どうやったら主役のフェルナンドを愚かで卑劣でなくせるか。

 『バレンシアの熱い花』でフェルナンドの取る行動を、すべて逆にすればいい。

・レオン将軍のいいなり→自分の意志で行動
・私怨しか言わない→個人的恨みには口を閉ざす
・私怨なのに義憤のふりをする→義憤であることのみ
・人殺しはゲーム、義賊ごっこたのしい→生命の重みを受け止め、悪であることを理解しながらもあえて、泣く泣く実行

 結局のところフェルナンドは、ルカノール派とやらを奇襲で殺して回るだけ、スタンドプレイ的個人行動をしているだけで、流れとして全体を見るとなにもしていないのよね。
 自治領ひとつ奪い返すための軍隊を組織し、指揮するのはレオン将軍。
 フェルナンド、いなくてもよかったんぢゃ……?
 という疑問ばかりがアタマを回る。だからレオン将軍黒幕説に行き着いちゃうんだけど。

 はい、以上が前日欄のおさらいでしたので、続き行きます。

 フェルナンドには個人的なことしかしない、うえに。

 その個人的な宿敵ルカノールを殺すのも、3対1、2対1だし。丸腰のルカノールに剣を与えたって、3人で逃げられないように囲んだ上、だ。
 ふつー、武装した3人に囲まれ、寝込みを襲われたガウン姿の男がいきなり剣を与えられたからって、ふつーに戦えるわけないわな。実力を出せないまま殺されるでしょう。
 わざと相手に凶器を持たせた上で一方的に殺害、「武装した凶悪犯なので、仕方なく射殺しました」と報告しちゃうぞ、てなノリに見えるじゃん……。

 あくまでも1対1で戦えば良かったのに。
 フェルナンドもロドリーゴも私怨でここまで来た男だから、ふたりがかりで殺さなければならなかったのだろうけど。
 フェルナンドは私怨ではなく、ロドリーゴのみにしておけばよかったんだ。
 ロドリーゴとルカノールの1対1の決闘、フェルナンドは剣を収め、それを見守る。たとえロドリーゴが苦戦しても、手出しはしない。仁義を守る。
 少しでも、卑怯さを払拭して欲しかったよ。

 さて、私怨でつながったフェルナンド、ロドリーゴ、ラモンだけど。
 彼らに友情関係がないのは、何故ですか?

 利害の一致がなければ、一緒に行動はしなかっただろう男たち。
 フェルナンドはロドリーゴもラモンも好きじゃないし、ロドリーゴもラモンも、それぞれ互いに好意も興味も持っていない。

 男3人がメインキャラなら、友情を期待するじゃないか……。萌えも期待するじゃないか……。
 なんでこいつら、こんなに互いに興味がないの?

 私怨で話がまとまる場面以外に、友情がわかるエピソードがない。それぞれ自分の恨み辛みに夢中で、他人に興味がない。
 ラモンに対しては「利用できる」とわかった途端の手のひら返しの他、ラモンの惚れている女を取って平気っつーかそもそも忘れてるだろ、とか、「ケガをしたのがラモンで良かった」というエピソード(コメディタッチ)とか、復讐が済んだらはいサヨナラ、「お前とは所詮住む世界が違うんだ」と言わんばかりの別れ方、とか。すげぇよ。
 お貴族様のふたりは、卑しい平民には一線を引き、決して心は開かなかったのね……。ラモンもそれをわかったうえで、一線を引いてつきあっていたのね……。

 ロドリーゴとラモンは、せっかく最初反目していたのだから、互いを認め合うエピソードのひとつは欲しかったのだけど。
「妹を殺された=これで私怨仲間」でよーやく握手、って……人間には、利害関係しかないものなの? もっとなにか、美しいものがあってもいいんぢゃないの?

 「描かれていないだけで、本当は信頼し合っていたの。友情があったの」という言い訳はナシよ。描かれたことだけを指摘しているのだから。

 フェルナンドがロドリーゴをどーでもいーと思っていたことは、彼のラストの台詞からもよーっくわかる。
「私のシルヴィアが死んだ」と言うロドリーゴに、「私のイサベラも死んだ」と返すのは……いくらなんでも、無神経過ぎるだろう。

 実際、恋人が自殺した直後の人の前で、同じ台詞を言えるか? ふつーの感覚を持った人間なら。
 たしかに、フェルナンドとイサベラは別れ、二度と会うことはない、永久の別れなんだから「死」と同じことだとしても。
 でもソレは、フェルナンドの心の内だけのことで。

 物理的な「死」を体験した人に、ソレを言うのは……。

 他人に対し、少しでも思いやりや想像力を持てる人間なら、絶対に言わない。言ってはならない。
 お茶の間でテレビを見ているわけじゃないんだよ。亡くなった家族や恋人を嘆く人のニュース映像を見て、無関係な人や事件を見て感想を言っているわけじゃないんだよ?
 友だちだよ? 知っている人だよ?

 ほんとうに、他人のことをなにも考えられない人だったんだ。

 ロドリーゴのことも、ただ利用していただけだったんだ。彼の心の痛みに心を動かすことすらなく、自分の心のことしか考えられないんだ。

 とまあ、ラストのひとことは『バレンシアの熱い花』という物語を集約する、すばらしい名言でした。
 言いなり、私怨、卑怯、利用、自己中。
 ラストでわたしは膝を打って感心しました。

 まさか、ここまで完璧にフェルナンドという男を「愚かで卑劣」と筋を一本通し、彼のひどい物語を描ききるなんて、と。

 や、さすが柴田せんせというのか、キャラはブレていないし、筋も壊れていないの。
 フェルナンドが「愚かで卑劣」で、レオン将軍に利用されているだけ、と、すげーわかりやすく起承転結辻褄あってるの。エピソードのひとつひとつ、ラストのキメ台詞までが、正しく機能している。

 物語としての骨組みはしっかりしてるけど……。
 でもソレが、主人公がアホでかっこわるいという骨組みなのは、どうなのよ。

 そのうえ、この男には二股という要因も加わるからねえぇ。
 お貴族様な婚約者と、卑しい踊り子。どちらにもいいカオしてますぜ、てな。

 まあ、女ふたりに対しては演じ方次第でどーにでもなるレベルの描き方なんで、作品について語る今ははぶいておく。

 フェルナンドが私怨ではなく、義に生きる男だという設定ならば、ルカノールとの一騎打ちもロドリーゴで済むし、イサベラとの別れもそちらを強調することでよりスムーズになるんだが。
 義に生きるフェルナンドはイサベラを人生から切り捨て、愛に生きるロドリーゴは愛ゆえの憎しみで闘いに参加し、結局その愛(シルヴィア)を失う、と、これまたラストが栄えるのになあ。

 男3人の、「私怨」とは別の友情シーンを描く。
 コメディタッチでラモンを利用しようと口説く銀橋いらないから、男3人で飲んだくれるとか、彼らだけの場面を。
 身分を超えて、利害を超えて、信頼と友情があることを、エピソードで教えてくれ。
 とくに、ラモンとロドリーゴがわかりあう場面は必須。これがないと、ほんとにただの「利用価値」だけになってしまう。

 
 一本筋が通って「愚かで卑劣」な男の物語だから、フェルナンドを救うためには、設定をひとつひとつ全部逆にしていくしかないの。

 えー、上のまとめ箇条書きの続き。

・正義ですから!と、2対1、3対1の決闘→もちろん、1対1で
・利害のみでつながった関係→友情
・他人の心の痛みなんぞ興味なし、自分だけしか大切じゃないもん→思いやれ、自分の心の痛みを振り切って、友人のことを思いやれ

 てなことで、救いたいです、フェルナンド。
 ほんとに、アレじゃあんまりだ。


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