に反対するんだ?
エリスはもともと、精神を病んでいる娘だった。
豊太郎と出会ったときは、まともだったけれど。
今は正常なまま生活しているけれど、いつどこで再発するかわからない。
だからエリス母@光さんは反対したんだ。恋にのめりこむことで、エリスの病気がひどくなるかもしれないから。
エリスの妊娠は、彼女の妄想だった。
だから豊太郎は子どもを捨てる男にはならない。
豊太郎は日本のために戦うソルジャー。国のために愛を捨てなければならない。彼は日本の、武士なのだから。義のために生き、死ぬことをヨシとする哀しい戦士なのだから。
愛がすべてのエリスには、豊太郎の価値観は理解できない。
ふたりが破局を迎えるのは、仕方のないことなのだ……。
と。
見事に、豊太郎の行動が、正当化された。
加えて、エリスを狂気に追いやった親友・相沢@まっつと、
「私を恨んでいるか」
「恨むのは自分自身だ」
とゆー会話をわざわざさせることで、「親友を逆恨み」という原作のマイナス面もクリア。
さらに駄目押し、ラストシーン。
昔の豊太郎のように、無限の未来と可能性に瞳をキラキラさせた若者@ネコちゃんが、豊太郎と同じようにドイツに留学すると言って現れる。
彼は、あの日の豊太郎。
ご丁寧にも、昔の豊太郎と同じ衣装で、演じているのは豊太郎の学生時代を演じていたネコちゃんだ。彼はまちがいなく「もうひとりの豊太郎」なんだ。
その、「失ってしまった青春」を懐古するように、「大人」になってしまったひとりの男が、胸の痛みを抱きしめながら終わる。
弱い男が女を捨てた物語、ではなく、ひとりの若者が、青いモラトリアムを完全に脱し、「大人」になる物語。
恋愛ドラマであるが、テーマ自体は恋愛ではない。それを内包した、もっと大きなモノだ。
失われた青春、失った楽園を見つめる、切なさ。
イメージの中のエリス=青春の、神々しいまでの美しさと、哀しさ。
ままごとのように恋をする若いふたりの「しあわせの象徴」だった「舞扇」が、ラストシーンでは「哀しみの象徴」となる、小物使いの巧さ。
すげえよ、見事だ。
みわさんの凛とした美しさ、誠実さが際立つ。
歌も十分許容範囲だよね? うまくなったよね?
すみ花ちゃんの可憐さ。いじらしさ。
まっつの堅実さと、みつるの輝きとゆまちゃんの美貌と胸の谷間とふたりのかわいらしいラヴラヴっぷり、嫌味日本人トリオのいやったらしい二枚目ぶり(笑)と、マメの達者さ、ミトさん、星原先輩の存在感。
舞台の美しさと、音楽の美しさ。
派手な作品ではないけれど、しみじみといい作品だわ。
みわさんファンは絶対見逃しちゃだめだよー! 後悔するよー!
……つーことで、まっつ萌えは別欄にて。
とゆーのが、森鴎外作『舞姫』を読んだ女子高生の感想のほとんどだった。
わたしもそうだったし、周囲の反応もそうだった。
マザコンで優柔不断で大勢に流されて、おなかの赤ん坊ごと女を捨てる男。いちばんつらい役目を親友に押しつけて、自分はなにもしなかったくせに、その親友のことを恨んで終わる男。
ふつーにやっても、これらの基本設定が変わらないのなら、主人公・豊太郎は女性の共感を得られるヒーローにはならないだろう。
ソレをどう料理するのか。
演出家の腕の見せどころ。
花組バウホール公演『舞姫』。
景子タンは見事に、上記のマイナス要因をひっくり返し、豊太郎@みわっちを、悲劇のヒーローとして描ききった。
すげえ。
「主人公をかっこよく描く」という、それだけのことを終始一貫完遂させた。
アタマのいい人の作品って、見ていてキモチいいなあ。
や、『舞姫』初日行ってきましたよ、もちろん!
武士の誇り、武家の嫡男であるという、「日本人の志」を最初からがんがん描く。
『大坂侍』もそうだけど、武士というのは、愛よりも生命よりも、別のモノを尊ぶものなんだ。愚かかもしれない。不器用すぎるのかもしれない。だけど彼らは、「美しい」ものを魂に抱いて生きる。
豊太郎の「仕事」がなんであるかを描く。
日本が近代国家として「世界」に認められるかどうかの瀬戸際。日本が他のアジア諸国のように、欧米列強の植民地となるか、独立国として生き残るか。
そんなギリギリの時代に、「国」の未来を背負った「戦士」であるということを描く。
太田豊太郎は、戦場にいた。
彼は愛する祖国のため、愛する人々の未来のために戦う、ストイックなソルジャーなんだ。
原芳次郎@みつるという志半ばで倒れる「戦友」を配置することによって、豊太郎の戦いはさらに重さを増す。
「日本の未来を頼む」と、戦友が腕の中で息を引き取った。
彼の分まで、豊太郎は戦わなければならない。
色恋にかまけて、「使命」を投げ出せるはずがない。
と、ここまで彼の「外側」の理由を完璧に創り上げて。
そして。
これがいちばん感心したことなんだが。
エリス@すみ花を、妄想女設定にした。
彼女の母親が、なにかっちゃー豊太郎との交際を反対する理由が、コレ。
変だな、原作ではたしか、エリス母は「金ヅルを逃がすんじゃないよ!」的モーレツババアだったよーなイメージがあったんだが。父親の葬式代のために娘を売ろうとしたよーな母親が、なんで「どうせ幸せになんかなれないから」と金を運んで来そうな男との交際に反対するんだ?
エリスはもともと、精神を病んでいる娘だった。
豊太郎と出会ったときは、まともだったけれど。
今は正常なまま生活しているけれど、いつどこで再発するかわからない。
だからエリス母@光さんは反対したんだ。恋にのめりこむことで、エリスの病気がひどくなるかもしれないから。
エリスの妊娠は、彼女の妄想だった。
だから豊太郎は子どもを捨てる男にはならない。
豊太郎は日本のために戦うソルジャー。国のために愛を捨てなければならない。彼は日本の、武士なのだから。義のために生き、死ぬことをヨシとする哀しい戦士なのだから。
愛がすべてのエリスには、豊太郎の価値観は理解できない。
ふたりが破局を迎えるのは、仕方のないことなのだ……。
と。
見事に、豊太郎の行動が、正当化された。
加えて、エリスを狂気に追いやった親友・相沢@まっつと、
「私を恨んでいるか」
「恨むのは自分自身だ」
とゆー会話をわざわざさせることで、「親友を逆恨み」という原作のマイナス面もクリア。
さらに駄目押し、ラストシーン。
昔の豊太郎のように、無限の未来と可能性に瞳をキラキラさせた若者@ネコちゃんが、豊太郎と同じようにドイツに留学すると言って現れる。
彼は、あの日の豊太郎。
ご丁寧にも、昔の豊太郎と同じ衣装で、演じているのは豊太郎の学生時代を演じていたネコちゃんだ。彼はまちがいなく「もうひとりの豊太郎」なんだ。
その、「失ってしまった青春」を懐古するように、「大人」になってしまったひとりの男が、胸の痛みを抱きしめながら終わる。
弱い男が女を捨てた物語、ではなく、ひとりの若者が、青いモラトリアムを完全に脱し、「大人」になる物語。
恋愛ドラマであるが、テーマ自体は恋愛ではない。それを内包した、もっと大きなモノだ。
失われた青春、失った楽園を見つめる、切なさ。
イメージの中のエリス=青春の、神々しいまでの美しさと、哀しさ。
ままごとのように恋をする若いふたりの「しあわせの象徴」だった「舞扇」が、ラストシーンでは「哀しみの象徴」となる、小物使いの巧さ。
すげえよ、見事だ。
みわさんの凛とした美しさ、誠実さが際立つ。
歌も十分許容範囲だよね? うまくなったよね?
すみ花ちゃんの可憐さ。いじらしさ。
まっつの堅実さと、みつるの輝きとゆまちゃんの美貌と胸の谷間とふたりのかわいらしいラヴラヴっぷり、嫌味日本人トリオのいやったらしい二枚目ぶり(笑)と、マメの達者さ、ミトさん、星原先輩の存在感。
舞台の美しさと、音楽の美しさ。
派手な作品ではないけれど、しみじみといい作品だわ。
みわさんファンは絶対見逃しちゃだめだよー! 後悔するよー!
……つーことで、まっつ萌えは別欄にて。
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